クールで真紅な一ノ瀬さん

第10話 ライバルの出現と新たなる決戦

「おはよ、れいか」

「おはよー、みなとくん」

昨日の夜は特に何も無かったかのように、ふたりは平然を装いながら話をする。

「そう言えば今日からみなとくんは、私と一緒に登校するよ？」

「...」

「れいかはそれでいいのか？」

周りの目もあるだろうから、そこは麗華にとって大丈夫なのか聞いてみた。

「当たり前じゃん、それよりみなとくんに何かあった方が心配だよ」

「そうか...」

こうしてふたりはこれから、一緒に登校することになった。

※※※

「一条くん！先生から入院してるって聞いてたけど、大丈夫なの！？」

「うん、少しは良くなったよ。心配かけてごめんね、天宮さん」

学校に着くとかなり心配していたのか、下駄箱で天宮さんは健気に毎朝 湊斗を待っていたようだ。

「よ、よかったぁ...」

心白は安堵の表情を浮かべた。しかし、そこで湊斗と麗華が“いっしょに”登校してきたことに気がついた。

「あれ、一条くんと一ノ瀬さんっていつの間に仲良くなったの？」

「あ、実はいま－－」

「いっしょに住んでいる」そう言おうとしたら、なぜか麗華が話を遮った。

「たまたま来る途中で一緒になったの」

「そうなの？一条くん？」

隣をチラッと見るとよく分からないが、麗華は“上手く合わせて”と目で訴えていた。

「ああ、偶然電車で一緒になったんだ」

「そう、なんだ...」

「？」

それを聞いてなぜか下を向く心白に、湊斗は首を傾げた－－

※※※

教室に入ったとき、包帯の巻かれた腕が見える湊斗と、学校でも有名な麗華。そして、天使のような見た目の心白が一緒に入ってきたので、クラスの皆から少しばかり注目を集めた。

それからしばらくして時刻は正午を回り、湊斗と麗華は中身の同じお弁当を食べていた。

これを見て周りから変に思われても嫌なので、ふたりは誰もいない体育館の二階の観客席のような場所で仲良く食べていた。

「みなとくん、はい。あーん」

「れ、れいか外だとそれやめない？」

「え？なんで？」

「い、いや、万が一誰かに見られたりしたら恥ずかしいし...」

「大丈夫だよ、ここには誰もいないから」

「で、でも...」

湊斗と麗華が話していたそのとき、一人の爽やかな男子生徒がこの体育館に入ってきた。

(まずい、誰か来た！)

慌てて平常心を取り戻し、前を向く湊斗。

「れ、れいかあの人知ってる？」

湊斗は気づかれないように、小さい声で麗華に話しかける。

「あー、あの人はね。一色稜真（いっしきりょうま）くんだね」

(あ、前のテストで学年二位だったやつか)

そんなことを思っていたら、どうやら稜真（りょうま）は、一人で昼休みにバスケをしに来たらしい。

「あいつはバスケ部なのか？」

「いや、スポーツはなんでもできるみたいだけど、彼はサッカー部に入ってるみたいだね」

(あー、たしかにサッカー部の顔してるわ)

しばらく見ていたので、ふたりの視線に気づいたのか、稜真はこちらを横目で一瞬見た。

「や、やばっ」

(れいかとイチャイチャしてるとこ見られた...)

すると、稜真は珍しいものを見たかのような顔をして、こちらにしばらく目を向けていた。

そして－－

「ねぇ、そこの悪魔と一緒にいる君。僕とバスケしない？」

「ん？」

(あいつ、今れいかを悪魔だと言ったのか？)

そこで麗華何かを察したのか、

「だめです！みなとくんは、まだ安静にしていないと－－」

「.....」

しばらく考える湊斗－－

「ねぇ、するの？しないの？どっちなの？」

(まぁ、学年二位がどんなもんか見てくるか)

「わかった、今行く」

「みなとくん！」

湊斗は、麗華を悪魔だと言った稜真が許せなかった。それに、今現在の学力では麗華が一位。それに次いで稜真は二位。そして湊斗は三位だった。これは湊斗の上に君臨する稜真が、一体どんなやつなのかを知るいい機会でもあるのだ。

「悪魔が人と仲良くしてるなんて珍しいね」

(こいつ...)

悪気なく麗華を悪魔だと言う稜真が、一番タチが悪い。

「なんで怒ってんの？」

「うるさい」

「ふーん、まぁいいや。きみ、名前はなんていうの？」

「一条 湊斗」

「...」

少し考える仕草をする稜真。

すると－－

「あー、思い出した。きみか、この春に二年生として転校してきて、あのテストでいきなり三位を取ったって人は」

(なんだ、俺のこと知ってるのか)

「それでなんなんだお前は、俺に何か用か？」

湊斗は今スポーツなんてできる状態ではない。

包帯の巻かれた湊斗の身体は、制服で隠されており、完全には見えていない。

しかし、それを察したのか稜真は、バスケをせずに湊斗と会話を続けた。

「いや、紅玉の悪魔にあんな顔をさせるなんて一体どんな人なのかと」

「そうか、じゃあもう十分だな」

麗華のもとへ戻ろうとした時、湊斗は最後に一言だけ稜真に言った。

「あと、れいかのその呼び方は次から気をつけろよ？次そう呼んだら、その整ったお顔を潰しかねないからな」

湊斗は、念を押すように強く稜真に忠告する。

しかし、稜真は全く反省していないようで－－

「んー、この呼び方自体は変えてもいいんだけど、別に変える気はないかな」

「は？」

「じゃあ、こうしない？」

そこで稜真は湊斗にある提案をした。

「次の中間考査で順位の高かった人が勝ちで、もし一条くんが勝ったらこの呼び方はやめて、ちゃんと彼女のことは名前で呼ぶよ」

(なるほど、それなら－－)

「でも、もし僕が勝ったら彼女はもらうね？」

「なっ、」

なんと稜真は次のテストで自分が勝てば、麗華は自分の女にすると言うのだ。

「僕は、皆とは違って別に彼女のことを嫌っているわけじゃないしね。むしろ尊敬してるよ」

「...」

「じゃあ、そういうことで」

そう言って稜真は体育館から出て行った。湊斗が俯いて体育館の真ん中でぽつんと立っていると、すぐさま麗華が駆けつけてきた。

「みなとくん、別に私のことは気にしなくていいからね？」

「私は全く気にしてないよ」なんて麗華は言うが、その目を見たら本当は“つらい”ってことくらい俺には分かるよ。

「ふぅ、」

(れいかの隣にいるのは、いつだって俺だ)

一息ついて落ち着きを取り戻す。そして、ゆっくりと瞼を開けて新たなる決戦の日に焦点を合わしたその目には、一体何が見えたのだろうか。

(前回の順位といい、この傷といい、俺の頭脳と身体は随分となまってるみたいだな...)

「これは少しリハビリが必要だな」

「みなと、くん？」

湊斗がボソボソとよく分からないことを言っているので、麗華は心配の表情を浮かべた－－