第68話「カラミティ・アラクネ前編」

 いつもの様にノースエリアに集まったボク達は、ボスを攻略する為にゼロエリアに向かった。

 森林地帯を抜けた先に待っていたのは第一階層と同じ大穴。


 螺旋状の階段は完全に崩壊しており、下に降りるには壁を突き抜けた大木の階段を下りないといけない。

 これは中々に大変で、ベータ版の頃にボクは足を滑らせて何度か落下死をした事がある。


 中々に恐怖を感じる光景だが、基本足場が崩れることはないのでビビッてジャンプをミスらない限り死ぬことはない。

 気分はおサルさんで、ボク達は跳んでは次の木に飛び乗った。


「みんな経験者だから、落下死を気にしないで済むのは良かったね」


「オレはベータの時に五回逝ったからな……」


「ふふ……鎧を解除したら良いじゃんって気付いた時の顔は、今思い出しても笑えるわね」


「ミカゲは三回くらい落ちて、ようやくクリアできたかな」


 ここで死亡するのは、誰もが一回は通る道らしい。

 前方を軽業師のようにひょいひょい進んでいるシース姉さん達は、危なげもなく流石って感じだった。


「ソフィアにちょっかいをかけて蹴り落とされた奴がいたな。……ブルワークって言うんだが」


「緊張を解そうとして、そんな事をしたなぁ……最高にエクスタシーを感じさせられたぜ」


「アレは人の脇腹をツンツンしてきたブルワークさんが悪いんですよ」


 変態発言は軽くスルーして、ソフィアさんは隣にいる彼女から距離を取った。


「足場が悪いのに見事な回し蹴りが決まった時は、見ていた視聴者達に大ウケしてたな」


「オマケに下の木にぶつかりながら落ちてったら、奇跡的に生き残ってアタシもびっくりしたぞ!」


「下に到着した時に恨み言を一切口にしないで笑顔で、良い蹴りだったって言われた時は呆れてしまいましたね……」


「そりゃ、アタシにはご褒美だろ!」


 この人はブレないな……。


 それにしても、この高さを落ちて生き残るパターンがあるんだ。

 理論上は不可能ではないが、流石に試す度胸はないかな。


 後デスペナルティでログイン不可になるのは不味いし。

 途中何度か嫌がらせの突風を受けたが、経験者であるボク達は脱落することなく踏破した。


 一番下のボスフロアの作りは、第一階層と大まかな所は変わらない。

 ただ機械的だったケンタウロスとは違い、此方は第二階層のコンセプトである木々が侵食している感じだ。


 木々の全ては高密度の魔力の影響で結晶化して、その中には魔術式が渦巻いている。

 自然と科学が融合した芸術的な光景の中、ボクは周囲を見回した。


 パッと見は何も見つけられないけど、目の前にウィンドウ画面が出現する。


【クエスト達成確認】


【〈リバイズ〉の所有者を確認】


【汚染の封印を解除します】


「ガウルフ君!」


『ワン!』


 召喚したガウルフ君の背中に乗って、ボクは四隅の一つに出現した黒い大木に向かった。

 黒い槍が大木から発生し、ボク等を貫こうとする。


 ガウルフ君は怯まずに〈ソニックダッシュ〉で加速。

 槍を回避してあっという間に到着、ボクは間髪入れずに右手を伸ばしてタッチする。


 更なる槍を放とうとしていた汚染は、真っ白な光に包まれて解除された。

 攻撃されるのは初めてでビックリしたけど、ガウルフ君のおかげで何とかなって良かった。


 さぁ、後はボスを倒すだけだ。


 魔術式が中央の召喚装置に吸い込まれる。

 展開されたのは巨大な召喚陣、眩い光が装置から放たれて大きな衝撃波と共に巨大な怪物が姿を現す。


 巨大な八本の脚は刃の様に鋭く、不用意に近づく者は蹴られただけで毒の付与と同時に切られる。

 下半身は蜘蛛の身体に、上半身は甲殻を纏った妖艶な女性の神話怪物。


 アレこそが第二階層のボス〈カラミティ・アラクネ〉だ。

 シース姉さん達は武器を構え、戦いの開始を告げる。


「よし、全員攻略開始!」







 ハッキリ言ってノーマルのアラクネは弱かった。

 ……いや、これは自分達が強くなり過ぎたのかも知れない。


 先ず毒完全無効を持つボク達が張り付いてHPを削り、足の薙ぎ払いとケツから放たれる拘束の〈スパイダーネット〉だけに気を付けていればダメージを負うことは滅多になかった。

 大きな要因としては、アラクネの攻撃の大半が毒に偏っているせいだ。


 一番厄介な広範囲に毒を散布する〈ポイズンブレス〉も効かないし、防御したら毒状態になる〈ポイズンクロ―〉も一定の確率で毒状態になる〈毒の肌〉もボク達四人には効果がない。

 いやー、毒完全無効刺さりすぎ可哀想。


「おまけにガウルフ君達がえげつないんだよね……」


 六体の仲間と共にボクの使い魔ガウルフ君は、炎を纏った体当たり〈ファイア・ダイブ〉を足に叩き込む。

 ダメージは微々たるものだが、敵は僅かに怯み時間が発生する。ワンワンオと可愛らしく吠えながら行う硬直ハメは、見ていて頼もしさと同時に恐怖を感じさせられた。


「今回はサポートに徹するだけで良さそうだな」


「まぁ、HP多いからアタシ等もしっかり攻撃しないと終わらないんだけどな」


「さぼらないで下さいよ、ブルワークさん」


「もちろん、さぼるつもりはないさ!」


 ガウルフ君が作ってくれる隙をついて、ボク達は次々に攻撃を叩き込む。

 ミカゲ先輩も初級の〈ファイア・ソード〉を叩き込んで、ダメージソースとして大きく貢献してくれる。


「ボクも負けていられない〈ゼクス・ブースト〉!」


 新ガンソードによって追加された装填できる弾数。

 STRとAGI強化を六つ重ね掛けしたことで、ボクの敏捷値はガウルフ君すら越える。


 彼を足場に跳躍したボクは、空中で敵の攻撃をメタちゃんに防御してもらいながらガンソードを振り下ろした。


「──ミカエル・アインスソード!」


 灼熱の一戦が、残り僅かだったボスのHPを全てゼロにする。

 身体が崩壊するアラクネ、だけどボク達は以前の様に油断はしなかった。


 ソフィアさんのコメント欄が、空気を読んで『やったか!?』で埋め尽くされる。

 距離を取って警戒するボク達の前に、


 例のエラー表記が発生した。


 ERROR、ERRORERRORERRORERRORERRORERRORERROR!!!


 画面を埋め尽くす、ERROR表示。


 全員が警戒をする中、全てのメッセージが消える。


 その末に出たのは、やはり以前見た事のある一つの指令だった。




 ──正ス者、第二ノ人類ノ闇ヲ修正セヨ。




 真の決戦が幕を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る