第8話 始まった甘い新婚生活のような日々
数日して、湊斗は退院の日を迎えた。
しかし傷が完治したわけではなく、麗華の介護付きなら。という条件で、予定より早く退院した。
「はぁ、やっと帰ってきたー」
「そうだね、私もずっと一人だったから寂しかった」
「あれ、そう言えば...その喋り方はどうしたんだ?」
思い返せば、麗華の湊斗への呼び方も変わっているし、湊斗が入院中の時も麗華は敬語ではなかった。
「え、だって、そうして欲しいって言ってきたのって、みなとくんだし...」
「え、ああ、そうか。確かにそんなことを言った覚えがあるな」
「それに...わたし、もう思い出したよ?」
「ん?何を思い出したんだ?」
全く心当たりがないので、聞いてみる。
「私とみなとくんがまだ小さかった頃の記憶」
(え、それって...)
「私、みなとくんのお嫁さん。でしょ?」
「っ、」
両手を後ろで組み、少し前かがみのような姿勢になり、下から覗き込むような形で可愛らしい顔をして言ってくる。そして、いつもの美しい碧眼とは違って麗華の真紅の瞳には、一条 湊斗がしっかりとそこには映っていた。
(そうか、そうか...)
気がつけば湊斗の目から、一筋の涙が流れていた。そして、麗華は微笑みながら優しく湊斗を抱きしめてこう言った。
「今まで、諦めずによく頑張ったね」
「っく、」
(俺は何回泣くんだよ...)
転校した日。湊斗は麗華との運命の再会を、これ以上ないくらい嬉しく思った。しかし、そこにいたのは湊斗のことを忘れてしまった変わり果てた麗華だった。湊斗はすごくショックを受けたが、それでも諦めず麗華を救うために、冷たく返されようとも毎日笑顔で話しかけた。
そして、前にあった全校生徒が一斉に受けるテストでは、見事学年三位という素晴らしい結果を出した。これは他の誰のためでもない。麗華のためだ。加えて先日には、湊斗は肩を刃物でえぐられようとも全身全霊、命をかけて麗華を無傷で救ってみせた。この短い間に湊斗が築き上げてきたものは、決して小さくない。
ただ、今の麗華にはこの想いを届けたい--
「おかえり。れいか」
この一言には様々な想いが込められている。
その想いが伝わったのか、麗華も--
「ただいま。みなとくん」
お互いに優しく抱き合いながら。
それでいて、しっかりとお互いを想い合っていた--
( (もう独りじゃない) )
※※※
「ごめんね、れいか。手伝えなくて」
気づけばもう夜で、麗華はいつも通り手際よく夜ご飯を作っていた。
「ありがと、でも大丈夫だよ。それよりみなとくんは、ちゃんとお利口にして待っててね」
「はーい笑」
(なんだこの甘い新婚生活みたいなのは!)
ここは漢として正直に言おう。
控え目に言って、最高です。
そんなこんなでどうやら今日の夜ご飯ができたようだ。
「今日はオムライスか」
「うん、みなとくんがここに来て初めて食べた料理だからね」
「なんだか、あの日が懐かしく思えるよ」
実際のところまだ一ヶ月も経っておらず、
今はここに来てちょうど三週間が過ぎたころだ。
「みなとくん。はい、あーん」
「!?」
(な、なんだと!?確かに、左腕は動かないけれども!俺は右利き...いえ、なんでもないです)
「あ、あーん」
少し恥ずかしかったが、とても幸せだった。
※※※
夜ご飯を食べ終えて、湊斗はいつ“これ”を麗華に渡そうか悩んでいた。
「どうしたの?みなとくん」
なぜか湊斗がそわそわしていたので、気になったのだろう。
(よし、渡そう)
「これ、れいかが前のテストで頑張ってたから、お祝いのプレゼントなんだけど...」
湊斗からのサプライズプレゼントで、麗華はびっくりした様子を見せた。
「い、いいの?」
「いつもお世話になってるし、受け取ってくれると嬉しいかな」
そう言って高級そうな“紺色の箱”を麗華に手渡した。
「開けてもいいの?」
湊斗はもちろん、と頷く。
「っ、綺麗...」
湊斗が麗華にあげたプレゼントとは...
「ベキリーブルー・ガーネットのネックレスだよ」
まずは、ベキリーブルー・ガーネットとは何なのか。これは、通常の赤色のガーネットとは異なり、世界でも非常に珍しい青いガーネットなのだ。そして、なんと言っても--
「その宝石はね、昼間は“青色に輝いて”夜になると“赤色に輝く”んだよ。れいかと一緒だね」
そうなのだ。この宝石の魅力は、なんといっても青色から赤色にカラーチェンジするところなのである。麗華は照れたり、幸せを感じたり、興奮したりすると瞳の色が青色から赤色に変わるので、まさに麗華のための宝石だと思った。
「う、嬉しいっ、ありがとう...」
嬉しくて麗華の目から涙がこぼれ落ちる。
「喜んでもらえて嬉しいよ」
このネックレスの色はピンクゴールドで、チェーンの先には控え目な金色の花びらがあり、その中心には、今時珍しい透明度の高いベキリーブルー・ガーネットがあしらわれていた。
「でも、これはどうしたの?」
当然、こんな高価なものを普通の高校生が買えるはずもない。
「これはあの時、人質にされてた女性店員さんからお見舞いに来たときに頂いたものなんだ」
命をかけて二人を救ったんだ。これくらいのご褒美があってもいいだろう。
「あのとき、私に本当の王子様が来てくれたのかと思ったよ」
「いや、実際来たんだけどね」と、麗華は付け足した。
「本当にかっこよかった」
(あんまり言われると照れるな...)
「そ、それより、さっそくそのネックレスつけてみない?」
「じゃあ、みなとくんにつけて欲しいな...」
恥じらいながら麗華はそう言う。
「わかったよ」
バックハグのようにして丁寧かつ繊細に、気持ちを込めながらつけてあげる。
「うん、やっぱりすごい綺麗だ」
「はっきり言われると恥ずかしいよ...///」
その日の夜に輝いていたのは、
満天の星空でもなく。
暗い夜道を照らす満月でもなく。
湊斗と麗華の“ふたりの幸せな笑顔”だった--
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