第19話 お花でできた、懐かしの冠
「みなとくん、あの赤いお花とってくれる?」
「はいどうぞ」
「ありがと」
どうやらもうすぐ完成するようで、当時まだ幼かったふたりが作ったのとまったく同じ花を使い、今出来上がりつつある花の冠は、あの時と何ひとつ変わらない想いで形作られていた。
「あともう少しだね」
「うん、あとはこのお花をつけたら完成かな」
出来上がった花の冠は、あの時とは違って不格好な形ではなく、きちんと美しい輪になっていた。
「できたね」
「うん」
当時の記憶がフラッシュバックするような、思い出深いふたりでひとつの
「それじゃあ、改めて...」
「ふふっ、なんだか恥ずかしいな」
そう言って湊斗が麗華の頭に、花の冠を被せようとしたそのとき--
「あ、ちょ、ちょっと待って」
「ん?どうしたの、れいか」
何故か麗華がストップをかけた。
「あ、いや、その...今度は私からいいかな?」
前回は湊斗が麗華に花の冠を渡したが、今度は麗華が湊斗に花の冠を渡したい。と言うのだ。
「.....」
湊斗が少し考えていると、
「だ、だめかな?」
麗華がそう言うので、湊斗は断るなんて選択肢は無かった。
「うん、ちょっと恥ずかしいけど大丈夫だよ」
「わかった、それじゃあ一つ聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
(今になって聞きたいことなんて何だろうか)
湊斗が聞き返したので麗華はコクリと頷いて、ゆっくりと口を開く。
「みなとくんは、私の旦那さんになってくれますか?」
それは幼き頃に湊斗が麗華に言っていたことと、本質的に同じことだった。それは、この物語を思い返してみれば分かるだろう。
(あぁ、そういうことか)
麗華は湊斗に当時「私はみなとくんのお嫁さんになる」と言っていた。つまり、今はあの時とは立場が逆なので、次に湊斗が言うことは自然と決まっていた。
それは--
「うん、俺はれいかの旦那さんになるよ」
「えへへ、自分で言わせときながらなんだか恥ずかしいね...」
「昔れいかは俺に言ってくれてたけど、俺はれいかに言ってなかったもんね」
「うん、だからちょっと みなとくんに言われたくなっちゃった」
麗華は少し顔を俯かせながら作った冠を湊斗に渡し、恥ずかしさ故に真紅の瞳を湊斗に気づかれないようにする。
「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」
「うん、そうだね」
もうすでに太陽は沈み始めており、明日は日曜日とはいえもうそろそろ帰らないといけなかった。
「ふぅ、本当に今日は良い日だったね」
「そうだね、すごく大切な一日になったよ」
夕焼けをバックにしながら、今では何回歩いたのかも分からない土手沿いを昔と同じように麗華とふたりで歩く。
「でもなんだか寂しいな」
ぽつりと麗華が呟いた。
「そうだね、やっぱりこの町を離れるのは時間があればすぐ来れるとはいえ、少し寂しいよね」
せっかく長い歳月を経て、久々に帰ってきた湊斗と麗華なので、どうしても一日だと名残惜しくもなる。
「だから帰りの電車に乗って帰るまでは、この町の風景を目に焼き付けておこうよ」
土手沿いから町を見渡してみる。そこには、すでに家の電気を灯している家庭もあるし、夕飯のカレーの良い匂いもする。いずれにせよ、家族の明かりがふたりには見えていた。
「私たちもあんな風に幸せな家庭を目指したいね」
そう麗華は言って、穏やかな気持ちでゆっくりと駅に向かうふたりであった--
※※※
「えーっと、今が6時だから次の電車は6時10分だね」
駅で帰りの電車を待っている時に、麗華の携帯に一通のメールが届いた。
「ん?誰だろう」
そう言って麗華は携帯を開いてみると、麗華のお母さんからメールが来ていた。メールの内容はこう書いてある。
【久しぶりに戻ってきたって言うから、せっかくだから家にも顔を出してくれたら嬉しいな。今日の夜ご飯は、麗華の好きな筍の炊き込みご飯を作ったから、遠慮なく来てね。麗華はいつも頑張りすぎるから、体調崩さないようにね。お母さんより】
麗華は湊斗が居なくなってから数年間の間は、かなり酷い状態だったので、それを踏まえて麗華のお母さんは優しい文章で、あくまで麗華が良ければという想いで送られてきた。
「誰からだった?」
「お母さんから...」
「なんて送られてきたの?」
「良かったら今夜帰ってきたら嬉しいなって」
「れいかはどうしたいの?」
「私は別にいいんだけど、お母さん達は今の私を知らないから驚くだろうし、みなとくんもいるし...」
(あー、なるほど。つまり、元気になったれいかをれいかのお母さん達は知らないのか)
「俺は全然大丈夫だし、今の幸せなれいかをお母さん達は知らないんだったら、尚更行こうよ」
我が子の幸せを誰よりも願っているのは、産んでくれた両親だ。
「そうだね。びっくりするだろうけど、元気になった娘を見て安心させてあげた方がいいよね」
「うん、きっと喜んでくれるよ」
こうして湊斗と麗華は帰りの電車には乗らずに、久しぶりに麗華の実家を訪ねることにしたのであった--
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