第二章

第6話 ささやかなプレゼントがもたらす地獄

すでに日も暮れて、湊斗は自分の部屋でとあることを考えていた。


「れいかに何をプレゼントしようかな...」


というのも、麗華はこのテストで見事に第一位を勝ち取った。なので、湊斗からも何かプレゼントをあげようかと考えていたのだ。


(でも、れいかって何が欲しいんだろう)


麗華と久しぶりに会った湊斗は正直、今の麗華のことはあまりよく分かっていない。なので、いったい何をプレゼントしたら喜んでくれるのかと悩んでいた。


(んー、無難にぬいぐるみとかか?)


「...」


(いや、でもれいかにぬいぐるみは間違いなく、こう...ギャップ萌えみたいな感じで最高だと思うんだが、なんか違う気がするな...)


(よし、明日は休みだし。れいかに似合うプレゼントを探してみるか)


※※※


そうして迎えた翌朝。


「ちょっと出かけてくる、夜までには戻る」


「どうしたんですか?買い物なら今はいいですけど」


「ん?あー、いや。買い物じゃないから大丈夫だよ」


「そうですか...」


(なんで少し寂しそうな目をするんだよ...)


「できるだけ早く帰るよ」


「はい...」


湊斗は少し胸が「ツキン」としたが、麗華のためなのでそこには目を瞑って出ていく。


※※※


「さて、何かれいかに似合う物はあるだろうか」


電車に乗って、目的地の大型ショッピングモールに到着した。ここには様々な種類のお店があるので、麗華に似合う物が一つや二つはあるだろうと思い、さっそく入っていく。


「へー、今日はイベントをやっているのか」


ショッピングモールに入ってすぐに、歌手がステージで歌っているのが見えた。


「ぜひ皆さん聴いていってくださいー!」


(けっこうたくさんの人が集まってるけど、有名な歌手なんだろうか...)


気がつけば、湊斗はその歌手に夢中になっており、かれこれ30分くらい聴いていた。


「では、次がラストの曲です!」


そこで湊斗はハッとした。


(ラストの曲聴いていきたいけど...)


(いや、そんなことより、今日はれいかへのプレゼントを買いに来たんだ)


湊斗は当初の目的を思い出し、麗華への最高のプレゼントを探しに別のフロアに向かう。


※※※


「おっ、」


(これはれいかにピッタリだな...)


しばらく経って湊斗が見つけたのは、小さなサファイアが埋め込まれた美しい指輪だった。


しかし--


(さすがに高すぎるか...)


当然だが、高校生がそんな大金を持っているわけがない。渋々湊斗は断念する。


(はぁ、せっかくれいかに似合いそうな物が見つかったのに...)


「どうしたものか...」


(こんな時に相談できる人を呼ぶべきだったか?)


(あ、俺にそんな友達いなかったわ)


そう湊斗が困っていると--


「お兄さん、お困りですか?」


一人の若い女性店員が話しかけてきた。


「あ、ちょうど今。大切な人へのプレゼントを探しているんですが--」


その時、その女性の背後にを持った男が近づいてくるのが見えた。


「あ!危なっ--」


気づくのが少し遅かった。


「動くな!!!」


「キャーーー!!!」


「...」


その男は、湊斗が先程話していた女性を人質にして、ダイヤモンドの指輪やその他諸々を受け渡すよう要求してくる。


「早くしろ!さもないと、この女の命の保証はないぞ?」


(さて、どうしたものか...)


あの男を怒らせたら、恐らくあの女性の命はないだろう。なのでここからは、慎重に事を進める必要がある。


(迂闊に近づくのはまずいか...)


湊斗は頭をフル回転させてこの状況を打破しようとするが、さらなる危機が訪れた--


「っ、!?」


(なんで、なんでここにいるんだよ...)


まずい、それより一刻も早く伝えないと--


「れいか!こっちに来たらだめだ!!!」


「え?」


なぜか麗華がこのショッピングモールに来ていたのだ。するとその男は、ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、人質を取ったまま麗華にゆっくりと近づいていく。


(おい、それだけはやめてくれ...)


