第7話 始まる入院生活の日々

「んっ、ここは...」


あれからすぐに救急車で大きな病院に運ばれた湊斗は、手術を終えてなんとか一命を取り留めていた。


(れいか、本当に無事でよかった...)


隣を見ると、目元を真っ赤にした麗華が疲れ果てており、湊斗の横になっているベッドに上半身を預けて眠っていた。


「うっ、」


湊斗に激痛が走った。


(あー、そうか。あの時、れいかを守ることに必死でざっくりいかれたのか...)


今は左肩から胸を覆うような形で包帯が巻かれている。


と、そこで--


“コンコンコン”


病院のドアがノックされた。


(ん?誰だろうか)


「はい、どうぞ」


「失礼します」


「あなたは...」


「はい、先日は助けていただき、本当にありがとうございました」


湊斗のお見舞いに来たのは、先日人質に取られていた女性だった。


「いえいえ、命があって良かったです」


湊斗は感謝よりも、命があるならそれだけで十分だった。


「ありがとうございます。それで、今日は先日助けてもらったので、全然釣り合わないですが感謝の意を込めてこれを...」


その女性は、いかにも高級そうな紺色の箱を取り出してきた。


(ん?なんだろう...)


「今開けても大丈夫ですか?」


「はい、是非」


「それでは--」


さっそく開けてみる。


「これは...ほ、本当に頂いてもいいんですか?」


「はい、是非受け取ってもらえると有難いです」


「そうですか。では、有難く頂きますね」


「はい、無事に完治することを心より願っております。では、失礼します」


湊斗に感謝の品を渡して、その女性は帰っていった。


そこで--


「んっ...みなと、くん?」


「おはよ、れいか。心配かけてごめんね」


「よ、よかったぁぁあ!生きてる、みなとくんが、生きてる...」


「うっ、れいか、少し痛いかも...」


麗華は湊斗がやっと目を覚ましたので、安堵からついつい湊斗に勢いよく抱きついてしまった。


「ご、ごめんなさい!安心して、つい...」


「大丈夫だよ。それより、れいかが無事で本当によかった」


湊斗にとっては、少々自分が傷ついても麗華が無事なら全然よかった。しかし、次の麗華の発言でこの考えを改めることとなる。


「わ、わたしの心配よりも、今は自分のことを心配して下さい!」


「私のせいで、みなとくんがこんな傷を負ってしまったことが耐えられないんです...」


「だから、今は自分を一番に考えて大切にして下さい...」


(そうか、今の俺はもう自分だけのものじゃないんだな...)


「そうだね、れいかを悲しませるならそうするよ」


「はい、そうしてください」


「ちなみに、俺はどれくらいで退院できるのかな?」


「病院の先生が言うには、傷が塞がるまで一ヶ月は掛かるらしいです」


「そうか...」


(一ヶ月もれいかと別の場所で生活するのか...)


湊斗が落ち込んでいるので、麗華はどうにかして元気づけたかった。


「大丈夫です。みなとくんならすぐに治りますよ」


「ありがとう、れいか」


「では、とりあえず何か食べますか?」


「ん?何かあるのか?」


「先程スーパーでりんごを買ってきたので、食べやすいようにカットしますね」


「ありがとう」


(れいかのこの何気ない優しさが、ボロボロな俺の身体に染み渡ってくるんだよな...)


「っく、」


気がつけば麗華の温かい雰囲気と、一番の山場を越えた安堵からか、湊斗の目はじんわりと潤み始めていた。


「あー、俺は本当に幸せ者だな...っ、」


(よかった。本当に生きててよかった...)


そんな湊斗を、麗華は穏やかな表情をしながらゆっくりと湊斗に寄り添って--


“ぎゅっ”


「そ、そんなことされたら俺我慢できない...」


「いいですよ。我慢なんてしなくていいんです。泣ける時にしっかり泣かないと、笑って生きていけないですよ?」


麗華が湊斗を優しく包み込み、天使のような声色で湊斗の心を、身体を落ち着かせる。


「もう、大丈夫。ですよ」


“もう大丈夫”と言われた湊斗は、背負っていたたくさんの重荷がふっと消えたような感覚がした。


「っ、っく...」


「大変、だったね」


湊斗の耳元で囁きながら、優しく頭を撫でる。


「れいかが居てくれたから頑張れたんだよ...」


「はい」


「死にたくなかったけど、れいかが傍に居てくれたから勇気が出たんだよ...」


「はい」


「れいかのためだから、こんなになっても諦めなかったんだよ...」


「はい」


「だから、俺がここまでやれたのって、全部全部れいかのおかげだったんだよ...」


「はい」


(あぁ、俺はれいかのその顔が見たかったんだよ)


そこには、普段はクールで。


それでいて、湊斗の前ではいつになく真紅な瞳をした、他でもない。


一ノ瀬さんがいた--

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