第28.5話 ずっとこのまま


“ガチャッ”


「ただいま」


「おかえりなさい、みなとくん」


湊斗はちょうど学校から帰宅したところだった。


「ごめん、先にれいかに言っておかないといけないことがあるからちょっといい?」


帰ってきて、そうそう何やら真面目な話をするような顔つきの湊斗を見て、麗華はひとまず話を聞くことにした--


「それでどうしたの?みなとくんが話なんて珍しいね」


「あの、実は...」


何か話しにくいことなのか、なかなか続きを言ってくれないので麗華は少し心構えをした。


「あの、実はですね...」


「うん」


「学年2位の一色稜真っていう人がいると思うんですけど、」


「うん、そんなに畏まらなくても...」


湊斗が麗華に畏まって話すのは、麗華からすると違和感でしかなかったが、そんなものはお構い無しに湊斗は続ける。


「その、稜真と次の中間考査で勝負をすることになりましてね?」


「おー、それはなかなか厳しい戦いになるね」


「はい。なのでここから中間考査まで勉強を頑張ろうと思いましてですね...」


「うん、いいことじゃん!」


「しかしですね、そうなってくるとちょっと勉強したくらいで稜真には勝てないと思うんですよ」


「そうだねー、一色くんは相当頭が良いからね。私もいつ抜かれるか実はちょっと心配してるんだよね笑 で、それがどうかしたの?」


「勉強してたられいかの家事を手伝うのとかもなかなかできなくなると思いましてですね...」


つまるところ、湊斗は中間考査までこれから勉強で忙しくなるから麗華の家事を手伝えなくなったり、部屋に籠ってなかなか かまってあげられなくなってしまうのが申し訳ない。と思っているようだ。


「あ、それなら全然大丈夫だよ。私も勉強するし、家事も全部任せてくれていいよ?まぁでも、たまにはかまって欲しい...かも?笑」


赤らめた頬を白くて美しい人差し指でかきながらそんなことを言ってくるので湊斗は今にも抱きついてしまいそうだったが、そこはしっかりと抑え込んでありがとう。と受け入れてくれたことに対して感謝を伝える。


「そうか、ありがとう。れいか」


「いいよ、何かに頑張ることは良いことだし、みなとくんが頑張るなら私はどこまでも応援するし、いつまでも隣で支えつづけるから」


しれっとそんなことを言う麗華に対して湊斗は言葉では表しきれないこの気持ちをどうにか抑え込んで我慢していたが、ついにそれも抑えきれなくなった。


「れいかっ、」


“ガタッ”


「えっ、ちょっと、みなとくん!?」


思わず湊斗は麗華を抱きしめていた。両腕の中で温もりを感じ、全身で言葉にならないこの気持ちを伝える。


「ごめん、少しだけこうさせて」


「そんなにがっつかなくても、私はどこにもいかないよ?」


「.....」


(俺だって、れいか からは何がなんでも離れないよ)


この穏やかな雰囲気が生涯にわたりますように。この温かな気持ちが、いつまでも冷めやらぬままでありますように。ただ今は、今だけはそう願うばかりだった--

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