第64話「慢心の王」

「ハッハッハ! これは勝ちましたね!」


「カイナさん、ここでフラグを立てるのは良くないのでは?」


「何を言ってるんですか。もう残ってるチームは10組、その内の7組が私達なんですから、これはもう勝ったも同然ですよ」


「だけどその中には〈スターリンク〉がいます。彼女達は我等の攻撃隊と防衛隊をたった四人で壊滅させて、今もこの本隊を何処かで狙っている可能性が高いのでは?」


「姿は見えませんが、この本隊の布陣は完璧です。左右前後にダメージカウンターの盾持ちタンクが構えて、攻撃が来たら魔術隊がカウンターで一斉砲撃する。手を出したら最後、それがこのパーフェクト・ラウンドカウンターフォーメーション!」


「おー、すごいですねー」


 ドヤ顔するカイナに、サブリーダーで幼馴染の女性は思考を放棄して軽い拍手を贈った。

 完璧というけれど実は過去、第三層に進出したチーム達に何度も破られている。


 改良を重ねてカウンタースキルに着目したが、それはけしてメインのダメージソースになり得ないことを彼女は知っていた。

 脳死思考の集まりであるこのチームでは、仕方のないことなのだが。


 この〈阿修羅会〉に入る者達は、大体脳死的な行動しかできない。

 タンク隊は攻撃を防ぐことで仕事をしている気になっているし、ヒーラーとバフ隊も味方の支援をしているだけで貢献している気になっている。


 故に全てのシワ寄せは後衛に集まり、マトモな神経をしている〈魔術師〉と〈召喚士〉はすぐにチームを抜けてしまう。


 多分ミカゲさんの腕だと、ここにピンポイントで〈エクスプロージョン〉とか上級魔術を叩き込めるだろうなー。

 そんなことを考えていたら、不意になんとかフォーメーションの外側でどよめきが起きる。


「なんですか!?」


「んー〈スターリンク〉のタンクと〈バーサークヒーラー〉が、真正面から攻め込んできたみたいですね」


「真正面からって、まさか自爆特攻!?」


「いえ、アレは……まさかガーディアン? それもオオカミ型まで投入してきたのか」


「ガーディアンって、あの仲間にする条件不明のユニークモンスター!?」


 オオカミに乗った〈バーサークヒーラー〉が、槍を手に隊列を切り裂いていく。

 余りの速度と視認が困難な槍の一撃は、気を緩めていたタンク達を光の粒子に変えた。


 後衛の〈魔術師〉の砲撃と〈召喚士〉が操る魔獣のブレス攻撃が彼女を捉えるけど。

 槍を高速回転させて、彼女は全てを防御してみせた。


「映画みたいな防ぎ方ですね、あんなのスキルにありましたか?」


「いえ、恐らくプレイヤースキルかと」


「数でゴリ推しなさい、そう何度も使用できないはずです!」


 指示に従い後衛達は火力を〈バーサクヒーラー〉に集中する。

 しかし彼女が離脱したタイミングに合わせ、待機していたガーディアンがガトリング砲を放った。


 周囲にまき散らすように放つ砲撃。

 とっさに此方のチームは防御行動を取り、槍使いに後退を許してしまう。


「さっきお仲間さん達からチャージした分を返すぜ〈アヴェンジャー・ナイトソード〉!」


「「「うわああああああああああああ!!?」」」


 広範囲の薙ぎ払いが数人を真っ二つにする。

 更に被害が広がり、前方のチームは半壊状態だった。

 こうなっては仕方がない。


「後方のチームは警戒を継続、左右のチームで奴らを押しつぶせ!」


「「「了解!!」」」


 左右の守りを崩して、さっきの倍の戦力が彼女達に向かっていく。

 以下に個々の力が強くとも、この数を相手にするのは厳しいはず。


「ふふふ、あの人達を迅速に処理したら後はシエルさんとミカゲだけ。恐らくあの二人と二体を使って注目を集めることで背後から奇襲するつもりなんでしょうが、そうはいきません」


