第3話 決戦の日に備えて

そんなこんなでゆっくりとドアを開ける--


(立派な部屋だな。ん?シャワーの音...?)


部屋に入ると、どこからかシャワーの音が聞こえてきた。


(呑気な空き巣だな、シャワーまで浴びるとは)


湊斗は犯人を確認するため、洗面所に向かう。

そこで湊斗は“刺激的”なものを目にした--


「っ、!?」


洗面所の衣服などを入れる籠にまさかの、

“女性の下着”が入っていたのだ。それに加えて、黒のレースであしらわれた大人な下着だったので、湊斗には少々刺激が強すぎた。


「.....」


少しその場で考える湊斗だったが--


「こ、これって、ブラジャーだよな...」


つまり、薄いドア一枚の向こう側には無防備な状態の--


そこで運が良いのか悪いのか。地獄行きか、はたまた天国行きの扉がゆっくりとひらいた。そこで湊斗は、さらに刺激的な光景を目にする。


「っつ、!?!?!?」


目の前にいるのはまさかの女子高生だった。

その子と目が合った。その時間わずか0.1秒。

しかし、湊斗の体内時計は目の前の光景により破壊され、時が止まっていた。


なぜなら--


「れ、れいか?」


そう。目の前にいる女子高生は、湊斗のよく知っている麗華だった。


「う、うそ...」


麗華がぽつりと呟いた。


「い、いや!みっ、見てないから!?」


「全然!おっぱいも成長したんだな。とかも全く思ってないから!」


湊斗はどうにかしてこの場を納めようとするが、さらにこの状況を悪化させていた。


「っっっ、///」


「と、とにかく!はやく出てって!!!」


麗華の声がこの空間に響き渡った。

それにしても、お風呂上がりのせいなのか麗華の顔と瞳が、真っ赤に染まっていた--


※※※


あれから時間は少し経過し、湊斗と麗華は二人同じ部屋で椅子に座り、向かい合っている。


「と、とりあえずこの状況を整理しよう...」


湊斗はこの気まずい空気に耐えれなくなり、麗華に話しかける。


「そうね...」


「まず、ここはれいかの部屋なのか?」


「ええ、そうよ」


「なるほど...」


この201号室は麗華の部屋で、しかし渡されたこの紙にも、俺の部屋は201号室と書いてある。


つまり--


「この状況は仕組まれたってことか...」


「...」


「どういうこと?」


そこで湊斗のスマホに一件のメールが届いた。

それを確認した湊斗はため息をついた。


「はぁ、まじかよ。父さん...」


メールにはこう書かれていた。


【みなと、今日からそっちに戻ると聞いて、マンションの一部屋を借りておいた。そこのマンションはセキュリティも完備されていて、部屋は男子高校生一人にしては贅沢な2LDKにしておいた。そこで、みなとに喜んでほしくてサプライズを用意しておいたぞ。父さんより。】


(父さん、言うのが遅い...)


「だそうだ...」


父さんから来たメールを麗華に見せる。


「...」


「つまり、俺とれいかはこれから一緒に住むってことになる...」


「絶対に嫌です」


「...」


(まあそうだよな...)


(心を閉ざしてる麗華に、いきなり異性と住むなんてできるわけがない)


(さて、どうしたものか...)


「わかった、これは俺の父さんが悪い。だから俺は新しい部屋を探すよ」


湊斗はそう麗華に言い、席から立ち上がろうと椅子を引いたとき--


「ち、ちょっと待ってください!それだと、今夜はどこに泊まるんですか?」


「え、どこかに泊まれるお金も無いし、普通に野宿だけど...」


湊斗は無駄な出費は抑えたい派で、いくら鍛えているとはいえ、これは少々心配だ。


そう思ったのか、麗華は--


「それはさすがに心配です。仕方ないので、新しい部屋が見つかるまでここに居てください」


「え、いいのか?」


「いいって言ってるじゃないですか。それとも、私と一緒に住むのは不服ですか?」


「い、いや。ありがとう」


「はい。なのでもうこんな時間ですし、お風呂に入って下さい」


「わかった...」


帰宅したのは19時過ぎくらいだったが、いつの間にか時計の針は21時を回っていた。


「ふぅ、今日は本当に色々ありすぎだろ...」


湊斗は湯船に浸かりながら、今日一日を振り返っていた。そこで湊斗はふと思ってしまった。


(あれ、これって、れいかの残り湯なのでは...)


