第65話「どっちがリーダー?」

【CHAMPIONSHIP】


 ボク達の前に表示される勝利の証。

〈阿修羅会〉を倒した後、ボク達は優勝をする為に有利ポジションを取り。


 ステルスして不意をつこうとしていたチームを倒したり、残っていた〈世界はアットホーム〉のトリッキーな作戦を真正面から突破。

 こうして無事に優勝することができた。


 戻ると塔からシスターさんが来ており、敗退したチームには参加証のアイテム交換券が配布。

 優勝したボク達には、その交換券の他に一位専用の景品交換券が与えられた。


 ボクは迷わずに〈アダマンタイト〉──ではなく『ハチミツ』✕1万個を入手する。

 もちろん皆と勝ち取った権利を、私利私欲で〈アダマンタイト〉になんてしない。


 ハチミツの真上にある希少金属を、鋼の意志で押さないようにするのは大変だったけど。

 未だに震えている右手、その様子を警戒して見ていた親友二人にボクは震える声で言った。


「ふぅ……ある意味、イベントで一番手強いラスボスだったよ……」


「ユウと二人で一応、いつでも取り押さえられるように警戒はしていたけどな」


「シエルならワンチャンやりかねないと思ってたから、一番緊張して見ていたわ」


「……これは反論ができない」


 二人から呆れた顔をされる。

 複雑な気持ちになるが、実際かなり際どかったのは事実だった。


「……ああ、だから二人ともシエルさんの背後を陣取ってたんだ」


 ミカゲさんは、いまいち理解していなかったらしい。

 そんな彼女に二人は揃って忠告した。


「レアな金属が絡むと、シエルは冷静さを失うから気をつけた方が良いですよ」


「この子、すぐ欲望に負けてレアな金属を選ぶから注意して見てあげて」


「その言い方だとボクが、金属狂いのダメ人間みたいじゃないか」


「「ベータ版の時から、時間があるとお気に入りの弾丸を磨いて悦に浸ってただろ(でしょ)?」」


 流石は親友というべきか、ボクの事をよく知っている。

 心優しきミカゲ先輩は、そのやり取りを眺めながら可愛らしい笑顔を浮かべていた。


「えっと、後は個人の交換分だね」


 リストを開いてみる。


【ソニックブーム】:衝撃波を放って敵を吹っ飛ばすスキル。


【アーム・ガード】:腕で防御した際にダメージを軽減するスキル。


【サペリアー・スチールインゴット✕3】:スチールインゴットの上位金属。


【50万エル】


 一通り見た感想としては、スキルも良い感じだが総合的なステータス強化の為に、インゴットがベターだなと思った。


「ボクはインゴット一択だね」


「オレもインゴット一択だな」


「私もインゴット一択ね」


「ミカゲは〈ソニックブーム〉かな」


 どうやらミカゲ先輩は既に〈サペリアー・スチールインゴット〉らしい。

 彼女は報酬画面からスキルを選択した。


 全員交換を終えると、このままハチミツを渡しに行こうと思ったら。

 ボク達に向かって〈阿修羅会〉のリーダーであるカイナが歩み寄ってきた。


 不機嫌そうな顔から察するに、どうやら4位で撃破された事にご立腹な様子。

 案の定彼女はボクの前で足を止めると、テンプレのようなセリフを吐いた。


「よくもやってくれましたね、貴女達のせいで私達は上位入賞すらできませんでした……っ!」


「それはバトルロワイヤルなんですから、襲撃なんてあって当たり前じゃないですか」


「……あのタイミング、狙ってましたよね?」


「気のせいじゃないですか、ボク達は偶々近くにいたプレイヤーを片っ端から倒しただけですよ」


「白々しい……っ!」


 忌々しそうに彼女は端正な顔を歪ませる。

 ぶっちゃけると〈阿修羅会〉を4位以下に落としたのは狙い通りである。


 公然の前でアレだけの挑発と、何よりも大切な仲間を侮辱されたのだ。

 3位以上の商品は絶対に渡さない。


 そう考えたボクは、敵の配置をガウルフ君で確認した後に殲滅戦を開始した。

 ただ想像以上に、本隊以外の統率が取れてなくてびっくりしたけど。


「実際に手合わせしてツッコミ所は沢山ありましたけど、一つだけ言わせてもらって良いですか」


「な、なんですか」


「人を見る目が無かったのは、そちらの方でしたね」


「──ッ!?」


 大会が始まる前に言われたことを、そのまま返してあげた。

 こめかみに青筋を立てた彼女は、キレやすいのかボクの胸ぐらを掴もうとして──。


 ──真横からミカゲ先輩に腕を掴まれた。

 ゲーム内では普通に人と接する事ができる彼女は、真剣な眼差しでカイナを見据えた。


「ミカゲのリーダーに手を出すのは止めてください」


 普段リアルで挙動不審になっている彼女からは、全く想像もできない程に圧を感じた。

 そんなミカゲ先輩に一瞬気圧されたのか、カイナが額に汗を浮かべ息を呑む。


 だがそれは直ぐに憤怒の色に染まった。

 真っ赤になった彼女は、ミカゲ先輩をにらみつける。


「貴女ごときが、私をそんな目で見るな!」


「っ!」


 蹴りを放たれるが、ミカゲ先輩は綺麗な体捌きで回避する。

 無理な姿勢で放ったから当然なんだが、カイナはバランスを崩した。


 そこでミカゲ先輩が手を放すと、彼女は崩れた姿勢を立て直す事ができず尻もちをつく。

 見下していたカイナ、見上げる姿勢になった事で眉間にシワを寄せる。


「な……、この!」


「戦いは既にバトルロワイヤルで決しています。これ以上生放送で、全国に醜態を晒しますか?」


 頭に余程血が上っていたらしい。

 彼女はイベント用で浮いてる、放送用のカメラに気づいていなかった。


 同時接数は、およそ100万人以上。

 沢山の人達に、その残念な姿を見せてしまっている。

 コメント欄は『あーあ』とやってしまったな感と、あのリーダーはいつもあんな感じだろ、と呆れた様子だった。


「な、あう……」


「カイナさん、これ以上やりあってもメリットは一つもありませんよ。さっさと離脱しましょー」


 固まってしまったリーダーをサブリーダーの女性が仲間達に指示を出し、この場から離脱させる。

 見た所かなりやり手っぽい彼女は、去り際にミカゲ先輩を一瞥してこう告げた。


「ふむふむ、良い仲間を見つけられたようでなによりです。私は貴女なら、もっと上に行けると信じてますよ」


「……あ、ありがとうございます。ナナシさん」


 次に彼女はボクを見ると。


「シールドを使って上空からの砲撃、今まで味わったことのない刺激的で見事な作戦でした。流石に私もびっくりしましたよ」


「は、はい」


「実に楽しい戦いでした、それではグッドゲーム」


 ナナシと呼ばれた女性はサムズアップをして〈阿修羅会〉のメンバーを手際よく全撤収させる。


 いや、どっちがリーダーなの……。


 余りにも不思議な光景を呆然と眺めていたら、ミカゲ先輩が理由を語ってくれた。


「……ナナシさんは超エンジョイプレイヤーで変わった事が大好きらしく〈阿修羅会〉の珍プレーを楽しんでる変態だと本人から聞きました」


「なるほど……?」


「全く底が読めない人だったな」


「世の中には変わった人がいるのね……」


 果たしてアレを変わってるの一言で済ませて良いのか。

 これ以上ここにいる理由はないので、ボク達はハチミツを渡すためにファーストエリアに向かうことにした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る