第29話 始まる勉強の日々
“-----”
“カリカリッ、シャッー、カリカリ--”
「.....」
(この式は確かこういう図形になるよな。そうなってくると、こことここを求めたらいいはずなんだが...)
湊斗は静寂に満ちた自室で数学の問題を解いていた。数学界では有名な参考書と何処にでも売っている大学ノートを机に開いて勉強机に向かう。それからしばらく経った頃、湊斗は一つの難問に出くわしており、少しばかり苦戦していた。
「だめだな、分からない問題に時間を掛ければいいっていう訳でもないしな」
ここは参考書の解答解説を見るのもいいのだけれど、湊斗にはせっかく同じ部屋に征華学園のトップに君臨するお方がいるので、この立場を利用しないのは勿体ないだろう。そう思い、ひとりだと煮詰まってきたのでひとまず救世主の名前を呼ぶ。
「れいか〜、少し数学教えてくれると有難いんだけどー?」
「ちょっと待っててねー、すぐ行くからー」
(忙しくしてたら申し訳なかったな...)
すると、晩ご飯をつくっていたのかキッチンの方から返事が聞こえてきたので、湊斗は少し申し訳なさを覚えた。
“コン、コン、コンッ”
「みなとくん、入るよ?」
“ガチャッ”
見ると麗華はいつもと同じクロネコの刺繍の入ったエプロンを着ており、髪も組紐でひとつに結んでいて、今更ながらなんだか麗華は
「ごめんね、夜ご飯つくってたよね」
「あ、大丈夫だよ。ちょうど待ち時間だったし」
「それならよかった」
「それで、どこが分からないの?」
「あ、うん。この問題なんだけどさ、図形書いてもなかなかピンとこないんだよね」
手元に広げている参考書とノートをひとまず麗華に見せながら今どこで
「えっとね、まず数学には難しい問題と簡単な問題があるでしょ?」
「う、うん」
(あれ、この問題を教えて欲しかったんだけど、この問題と今れいかが話そうとしてることは何か関係があるんだろうか)
湊斗が教えて欲しかった問題の話はせずに、麗華は数学という大きな分野から話し始めたので、湊斗は少し戸惑ったものの麗華の話を聞かないなんてありえないので、取り敢えず素直に聞いてみる。
「そこでね?この問題は世間一般に難しい問題として扱われると思うんだけど、実はそんなに心配しなくても案外解けるんだよ?」
「え、そうなのか?」
そんなことを言ってしまったら、世の中の文系の人たちは苦労しないだろう。と思ったが、この続きも気になるのでこのまま耳を傾けることにした。
「うん、数学で難しい問題とされるのは、単にその一つの問題で多くの公式を使ってるだけなんだよね」
「というと?」
「つまり、一つの問題で解くのに必要な公式が少ないほどその問題は簡単ということだね」
ざっくり説明すると、イメージとしてはこんな感じだ。ぱっと見て難しい問題というのは、その問題を解くのに必要な公式が見えてこなかったりして多くの生徒が頭を悩ませるのだ。しかし、その問題を公式一つで解けるのなら、それは比較的簡単な問題ということになる。
「もっとわかりやすいように、例を出してみるね」
「うん、助かるよ」
「じゃあ、みなとくんに質問です。三角形の面積を求める公式を答えなさい」
「そんなの簡単だよ。底辺×高さ÷2 だよね?」
「そうそう、じゃあ次の問題にいくね?」
「うん」
これは小学校で習う範囲で、もどかしさを感じるかもしれないが、少々付き合っていただきたい。これを聞いていると、もしかしたら数学への見方が良い方向へと変わるかもしれないのだ。良ければ頭の中で思い出しながら一緒に聞いてみて欲しい。
「じゃあ次は、三角錐の体積を求める公式を答えなさい」
「これはあれだね、まずは底面である三角形の面積を求めて、三角錐の体積の公式に当てはめればいいんだよね?」
「そうそう。ちなみに三角錐の体積の公式は
1/3 S hだね。さっきの三角形の面積を求めるのとどっちが難しいかな?」
ちなみにS=三角形の面積で、h=三角錐の高さである。
「それは当たり前だけど三角錐の体積を求める方だな」
「そうだよね、三角形の面積を求めるには公式一つを使えば解決だけど、三角錐の体積を求めるんだったらそうもいかないよね。つまり、難しい問題の特徴として使う公式の数が3つや4つになってるから、難しく思い込んでしまうんだよね。まあ、例外も もちろんあるんだけどね」
「なるほどな。つまり、難しい問題は単に公式の数が多くなってるだけだから、そんなに身構えずに考える方が案外解けたりするのか」
「この問題もそれと同じで、一見すると手も足も出ない気がするけど、絶対どこからかアプローチするところはあるからもう1回考えてみようよ」
こんなに丁寧に教えてくれるとは思っていなかったので、湊斗からしたら本当に有難かった。それに、麗華はただ ただその問題1つの解き方を明示するのではなく、幅広く活用できる考え方を教えてくれたので、麗華はこの短時間で実質数え切れない問題への解決の糸口を教えたことになるので、流石は征華学園トップは伊達ではないことも分かったし、麗華はやっぱり凄いなと思う湊斗だった。
「ありがとう、もう一度考えてみるよ。だかられいかはもうご飯の用意に戻ってて大丈夫だよ」
晩ご飯をつくっている合間に、ここまで色々と教えてもらったのだから、流石にこれ以上は自分の力でやるべきだと思った。
「わかった、それじゃあまた分からないところがあったら遠慮なく言ってね」
「うん、ほんとにありがとう」
“バタンッ”
(なんで れいかはあんなに優しくしてくれるんだろうか。それにしても本当に俺は幸せものだよな...)
そんなことを時々ふと思うが、やはり大切な人に全身をもって尽くしたいと思うのが愛なのだろう。
「もう一度 式 立て直して考えるか、」
--数分後--
「あ、なるほど。そういうことだったのか」
どうやら麗華の言っていたことを意識しながらやってみると、無事に解けたようだ。
(いっぺんに考えるんじゃなくて、1つずつ公式使って消化すると良かったな)
麗華からのアドバイスを、上手く自分なりに落とし込めたようだ。
「よし、今日はここら辺にして...いや、夜ご飯食べて休憩したら寝る前に暗記教科やっとこう」
湊斗は稜真に勝つために、計画的に行動するようになったのであった--
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