第14話 少し、いたずらをしてみたくなった

「うーん...」


(やっぱり何もしてない気がするんだけどな...)


とりあえず湊斗は、足取り重くしながらお風呂に入った。そして、帰ったときの麗華の反応からして、湊斗は自分が何かしたのではないかとばかり思っていた。


一方そんな湊斗を見て自分の部屋に駆け込んだ麗華はというと--


「はぁ、帰ってきて早々心臓にわるいよ」


(みなとくん、髪切ったんだ...)


どうして麗華が湊斗を見た瞬間にあのような反応をしたのかと言うと、湊斗は実際のところ顔は整っている方だし、加えて身体も程よく引き締まっているので、実は湊斗のルックスは普通にいい方だろう。


「前は髪で少し顔が隠れてたから、まだ耐えれたんだけど...」


やっと帰ってきたと思ったら、髪を切って少し雰囲気が変わっていたので、心の準備ができていない麗華は数秒ともたなかった。


「面と向かってみなとくんの顔見れないよ...」


「よし、ご飯作って気を紛らわせよう!」


そうして麗華は夜ご飯を作ることに集中することで、なんとかやり過ごした。


※※※


“ガラガラ--”


「お、なんかいい匂いかするね」


麗華がご飯を作っているときに、ちょうど湊斗がお風呂から上がってきた。


「あ、みなとくん、今日はたけのこご飯--」


「筍ご飯か、美味しそうだね」


「...」


「れいか?」


「え!?あ、そうだね!自分で言うのもなんだけど上手にできたと思う!」


「なんでそんなにテンション高いの?笑」


「べ、別にいつも通りだけど!?」


(うーん、やっぱり俺なんかしたっけ...)


やけに麗華のテンションが高いので、湊斗はやっぱり何かしたのではないかと心配になった。


「それじゃあ髪乾かしてくるよ」


湊斗は麗華の様子を見に来ただけなので、いつまでも髪を濡らしたままというわけにもいかず、乾かしに戻る。


「う、うん...」


動揺を隠しきれていない麗華は、辿々しくもなんとか返事を返したその時--


「ふぅ、」


湊斗がまだ少し濡れている髪を、手でかきあげた。


「ふぇっ」


「ん?何か言った?」


「い、いや、何も言ってないよ...」


(なんか聞こえた気がしたんだけどな)


こうして湊斗が髪を乾かしに行った後、


(や、やばい、みなとくん、かっこよすぎるよ...)


今の麗華から見た湊斗は、いつもよりも美化されており、麗華はずっと悶えていた--


※※※


「明後日のお出かけ楽しみだね、れいか」


「.....」


「れいか、やっぱり俺なんかした?」


「え?ごめん、聞いてなかった」


「れいかがぼーっとしてるなんて珍しいね」


「え、うん、そうだね...」


(なんでこんなに、ぎこちないんだろう)


(ここは素直に聞いてみるか)


「ねえ、れいか」


「な、なに?」


「なんか帰った時から、やけに余所余所しくない?」


「そ、そうだね...」


「どうしたの?」


ここまで余所余所しいと、どうしても心配してしまう。


「えっと、みなとくん、髪切ったんだね...」


「うん、それがどうしたの?」


「その...帰ってきたと思ったら、元からかっこいいみなとくんが、もっとかっこよくなってたから...」


(そういうことだったのか...)


「よ、良かったぁ...」


(俺が無意識のうちに、何かれいかにしてたわけじゃなかったんだな)


麗華の明らかに余所余所しい態度から、湊斗はいつの間にか麗華を傷つけてしまったのかと悪い方向に考えていたので、そうではないと分かってひと安心した。


しかし、そうと分かってしまった湊斗は麗華に少しいたずらをしたくなってしまった。


「「ごちそうさまでした」」


「そろそろ傷も治ってきたし、洗い物手伝うよ」


「ありがと、でも無理はしないでね?」


こうしてふたりで台所まで食器を持っていき、スポンジに洗剤をつけて洗っていく。


(まずは...)


「っ、」


いっしょに食器を洗いながら、麗華の手にさりげなく触れてみる。


(お、反応してる笑)


(それじゃあ、次は...)


「んっ、」


身長は湊斗の方が高いので、湊斗の二の腕に麗華の肩がぴったりとくっつくように、これもさりげなく寄り添ってみた。


(分かりやすいなぁ、れいかは笑)


これだけでも、すでに麗華の耳はほんのりと赤く染まっていた。


(んー、でもれいかはまだいつもの碧眼のままだな)


麗華もこれ以上ドキドキはしないと対抗しているのか、その瞳はまだ青く澄んでいた。


(それじゃあ、)


“ぎゅっ”


「ひゃっ」


最後の手段として、洗い物をしている麗華の後ろから湊斗は抱きしめた。しかし、ここからでは麗華の瞳が真紅に染まっているのか分からない。


(さて、決め手は...)


「れいか、明日は楽しみにしててね」


とどめとして、後ろから優しく抱きしめながら麗華の耳元で甘い声色で囁いた。それと同時に麗華の横顔を見ると、美しい真紅の瞳がちらりと見えた。


(はぁ、本当に可愛すぎるよ...)


麗華にいたずらを仕掛けたはずが、湊斗は麗華により一層惚れる結果となり、ふたりは濃密な時間を過ごしたのであった--

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