第4話 決戦の日

ついに湊斗にとって決戦の日がやって来た。

学校に着くと、湊斗は可愛らしい天使に元気よく挨拶された。


「おはよう!一条くん!」


「おはよ、天宮さん」


変な噂が立っても嫌なので、麗華と湊斗はお互い時間をずらして別々に登校した。


「ふぅ、」


(このテストが運命の分かれ目でもあるのか...)


今日のテストで良い点数を取ることができれば、学校でも麗華と協力して何かをしたり、麗華の作業を手伝う。なんてこともこの先あるだろう。


(なんだか少しばかり緊張してきたな...)


「今日のテスト頑張ろうね!」


「うん、お互い最善を尽くそう」


天宮さんと励まし合い、西城先生が教室に入ってきて、ついにその時を迎える。


「今日のテストは国語、数学、英語の三教科だ。全力を尽くすように。以上」


西城先生が国語の問題用紙と回答用紙がセットになった冊子を配り始めた。全員に冊子が届いたところで、


「よし、始め」


西城先生の一言で、教室の生徒全員が一斉に問題用紙に目を通し始める。


(お、これって昨日れいかと一緒にやった漢字じゃないか)


湊斗は麗華と二人で昨晩、今日のテストに向けて少しだけだが、しっかり勉強していたのだ。

少しやるのとやらないのでは、全然変わらないように思えるが、実際には“天と地の差”がそこにはある。なぜなら言い換えると、それは実際に行動した人間。行動しなかった人間。この二つに別れるからである。つまり、行動できる人間はその時点で他とは違うのである。


そして--


「そこまで」


西城先生が終わりを告げ、生徒たちは筆記用具を机に置く。


「一条くん、どうだった?」


「んー、まぁ個人的にはできたと思うよ」


「えー、すごいね!私なんて、物語長すぎて最後まで解ききれなかったよ」


(時間が足りなかったか。あるあるだな)


隣の麗華の様子を見てみるが、特にいつもと変わらないので恐らく問題なく解けたのだろう。


(よし、次は数学か)


※※※


そんなこんなで、湊斗は本日の三教科全てを特に問題なく終えたので、気分は悪くなかった。


「れいか、今日のテストどうだった?」


昨晩一緒に勉強したので、聞いてみる。


「別にいつも通りです」


(あ、あれ?昨日一緒に色々したのに、もしかしてあんまり距離縮まってない?)


「そうか、それならよかった...」


こうして点数はともかく、特にハプニングもなく無事にテストを終えた湊斗であった。


※※※


「ただいま、れいか」


「テストお疲れ様です」


本日はテストだけで、午前中に学校が終わったので、昼過ぎに湊斗は麗華と一緒に住んでいる201号室に帰宅した。


「ん?何か作ってるのか?」


「はい、お昼ご飯のパスタを作ってます」


「そうか、俺も一緒に作っていいか?」


さすがに麗華も、難しいテストを終えて疲れているだろうに...


「いいんですか?」


「もちろん」


当たり前だ。俺は麗華と互いに支え合って、幸せな家庭を一緒に築きたいと思っている。麗華の力に少しでもなれるのなら、喜んでこの身を捧げよう。


「今日はトマトの冷製パスタを作るので、まずはトマトソースを作ってください」


「わかった」


※※※


「...」


(なんかやけに見られている気がするんだが...)


「れいか、トマトソースできたぞ」


「あ、はい。ありがとうございます」


「どうしたんだ?さっきからこっちを見て」


「あ、いや、普通に料理できるんだなと...」


「俺はトマトソース作っただけだし、それとも馬鹿にしてる?笑」


「い、いえ。ただ感心してたんです」


「ふーん、それじゃあ、これは塩胡椒で下味つけておくから、冷蔵庫に置いておくね」


「え?あ、はい...」


湊斗は少々麗華を見返したくなり、淡々と料理をこなしていく。


「れいかもパスタ茹で始めて大丈夫だよ」


「俺は盛り付け用のトマトやバジルを用意しておくから」


「わかりました...」


思いのほか湊斗が料理できるので、麗華は素直に感心した。


それから少しして--


「「できた」」


ふたりで作ったので、思ったよりもすぐに完成した。そして思わず二人の声が重なった。


「ふふっ、」


二人の声が重なったのが面白かったのか、麗華の美しい口は、綺麗な弧を描いていた。


それを見た湊斗はというと--


(か、可愛すぎるだろ...)


