第12話 麗華とのデートに向けて。その1

今は昼休みで、湊斗はとある男子生徒に用があり、その生徒以外は誰もいない体育館に向かっていた。


「それで、僕に何か用かな?一条くん」


「ああ、一色に頼みたいことがあってな」


どうして湊斗が稜真と話しているかと言うと、


※※※


--昨日の夜--


(はぁ、週末は何を着ればいいんだ?お昼ご飯はどうしよう、履いて行く靴は--)


「まずい、デートに関しては全く分からんぞ...」


麗華とデートなんだと意識してから、湊斗は悩んでしまい、ひとり部屋で頭を悩ませていた。


「れいかのプレゼントを買いに行った時もそうだったが、俺には誰か相談できる人はいないのか...」


しばらく考える。


そして--


「あ、」


デートや女関係には、もってこいの人物が思い浮かんだ。


「まじかよ...」


※※※


そう、その人物こそが稜真だった。こうして湊斗は学校で稜真のクラスにおもむいて、今のこの状況に至る。


「はぁ、なるほどね」


「ああ、俺にはデートや女関係にはさっぱりなんだ。だから色々と教えてくれると助かる」


「それくらいなら別にいいけど」


「なら、放課後に--」


「でも、それって僕に利益無いよね?」


「...」


そうなのだ。湊斗には利益があっても、稜真が自分の時間を使う理由は無かった。


「なら、どうしたら付いてきてくれるんだよ」


「うーん、そうだなぁ」


少し考えてから稜真は答えた。


「前できなかったから、今から僕とバスケしようよ」


以前の湊斗は安静にしてないといけなかったが、今は少しずつ治りつつあった。


「わかった」


(れいかにバレたら色々言われそうだな...笑)


「でも軽くにしてくれ、まだあんまり動けないんだ」


「元からそのつもりだけど?」


「そうか...」


(案外こいつは優しいのか?)


「じゃあ、1 on 1で先に5本決めた方が勝ちってことで」


「わかった」


「オフェンスかディフェンスどっちがいい?」


オフェンスは攻めて点を決める立場。ディフェンスは、守って点を取られないようにする立場である。


「じゃあ、ディフェンスで」


「了解ー」


「いいの?そんなディフェンスで?」


「問題ない」


「じゃあ、いくよ?」


「ああ、かかってこい」


“ドン、ドン、ドン”


稜真が無駄の無い動きでドリブルをしながら、徐々に距離を詰めてくる。


「っ、!?」


(これは思ったより、厳しい戦いになるようだ)


「甘いね」


「行かせるか!」


稜真が湊斗を抜こうとしたが、なんとか反応して食らいつく。


「へぇ、その身体でよく動けるね」


「まぁな」


「それじゃあ、」


「なっ、」


なんと稜真は次の瞬間、湊斗から逃げるように距離を取った。


(なんだ?誘われてるのか?なら、このまま--)


動かずに、守りを固めようとした。


しかし--


「ほっ、」


「なっ!?」


なんと、稜真は3ポイントのラインよりも離れた所からシュートを放った。


(そんな所からシュートしたところで、入るわけないだろ...)


湊斗は稜真の力量を少々甘く見ていた。なぜ稜真は周りの女子からキャーキャー言われるのか、なぜ稜真が学年二位を取ってもクラスの皆は当たり前のような反応をしたのか。その意味を湊斗は分かっていなかった。


“パサッ”


「ふぅ、まあこんなもんかな」


「マジかよ...」


「じゃあ、あと4本かな?」


そう、稜真は成績優秀かつスポーツにおいても、プロ顔負けのポテンシャルを持っている。おまけにモデル級の顔も持ち合わせており、

一言でいうと、彼は完璧なのだ。


(これは今の俺には勝てないな...)


※※※


「これで最後っと、」


5本目も美しい軌道を描き、稜真から放たれたバスケットボールは、当たり前のようにバスケットリングに触れることなく通過する。


「楽しかったよ、ありがとう」


「ああ、俺も案外楽しかったよ」


結果は5-3で稜真の勝ちだったが、圧勝されたわけでもなく、湊斗もそれなりに決めていた。


「いやー、でもすごいね」


「ん?何がだ?」


「まだその傷痛むんでしょ?思ったより深そうだし、」


「よくわかったな、早く治るといいんだが...」


「一緒にバスケしてたら分かるよ。これは一条くんの傷が治ってたら、どっちが勝ってもおかしくなかっただろうね」


「さすがに一色に勝つのは厳しいな」


「そんなことないよ笑」


戦ってみて感じた。

一色は案外良い奴なのかもしれない、と。


「じゃあ、放課後付き合ってくれるか?」


「うん、いいよ。僕が君のデートを大成功にしてあげるよ」


「よろしく頼む」


こうして放課後に湊斗は、稜真に色々アドバイスをしてもらえる事になった。


※※※


「みなとくん、もう帰りますか?」


「あー、ごめん。この後ちょっと寄るとこあるから、先に帰っててもいいよ」


「そうですか、では私は勉強してから帰りますね」


「うん、それじゃあまた後で」


「はい」


湊斗と麗華とのルールで、他の人に怪しまれないように、学校では最低限の距離感でお互い接すると決めていた。


※※※


「遅かったね」


「悪い、れいかと少し話してた」


「そう、なら行こっか」


ふたりは、湊斗が以前来たショッピングモールに向かった。


「よし、まずは何から揃えようか」


「お金は気にしないでくれ、俺に似合うベストな服を頼むよ」


「了解、それじゃあまずは服を買いに行こっか」


こうして、まずは湊斗の服選びから始まった。


「それじゃあ、僕の行きつけのお店から回ってくね?」


「任せるよ」


そう言って稜真に付いていくと、途中で湊斗に話しかけてきた。


「まぁ、一条くんは普通に顔も整ってるし、スタイルも良いから正直なんでも似合うだろうけど、今回は爽やかな感じでコーディネートしてみようか」


「ちょっと待て、それなりに鍛えてるからスタイルは良いにしても、俺の顔は別に整ってはないぞ?」


「そんなことないよ?少し髪が伸びてるから印象が少し暗い感じだけど、切れば全然印象も変わるだろうし」


「そういうものなのか...」


「よし、それじゃあ服を買う前に美容室に寄ろうか」


「今日は一色に全部任せるから、好きにしてくれ」


まずは服を買う前に湊斗の髪を切ることになった。


※※※


どうやら散髪は終わったようで、


「わお、これはこれは」


「その反応なんか嫌なんだけど...」


「いやいや、正直僕の想像なんかよりもずっと良くなっててびっくりしてるよ」


「そ、そうか」


(確かに美容室の何人かいる女性店員からも見られてる気が...)


(いや、一色を見ているのか?)


「ありがとうございましたー!」


支払いを済ませて美容室から出る時に、気のせいか女性店員から何か別の感謝も込められている気がした--


「それじゃ、服買いに行こっか!」


「なんで急に楽しそうになってんだよ」


「いやー、やっぱりモデルはかっこいい方が服も選びがいがあるってもんでしょ?」


「あ、ああ...」


妙に稜真のテンションが高いので、若干引き気味の湊斗であった。

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