第17話 懐かしの場所に帰ってきた


「れいか、そういえば今何時かな?」


「えーっとね、11時だね...笑」


ふたりは本来9時からの電車に乗る予定だったが、どうやらお婆さんを助けるのにいつの間にか2時間も経っていたようだ。


「今から電車に乗って行くと、12時過ぎくらいに着くのかな?」


「そうだね、でもちょうどお昼だし着いたらお昼ご飯食べようよ」


「いいね、そうしよう」


「それじゃあ、心機一転して行こっか」


「そうだね」


そうしてふたりは再び駅に歩き出した。


「それにしても、さっきのお婆さんからもらった組紐とってもれいかに似合ってるね」


「ねー、すごい綺麗な組紐だよね。おばあちゃんがどれだけ丹精込めて作ったのか分かるよね」


麗華の美しい黒髪に色彩豊かな組紐が相まって、麗華だけでなく組紐自体も喜んでいる気がした。なのでいつにも増して魅力的に思う湊斗だったが、それを感じたのはどうやら湊斗だけではないようで、道行く人にもこのふたりの幸せな空間はじんわりと伝わっていた。


「ねー、ママみてーわたしもあれほしいー」


「そうね、綺麗ね〜」


通りすがりの子どもが、麗華の組紐を見て羨ましそうにそう言う。


「ふふっ、なんだか嬉しいな」


「そんな風に言われるのって、子どもは純粋な分とっても嬉しいよね」


「うん、あの子も大きくなったらオシャレとかするようになるんだろうなー」


「れいかがあのくらいの時って、やっぱり女の子だからオシャレとかしてみたいって思ってた?」


「んー、そんな明確にオシャレをしたいとは思ってなかっただろうけど、やっぱりピンクのハートだったり、何かキラキラしたアクセサリーだったりはそれなりに集めてたかもね」


幼き頃の自分を思い出して「なんだか懐かしいな...」なんて言う麗華だった。


「あ、もうすぐ駅に着くんじゃないかな」


しばらく歩いているので駅が見えてきた。


「ほんとだ、今が11時20分だから11時30分の電車に乗ろっか」


「そうだね、そうしようか」


そうして9時の電車に乗る予定だったが、来る途中で色々とあって、結局 湊斗と麗華は2時間30分遅れて11時30分の電車に乗ることになった。


※※※


“ガタン、ガタン--”


(なんだか少し予定とは違うけど、お婆さんも無事助けれたし、向こうに着いたらちょうどお昼時だし、良い一日なのかもしれないな)


電車の一定のリズムに揺られながら、湊斗はそんなことを思っていた。隣に座る相変わらず美しい女の子は、どうやら少し疲れたようで電車の子守唄に身を任せて、うとうと としていた。


「れいか、向こうに着くまであと1時間くらい掛かるからゆっくり休んでていいよ」


「ん、みなとくん...ありが、とう...」


“こてん”


麗華は眠たそうな声でそう言って、湊斗の肩に頭を乗せた。


「っ、」


それと同時に湊斗の心臓が跳ねた。しかし、麗華を起こさないようになんとか反応を最小限に抑えた。


(うぅ、すぐ隣かられいかの良い匂いが...)


“ガタン、ガタン--”


静かな車内の中で、湊斗の鼓動はそれに反するように激しく胸を打ちつけていた。


(これは1時間も耐えられる気がしないんだが...)


「どうしたものか...」ボソッ


結局 湊斗はここから40分近くなんとか耐え続け、車内の窓から都会から田舎へと移り変わった景色が見え始めた頃に、ようやく麗華が目を覚ました。


「ん、あれ、私どれくらい寝てたのかな...?」


「んーっと、よ、40分くらいじゃないか?」


「みなとくん、もしかして疲れてる?」


麗華に身を寄せられて、湊斗はしばらくしたら慣れてくるのではないか。と考えていたが、結論は全くそんなことなくて、既に湊斗の体力は底をついていた。


「あ、ああ、少しだけ...」


「そんな顔で言われても全然説得力ないけど、気分転換に外の景色でも見てようよ」


そうして先程まで余裕の無かった湊斗だったが、麗華に言われた通りひとまず窓から外の景色を見ることにした。


(あ、懐かしいな...)


「見て!みなとくん!あそこって昔ふたりで水遊びした川じゃないかな?」


そうだ。あの川は浅くて水質も綺麗だったので幼い湊斗と麗華が遊んでも安全だった。


それに、様々な生き物が居たのでよく遊びに行っていた場所のひとつだった。そんなことを思っていると、どうやら間もなく目的地に着くようだ。


【次は○○、○○です。出口は右側です。】


車内アナウンスが流れる。


「よし、予定より少し遅くなったけどようやく着いたね」


「そうだね、私もうお腹空いちゃったよ笑」


「着いたらさっそくお昼にしようか」


「今日はいつもより気合い入れてお弁当作ってきたから、楽しみにしててね?」


(なるほど、いつもより早起きだったのはそういうことだったのか)


麗華の手には、白の布が被せられたバスケットがあったので、どうやらそこにふたりのお弁当や飲み物などが入っているようだ。


「それは楽しみだね」


そうして懐かしの場所に10数年ぶりに帰ってきた湊斗と麗華だった--

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