麗華に火照った顔を見られないようにして、ひとり悶えていた。


※※※


「「ごちそうさまでした」」


「今日も美味しかった。ありがとう」


「いえ、こちらこそありがとうございました。おかげで、すぐにできましたし」


「それにしても、料理得意なんですか?」


自分と同じくらい手際がよかったので、聞いてみたのだろう。


「そうだな、得意ではあるかな」


「素直にすごいと思いましたよ?今時、料理ができる高校生はそういないですし」


「そんなに言われたら、なんか照れるな」


(あれ?なんだか、学校のれいかと今のれいかって雰囲気違う気がするんだが...)


学校で話しかけた時は少々冷たく返されたが、部屋にいる時では比較的優しいので、そんなことを思った。


(やっぱり、学校だとどうしても肩に力が入るのかな...)


前までは、この部屋でなら麗華は落ち着けていただろうが、今では湊斗がいるので多少は肩に力が入っているだろう。などと思ったので、湊斗は麗華にこんな提案をしてみる--


「あ、あのさ...」


「どうかしましたか?」


「いや、こんなことは言わない方がいいんだろうけど、あえて言わしてもらうよ?」


「はい」


「れいかはさ、あんまり気にしてないかもしれないけど、俺と話す時はいつも敬語なんだよね」


「はい、確かにそうですね」


「そこでなんだが、俺にだけでも楽に話して欲しいんだけど、どうかな...?」


「...」


普通は、お互い仲良くなってから砕けて話すようになるのだが、今の麗華にそれは難しいだろうと思ったので、湊斗から提案してみた。


(せめて俺といる時には、肩の力を抜いてほしい)


すると--


「そ、その、いきなりは難しい...から」


「ち、ちょっとずつでも...いい?」


麗華は慣れないことをして、美しい瞳を赤くしながら少々気恥しさを覚える。


(あぁ、やっぱり可愛すぎる...)


「じゃあ、次は俺の下の名前を--」


「そ、それはまだ無理です!!!」


「うげっ、」


湊斗は少々調子に乗りすぎたので、麗華に突き飛ばされた。


そこで湊斗の意識は途絶えた--


※※※


「い、痛っ...」


後頭部に少し痛みが走った。どうやら、麗華に突き飛ばされた時にどこかにぶつけたようだ。


「だ、大丈夫ですか?あ、あの...ごめんなさい。突き飛ばしちゃって...」


さすがに申し訳なくなったのか、麗華は湊斗の顔を覗き込むような体勢になり、かなり心配していた。


「ん、大丈夫だよ...それより、これは一体どういう...」


なんと湊斗はソファで横になっており、麗華のすべすべで真っ白な太ももの上で膝枕をされていたのだ。


(あれ、これって上を見ても大丈夫なのだろうか)


(なんか程よい大きさの綺麗な山が...)


そんな事を思っていると--


「あ、あんまりこっち見ないでください...」


「その、恥ずかしい、から...」


(うん、ここはやっぱり天国だ)


そこでもう一度眠りについた湊斗であった--


※※※


「う、ん...もうこんな時間か...」


湊斗が再び目を覚ました時間は、夜の10時を回っていた。


「ふぁ〜、さて、お風呂にでも入ろうか...」


重たい身体を起こそうとしたとき--


“ふにゅ”


(ん?なんだ、この天国のような温かさと柔らかさは...)


湊斗は起き上がろうとしたとき、左顔が何かに沈んだような感覚を覚えた。


(こ、これは。まさか...)


眠っていた湊斗の意識は一気に覚醒し、この状況を理解した。


「んっ...」


なんと麗華は湊斗を起こさないように、ずっと動かずに膝枕をしていたのだ。麗華も今日は頭をフル回転させてテストに臨んだので、疲れも溜まっており、どうやら今はぐっすりと眠っている。


(まずい、起こさないようにお風呂に行かないと)


(それにしても...れいかスタイル良すぎだろ)


麗華のスタイルの良さを改めて実感した湊斗であった。


そして--


「ずっと俺のために膝枕してくれてありがと」


そう麗華の耳元でそっと感謝を伝え、ゆっくりとお風呂場に向かった湊斗だった。


※※※


“ガラガラ、バタンッ”


湊斗がお風呂に入ったのをドアが閉まる音で確認した麗華は--


「はぁっ、はぁ、はぁ...」


(あ、危なかった〜///)


なんと、麗華は湊斗よりも先に起きていたのだ。


(あの耳元で囁いてきたのは、さすがに我慢できないよ...)


(わ、わたしの心臓の音、聞こえてない...よね?)


麗華の心臓はすでにバクバクで、うるさいくらいに鳴っていた。そして、真っ暗な部屋の中で一際目立つそのルビーの瞳は、今までで一番の輝きを、そこに灯していた--

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