第23話 麗華の実家にて。その3
「んっ、みなとくん...」
(その顔はずるいよ、れいか...)
一度唇を離すと、麗華は潤んだ子犬のような。まだどこか物欲しそうな顔をして上目遣いで湊斗を見つめる。これ以上は理性がもたないと思い、湊斗は身体を起こそうとしたその時--
「やだ...」ボソッ
「っ、!?」
“ドサッ”
湊斗の首に両手を回し、今度は麗華から湊斗に唇を重ねる。麗華の予想外の行動に湊斗は動揺を隠せなかったが、麗華からのキスは先程と同じように優しく丁寧に。しかし、先程よりもほんの少しだけ激しさを増したような気がした。
「れいか...」
湊斗はゆっくりと瞼を開けると、これ以上縮まりようのない距離を感じたと共に麗華がまるでかぐや姫のように月に帰ってしまい、自分の傍から消えてしまうような。そんな言葉にできない儚さを覚えた。
「みなとくん...」
麗華は恍惚とした表情を浮かべる。真紅の瞳に映る自分を見た湊斗は現実に引き戻されるような感覚に襲われると同時に、安堵の気持ちが湊斗を包んだ。
「れいか、もう身体冷えちゃったし部屋に戻って暖かい布団で寝よう」
「そうだね」
美しい夜空の下で冷たい夜風に少し肌寒さを感じた頃。お互いを想う心の温もりだけは、1℃たりとも冷めることはなかった--
※※※
「れ、れいか...?」
「えへへ、どうしたのみなとくん?」
「それで、なんで俺たち同じ布団で寝てるんだっけ?」
「え?だからそれは--」
遡ること数十分前。あれから湊斗と麗華はふたりで二階にあるそれぞれの自室へと足を運んだ。しかし、何故かは分からないが用意されていたはずの湊斗の部屋のドアに、お風呂に行く前には無かった一枚の白い紙が貼ってあった。それには赤いペンであからさまにこう書かれてあった。『入室禁止!!!』と、湊斗はそれを見た瞬間に、年齢とは反するほどの美貌をもった一人の女性が頭に浮かび上がってきた。
(恵さん...これはどういうことですか...)
その時恵さんが何をしたかったのかよく分からなかったが、それから数十分後に湊斗は恵さんの思惑にまんまとはめられ、頭を抱えるどころか全身を抱えることとなる。
「ねえ、みなとくんの身体半分出てるよ。それだと風邪引いちゃうからもう少しこっちに来てもいいんだよ?」
薄暗い部屋でもはっきりと分かる赤い瞳で麗華はそう言う。
「実は、いつも身体半分出して寝てるんだ.....」
あからさま嘘が麗華に通じるわけもなく--
「そんなわけないでしょ?」
「はい、すいません」
「なんで謝るの?」
(だ、誰か助けてください。一晩中これだと心臓と理性がもたないと思います...)
そういうわけで、麗華の部屋で布団を敷いたところ床で寝るわけにもいかず、麗華と一緒に同じ布団で寝ているのだが、さすがに高校生二人がすっぽりと入れるわけもなく、密着しないことにはどうしようもなかった。
“ゴソゴソ”
「あったかいね」
「う、うん...」
(色々当たってるよ...)
湊斗は渋々布団に入り、さすがに向かい合わせで寝るわけにもいかず、麗華の引っ込むところは引っ込んでいて、出るところはしっかりと出ている凹凸を感じながらも、背中を麗華に向けて寝るのが精一杯だった。そんなことは露程も知らない麗華は少しして眠りについたのか、スヤスヤと一定のリズムで呼吸し始める。
「れいか、まだ起きてる?」
「.....」
(もう寝たのかな、まあ今日一日ずっと外にいたから疲れてるよな)
「ふぁ〜」
気が緩んだと同時に睡魔が湊斗を襲い、思わずあくびが出た。
(俺もそろそろ寝ようかな...)
そうして湊斗が最終的に眠りについたのは時計の針が午前3時を回った頃だったという。
※※※
ここは楽園。もしくは天国。いや、恐らくその両方かもしれない。つまるところ湊斗は夢を見ていた。
「ここはどこだ?」
辺りを見渡せばひたすら真っ白な空間が広がっており、薄い霧のようなものが漂っていた。下を見ればその先はただただ雲で埋め尽くされたような光景だった。
“スタスタ”
「.....」
湊斗はどこに向かっているのかも分からないまま、何かに引き寄せられるように果てしない白の世界を歩いていく。
「あれはなんだ?」
特に何もなく、同じ景色をしばらく歩いていると少し先に天に昇る白い階段が見えたので、駆け寄ってみる。
「なんだこの果てしない階段は...」
(この先に何があるのか気になるし、登ってみるか)
湊斗は興味本位で天に続く真っ白な階段を一段一段ゆっくりとひたすら登っていく。
--数時間後--
「はぁ、はぁ、少し疲れてきたな...」
しばらく登ってはいるものの、天に果てしなく続く階段は全くゴールを見せてくれない。そこで少し座って休憩していると--
“ゴンッ、ゴロゴロ--”
「え?な、なんだこの音?」
突然背後から勢いよく迫ってくる大きな音が聞こえてきたので、湊斗はすぐさま後ろを振り返る。
「な、なんだって!?」
そこには突如として現れた白い球体がどういう
“ゴロゴロゴロ--”
(ま、まずい。ぶつかる!!!!)
凄まじい勢いの白い球体がぶつかる寸前、湊斗は死を覚悟して目を瞑った--
“ふにゅっ”
(あ、あれ?生きてる、のか...?)
特に激痛が全身を襲うこともなく、湊斗は自分が無事であることを確認したと同時に、どこか息苦しさを感じて湊斗は目を覚ました。
「く、苦しい...」
(な、なんだ?)
散々な悪夢を見た湊斗は重い瞼を開けると、自分の顔が麗華の立派な純白の胸に埋もれていることに気がついた。
「んっ、」
「なっ、!?」
時刻:午前7時12分
羨ましくも湊斗は麗華のたわわで起床した--
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