「へへっ、お嬢ちゃん可愛いねぇ?おじさんといいことしない?」


「い、いやっ、はなして!」


そして、男は麗華を人質にして取った。すると、その男の手つきはいやらしく、麗華の際どい所まで手を伸ばそうとした。


その時--


(れいかを人質にするのか、そうか...)


そこに居たのは、みなと--

ではなく、湊斗の姿をした“悪魔”だった。


「おいお前」


湊斗は深淵を覗くような目をして、淡々と男に喋りかける。


「な、なんだおまえ!近づいたらこの女を問答無用で切りつけるぞ!!!」


その男は麗華の首筋に刃物を突きつける。

それを見た湊斗は特に焦った様子もなく--


「いいのか?その刃が彼女に触れた瞬間、お前の命は無いが」


「わ、笑わせるな!そっ、そんな事あるわけないだろ!!!」


「まだ分からないのか...」ボソッ


(もういいか、さっさと終わらせよう)


この状況に終止符を打つため、湊斗は重い一歩を踏み出した。


「そ、それ以上近づくな!!!」


「ほ、本当に殺すぞ!」


しかし、湊斗にはそんな“嘘に塗れた”脅迫は届かない。湊斗は歩みを止めることなく、着々と男に近づく。


「う、うわぁぁぁぁあ!!!!!」


その男が、刃物を麗華に振り下ろそうとした瞬間、湊斗は無駄の無い動きで素早く詰め寄り、男が持っている刃物を取り上げた。


そして--


「く、くそぉ!!!」


その一瞬の時間で、男を取り押さえた。

そして、それと同時に警察が駆けつけてきたので、湊斗はそいつを警察に受け渡す。


「れ、れいか!傷はどこにもない?」


「うっ、」


そこで麗華は恐怖から解き放たれたせいか、涙が溢れてくる。


「良かった。れいかが無事で--」


全て上手くいったかのように思われた。女性店員は無傷で解放され、麗華は湊斗によって守られた。


しかし、唯一無事ではない状態のが一名。


そこには居た--


「あれ、おかしいな...」


(どうしたんだ?身体がフラフラする...)


“ドサッ”


湊斗は麗華を男から守るとき、振り下ろされた刃物を取り上げた。しかし、その刃物は無惨にも、湊斗の左肩から脇にかけて深くえぐっていたのだ。


「い、いちじょう...くん?」


湊斗の左肩から大量に流れる真っ赤な血。

その血は、瞬く間に麗華の純白のブラウスを真紅に染め上げた。


「う、うそ...」


普段クールな麗華に焦りが生じる。いつもより鼓動が早い。全身の震えが止まらない。


「い、一条くん返事してよ!いつもみたいに優しく笑いかけてよ!」


しかし、湊斗から返事は返ってこない。それに気のせいか、湊斗の血色が悪い気がした。


「だ、だめ!そんなの...絶対にだめ!」


「ん...」


(なんだ、誰か俺を呼んでる...のか?)


(今は静かにしてくれ。なんだか身体が重くて、思うように動かないんだ...)


そこで、麗華は湊斗にお願いするかのように、ぽつりと呟いた。


「み、みなとくん...」


「わたしを...また“独り”にするの?」


湊斗の頬に麗華の大粒の涙がこぼれ落ちた。


(なんだ、れいか...)


(ん?れいか?)


そこで湊斗は気がついた。


(そうだ。俺はまだ、麗華を幸せにしてない...)


意識が戻った瞬間。激しい痛みと恐怖が容赦なく湊斗を襲う。


(いやだ、死にたくない、死にたくない、それになんだかすごい寒い、寒い寒い寒い...傷が、痛い。ほんとに痛い。いやだ、死にたくない。ぜったいに死にたく、ない...)


「れ、れいか...」


掠れた弱々しい声で麗華を呼ぶ。


「みなとくん!よかった、早く病院行こうね。そしたら、すぐに良くなるから...」


麗華は泣きながら必死に湊斗に話しかける。

段々と麗華の声が遠くなっていく。

なので、せめてこれだけは言っておかないといけない。


「俺が、れいかを必ず、幸せにする...から--」


「.....」


「う、うそ、こんなのってないよ...」


湊斗は最後の力で辿々たどたどしくも、力強くそう言った。しかし、無念にもそこで湊斗の意識は途絶えてしまった--

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る