「うーん、なんか嫌な予感がするんですよねー」


「なにを言ってるんですか。空を飛べるわけでもなし、これで勝ったも同然ですよ!」


「いや、だからフラグを立てないで──」


 注意しようとした瞬間。


 上空から飛来したビームのような一撃が、サブリーダーの女性を撃ち抜いた。


「は?」


「え?」


 しかも一発だけではない。

 まるで曇り空から雨のように、無数の砲撃が降り注ぐ。

 次々に撃ち抜かれて、光の粒子に変わるチームメンバー達は悲鳴を上げた。


「なんじゃこりゃあああああああああ!?」


「上空から攻撃!?」


「飛行スキルなんて存在しないはずだぞ!?」


「どこぞのロボットみたいなマルチ砲撃しやがって、チートにも程があるだろ!?」


 完全に崩壊したフォーメーション。

 悲鳴しか聞こえない中、サブリーダーが四散するのに絶句するカイナは空を見上げる。


 そして目を見開いた。


「嘘でしょ……」


 そこには上空に浮いている者達がいた。

 白髪の〈ガンブレイダー〉と緑髪の〈魔術師〉。


 ガンソードの銃口を向ける砲撃手は、回転式弾倉に手元が見えない速度で弾丸を込めて放つ。

 そして光の柱が地面に刺さった。


 その度に悲鳴と共に誰かが消滅した。

 一撃で倒す威力もさることながら、逃げ惑う彼等を正確に撃ち抜く腕は尋常ではない。


 動きを予測し、対象を抹殺する。

 彼女の姿は正に凄腕のスナイパー、デューク・シエル。


 更に弓を構えた〈魔術師〉の狙撃が加わり、この戦場に死の雨が降り注ぐ。

 退場者の数が深刻なレベルに達した。


「こ、後方チームは上空にいる敵を撃ち落として!」


 カイナの指示に従い、〈魔術師〉達は杖を振るい中級魔術を二人に叩き込む。

 回避行動を取らない二人は、嵐に巻き込まれて光の粒子になると思ったら、


「嘘でしょ……アレを受けて無傷?」


 爆炎が晴れた中から姿を現したのは、全くHPが減っていない二人の姿だった。


「どうして! なんで無傷なの!?」


 混乱するカイナは、ふと気づいてしまった。

 定期的にシエルが発砲する中で、砲弾ではなくシールドが織り交ぜられている事に。


「まさか……シールドを足場にしてる!?」


「〈ガンブレイダー〉ってそんなこともできるのか!?」


「や、やばい! 上からの奇襲に気を取られ、隊列が崩壊して──」


 ガーディアンと騎士、それとオオカミに乗った神官がここぞとばかりに攻めてくる。

 陣形が崩れたチームは、次々に各個撃破されていく。


「負ける……私達が、たった四人と二体のモンスターを相手に負けるの……?」


 負けを意識した彼女の背後に、上空から弓を手にした〈魔術師〉が降り立った。

 勝確の状態でそれは、彼女がリーダーに望んだ過去に決着をつけるための場だった。


「ミカゲ……」


「……カイナさん、決着をつけましょう」


「私が、貴女に負けるなんてことは!」


 職業〈召喚士〉であるカイナは、全長五メートルの翼竜──サモンドラゴンを呼び出す。

 主に立ちはだかる強敵を前に、サモンドラゴンは超高熱息〈ドラグブレス〉で焼き払おうとする。


 しかしミカゲは冷静にドラゴンの動きを見切り、手にした弓に初級氷魔術〈アイスアロー〉を込めて放った。


 ──結果、ドラゴンは口の中が凍結。


 ブレスを発射できなくなり、連続して放った槍に穿たれて消滅する。

 頼みの切り札を失ったカイナは、眉間にシワを寄せて地面を蹴る。


「ミカゲエエエエエエエエエエエ!」


「ここで負けるわけにはいかない!」


 長剣を抜いて飛び掛かる彼女を見据え、ミカゲは腰から刀身のない剣を抜く。

 そして上級魔術〈エクスプロージョン〉を込めて一振りの剣を形成した。


「前に進む、これがミカゲの答え──〈エクスプロージョンソード〉!」


 ミカゲが放った一撃はカイナを切り裂き、そのアバターを内側から爆散させた。


 近接カテゴリーの上級魔術。

 これが〈カラミティ・アラクネ〉に敗北を重ねたミカゲが遠距離攻撃以外の道を探し、そして苦難の末に到達した答えだった。

 

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