別に意識して入ったわけではない。ふと、本当にふとした瞬間に、降臨してしまったのだ。


(おい、我が息子よ。それだけは最低だぞ...)


意識をすればするほど、へとへとな湊斗に対し、湊斗の息子はどんどん元気になっていく。


「まじかよ...」


(とんだ反抗期な息子だな...)


疲れを取るために湯船に浸かったのに、湊斗は罪悪感で胸がいっぱいになった--


※※※


「ゆっくりできましたか?」


お風呂から上がった湊斗に対し、麗華は話しかける。


「う、うん。それなりに...」


「?」


湊斗がやけに辿々たどたどしい反応をするので、麗華は首を傾げる。


「なぜ目を合わしてくれないんですか」


「い、いや。別に...」


「そ、それより、なんだかいい匂いがするんだが?」


あからさまに湊斗は話を切り替えたので、麗華は少し怪訝そうな目を湊斗に向けた。


「お風呂から出たらすぐに食べれるように、夜ご飯を作っておきましたよ」


「え、」


正直、麗華がここまでしてくれるとは思っていなかったので、湊斗は少々驚いた。


「なんですか。さっきから、要らないのなら別にいいですけど」


「ご、ごめん。有難くいただくよ」


今日はどうやらオムライスのようだ。


「「いただきます」」


まずは一口。


(あ、めちゃくちゃ美味しい)


料理にしばらく夢中になっていると、麗華が何やら心配そうな目でこちらを見ていることに気がついた。


(ん?どうしたんだろう?)


見つめ合う二人--


「あっ、ごめん。れいかの料理めちゃくちゃ美味しくて、つい無言になってた」


“美味しい”という一言を聞いて、麗華は安心した様子を見せた。


「よかったです。お口に合わなかったのかと...」


「いや、本当に美味しいよ。なんだろう、やっぱりれいかの作る料理は“幸せの味”がするな」


「そ、そうですか...」


(あ、また目が赤くなってる笑)


麗華は久しぶりに誰かと、このような他愛もない会話をしながらご飯を食べたので、少し嬉しくなった。


それに自分の作った料理で、そんな反応をされるとは思っていなかったので、嬉しい感情と共に少しの気恥しさを抱いた麗華であった--


※※※


しばらくして二人は食べ終えた。


「「ごちそうさまでした」」


「本当に美味しかったよ。ありがとう」


「はい。お粗末さまでした。この後はもう寝るんですか?」


「うーん。疲れたけど明日にはテストがあるし、少し勉強しようかと」


湊斗にとって明日のテストは絶対に落とせないので、今夜は疲れていても少しは勉強しなくてはならない。


「そうですか、頑張って下さい」


「ありがとう。ちなみにれいかは、明日のテストは大丈夫なのか?」


心白こはくが夕方に言っていたが、麗華はかなり頭が良いらしい。なので、こんなことを聞くのは少々野暮だが、実際のところどうなのか気になった。


「明日のテストもいつも通りやるだけなので、特に気にしてませんけど」


「さすがだな」


(いつの間にこんなに立派になったんだよ...)


「余計なお世話かもしれないが、これから少し一緒に勉強しないか?」


一人で勉強してもよかったのだが、せっかくこうして麗華と一緒にいるので、もし良ければ...という思いを込めて誘ってみる。


「いいですよ。そもそも少し勉強してから寝る予定でしたし」


「そうか、それならよかった」


「はい。では、ここを片付けるので少し待っていて下さい」


夜ご飯まで作ってもらって、片付けまで一人でやらせるのはさすがに良くない。


「俺も手伝うよ」


そこで麗華は何か察したのか、


「そうですか、ありがとうございます」


そう言うので湊斗は、こう返した。


「当たり前だよ」


将来を誓い合った二人は、初対面からやり直す。しかし、決して相性が良くないわけではない。


湊斗と麗華。二人揃って笑顔で過ごせる日も、そう遠くはないのかもしれない--

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