第28話 少し用があるんだけど...
“ピピピッ、ピピピッ--”
「ん、朝か...ふぁ〜」
今日は休みが終わり誰しもがその朝を来て欲しくないと願う憂鬱な月曜日は目覚まし時計に起こされる。少なくとも湊斗もその内のひとりだった。
(なんだか眠いし身体重いし...)
しかしそうも言ってられないのが学生である。学校は決まった時間に始まるし、決まった時間に授業が始まり決まった時間で終わる。その定められた時間は子どもにしろ大人にしろ守らないといけないのである。湊斗は仕方なく重い腰を上げて登校する準備を整える。
“バタンッ”
「あ、れいかおはよう」
「おはよ、みなとくん。今日はいつもより遅かったね」
「うん、なんだか休日を満喫しすぎたせいか学校のことなんて忘れてたよ笑」
「ねー、この二日間はいつもの休みの日よりもかなり濃密な時間だったよね笑」
夢の世界からいきなり現実に引き戻された感じだったので、その落差によって受けるダメージは湊斗にとってなかなかのものだった。
「でも、俺にはれいかの美味しい手料理があるから、こんな日でも朝から頑張れるよ」
みんなにも食べさせてあげたいくらいだ。なんせ麗華の手料理は幸せの味がするのだから--
※※※
「あ、一条くんおはよー」
「おはよう、
学校に着いて教室に入ると、いつもの事ながら湊斗よりも先に登校した
「一条くんは休みの日は何して過ごしてたの?」
「この二日間は結構充実した時間だったよ。久しぶりに懐かしい場所に行ったりさ」
麗華と一緒に行ったとは言わない。なぜなら麗華と一緒に出かけたなどと言えば、この学校で騒ぎになってしまうからだ。それを避けるため湊斗は大まかなことしか心白には伝えない。
「へぇ〜、いいね!思い出巡りとか私もやってみたいな〜」
「うん、案外何も変わってなくて昔のままだったから嬉しかったよ」
「ちなみに一条くんはどこに行ったの?」
休日はどこへ思い出巡りに行ったのかを聞かれたが、それくらいなら別に教えても問題ないだろうと思い、その場所(町)の名前を言う。
「あ、そうなんだ」
「天宮さん、もしかしてその町知ってるの?」
なぜか湊斗が言う町の名前を聞いて心白はあたかも知っているような素振りを見せたので、もしかして行ったことなどあるのではないかと思う湊斗だったが--
「う、ううん。その町のことは全然知らないし、今初めて聞いたよ」
おずおずとした物言いだったので、少し不思議に思う湊斗だったが、どうやらそれは湊斗の勘違いだったようだ。
「あ、そうなんだ。でも、もし良かったら気分転換にでも一度行ってみるといいよ。あそこは自然が豊かだから」
「そうだね。ありがとう」
心白とそんなことを話していると、教室のドアでキョロキョロと誰かを探しているような様子の、学校のアイドルと謳われている一色稜真が見えた。すると、クラスの大半の女子たちは目線を稜真に向けて、何やらヒソヒソと内緒話をし始める。
「ねえ、見てよ。一色くんがどうしてここにいらっしゃるのかしらー」ヒソヒソ
「たしかに、滅多に他クラスなんて行かないのにね」ヒソヒソ
どうしたのだろうと思っていると、数人のクラスの女子たちが稜真にここぞとばかりに話しかけていく。
「一色くん、どうかしたの〜?」
「何か私たちに用かな〜?」
「そんなわけないじゃないの〜。ねぇねぇ、一色くんは本当は私に用があるんでしょ?」
「「「きゃーっ♡」」」なんて言ってその女子たちだけが異常に盛り上がっているのだが、
「あ、ごめんね。僕はあそこにいる一条くんに用があって来たんだ」
それを聞いたその女子たちは“キィッ”と容赦なく鋭い眼光を向けてくる。周りの女子たちも「一色さんがあんな奴にご用?」「ほんと、ありえないわー」などと自然と耳に入ってくるので何もしていない湊斗からしたら、とんだ迷惑だった。
(そ、そこまで言わなくてもよくないか?)
そんなことを思う湊斗だったが、教室のドアで待つ稜真の元へと渋々席を立ち足取り重く向かう。
「ごめんね、朝から」
「いや、それは問題無いが俺に何か用か?」
「ひとまずここで話してたら注目集めちゃうし、どこか別の場所で話そっか」
ここでは廊下を歩いている生徒や、普通にクラスの生徒たちに丸見えなので自然と注目を集めてしまい、お互い話しにくいので場所を移すことにした。
※※※
「で、どうしたんだよ。話しって。寒いから手短に頼むぞ」
ふたりは朝の誰も居ない屋上へと場所を移し、朝の低い気温と屋上に吹く風が少々肌寒さを感じさせる。
「うん、そうだね。それじゃあ、手短に話すけど僕たちの勝負は忘れてないだろうね?今は一旦休戦のような形で一緒に買い物とか行ってたけど、あれとこれとでは別だよ」
稜真の言う勝負とは、次に待ち受ける中間考査で湊斗と稜真で順位の高かった方が勝った方の願いを1つ受けるというものだ。確かあの時のお互いの願望としては、湊斗は麗華のことを悪魔と呼ばずにちゃんと名前で呼んで欲しいという感じで、稜真の願望は麗華を自分の恋人にする。というざっくりとするとこんな感じだ。
「ああ、忘れるわけないさ」
「そう?それなら良かった」
(なんだ?こんなことを確認しにわざわざ呼びに来たのか?)
これだけの用なら別に呼びに来て確認するほどでもないだろうに。と思う湊斗だったが、どうやら本題はここかららしい。
「そこでなんだけど、もし良かったらお互いの願いをここで一度改めないかな?」
「どういうことだ?」
「いや、僕が少々大人気なかったという話だよ。それに、君から一ノ瀬さんは奪えなさそうだしね」
「なるほど」
どうやら稜真は自分が今から始めようとしていることが、愚行だったことに気がついたようで、麗華への呼び方ももちろん普通にすると言っている。そもそも、稜真はこのような事をするような人間では無いので日が近づくにつれて違和感を覚えたのだろう。
「まぁ、そんなことなら全然こっちも問題無いから改めてもいいが、いったい何に変えるつもりなんだ?」
「ここは高校生らしく、負けた方が勝った方に何か奢るってことにしない?」
「ははっ、随分と丸くなった願いだな笑」
「それじゃあ、奢るのは焼肉にしない?この手で勝ち取って食べる肉は美味しいと思うんだよね」
「わかった、それじゃあどうやらその肉は俺の方が美味しくいただけるみたいだな」
「ご冗談を、僕が勝つに決まってるじゃないか」
「油断してたら足元すくわれるかもな笑」
「ふふっ、望むところだよ。
「おい、やめろよ。なんだかむず痒いから」
「もうバチバチじゃなくても良くない?名前で呼ぶくらい いいじゃないか」
「まぁ、別にいいけど...」
「なんでそんな嫌そうな顔するんだよ、ほら湊斗も名前で呼んでみなって」
「.....」
「一度呼んでみたらどうってことないよ」
「それじゃあ、り、
「はい、よくできました〜」
「おい、そろそろ手が出るかもしれないんだが」
「それはちょっと遠慮しておこうかな」
「「.....」」
お互いなぜか同時に顔を見合わせた。
「ぷっ、」
「「あははっ」」
「なんでこっち見てんだよ笑」
「いや、それはこっちのセリフだって笑」
この二人は普段はこんな感じだが、やっぱり本当は仲が良いのだと思う。
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