第15話 懐かしのあの場所へ
「おはよう、れいか。今日はいつもより早いね」
「おはよ!みなとくんこそ早いね」
湊斗は遠足前の子どものように、楽しみで普段より早く目が覚めた。
「うん、なんだか寝れなくて笑」
「奇遇だね〜、私もあんまり寝れなかったや」
「もうすぐ朝ごはんできるからちょっと待っててねー」
どうやらもうすぐ朝ごはんができるようなので、湊斗は身支度を整えるために洗面所に向かう。
“シャカシャカ”
(あの場所に行くのは本当に久しぶりだな...)
(いつぶりだろうか、10年くらい前になるのかな。あの場所は今どうなってるんだろう)
10年も経てば、その環境はがらりと変わっていてもおかしくはないし、今の時代どんどんと家が建てられているため、今ですら少ない自然は次々と破壊され、その場所は跡形もなくなってしまった。なんてことはざらにあるだろう。
湊斗は歯磨きをしながら懐かしい感情と共に、そんなことを思っていたら麗華が--
「みなとくん、朝ごはんできたよー」
しばらく身支度を整えていたら、どうやら朝ごはんができたようなので、湊斗は返事をする。
「はーい」
※※※
「「いただきます」」
今日は朝ごはんにぴったりな、白ご飯と味噌汁と鮭の塩焼きだった。加えて湊斗の大好きな和食だったので、湊斗の心が踊ると共に朝から舌鼓を打つというなんとも幸せな時間から一日が始まる。これが麗華と一緒に住むようになってから毎日なので、湊斗は本当に羨ましい限りである。
「それで、今日は何時くらいに家を出る?」
「うーん。今が7時だから、お昼前には着きたいよね。それじゃあ、9時くらいに出発する?」
「わかった」
女の子が外に出かけるのには、色々と準備をして時間が掛かるだろうから、湊斗は麗華の時間に合わせることにした。
「それじゃあ、9時頃出発する電車を探しておくね」
「うん、ありがと」
それからふたりは、普段の何気ない会話をしながら朝ごはんを食べ終えた。そして、いつも通りふたりで洗い物を済ませたので、それぞれ出かける準備を始める。
(んーっと、こんな感じかな?)
今日はデートはデートでも、思い出巡りなのであまり派手な服装ではなく、落ち着いた服で湊斗に似合うのを稜真に選んでもらった。
「やっぱりこんな感じの服は俺に似合うのか?」
全身を鏡で見て、今更ながら不安になってくる。というのも、湊斗に似合う似合わないではなくて、オシャレをした麗華の隣にいても恥ずかしくないのか。という方が心配だった。
“コンコンコン”
「みなとくん、もう準備できた?」
ちょうどその時、麗華が湊斗の部屋を訪ねてきて、ふたりはドア越しで話をする。
「あー、れいかはもう準備できたの?」
「私はあと少しだから、みなとくんもそろそろ出る準備しててね」
「う、うん。わかった」
(まずい、本当にこれでいいのかな?)
湊斗は要らぬ心配をしていたが、女の子とお出かけなんて人生で一度もしたことがない湊斗には、少々何かに悩むのは仕方のないことなのかもしれない。
それから少しして--
「よし、うじうじしても仕方ないし、これでいこう」
どうやらようやく決心がついたようで、財布とスマホをポケットに入れて麗華の様子を見に行く。
「れいかー、俺はもう準備できたよ」
麗華の部屋の前に来て一応言っておくことにした。
“バタバタッ”
「ん?」
麗華の部屋からなにやら大きい物音がするので、少し心配になった。
「れいか?大丈夫?」
“ガチャッ”
湊斗がそう言うと同時に、麗華の部屋のドアが開いた。
「ご、ごめん!ちょっと遅くなった!」
「大丈夫だよ、俺も今準備できたとこだし」
それより--
「れいか、その服すごい似合ってる」
「ほんと!良かったぁ」
麗華の服装は全体的にカジュアルな感じで、可愛らしいツイスト編みになっているミルキー色のラウンドネックセーターに、暗めの赤がベースのタータンチェックの入ったロングスカートで、非常に麗華に似合っていた。
そしてなんと言っても--
「それ着けてくれるんだ」
「えへへ、普段は大事なものだから着けられないけど、お出かけには絶対着けていこうと思って」
麗華の胸元を見ると、そこには湊斗が以前プレゼントしたベキリーブルーガーネットのネックレスが美しく輝いていた。それは贈った湊斗からすると、これ以上ないくらいに嬉しかった。
「すごく可愛いよ」
「えへへ、みなとくんだって、すごくかっこいいよ?」
真紅の瞳でそんなことを言われると、湊斗も少々恥ずかしくなってくる。
「ありがとう、嬉しいよ」
湊斗の服装はと言うと、大人しい雰囲気の灰色のグラデーションニットに、落ち着いた白色のバギーパンツでコーディネートした、湊斗も麗華 同様にカジュアルな雰囲気の服装だった。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
「うん!楽しみだねっ!」
そうしてお互いの準備が整ったところで、懐かしの場所へ向かった湊斗と麗華であった--
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