第60話「イベントのアドバイス」
本日は紗耶姉さん、守里さん、
題して第三層攻略お祝い会。
ベータ版ではボクですらお目に掛かっていない〈カラミティ・テュポーン〉を紗耶姉さん率いる〈ホワイト・リリーズ〉は倒してみせたのだ。
今いる場所は、中央区にある有名店のケーキバイキング。
値段は、お一人様2500円くらい。
本当はチームの三人も呼びたかったけど、龍華と優奈は家族とのお付き合い日。
ミカゲ先輩に関しては、無理スタンプを連打されてしまった。
親友二人もだが、ミカゲ先輩に関してもしょうがない。
少しずつリアルでも挨拶くらいはできるようになったけど、外食をするハードルは高いのだから。
一度目隠しでボクが食べさせるのを提案してみたが、それは流石に絵面がヤバいと、親友二人から止められてしまった。
最終兵器はやはりダンボールか。
そんな事を考えながらも、ボクは意識をこの場に戻した。
「紗耶姉さん、守里さん、知恵さん、第四層進出おめでとうございます」
各々取ったケーキを前に、お祝いの言葉を贈る。
「本当にすごいです、世界トレンドに上がってテレビとSNSでも話題になってましたね」
「ありがとう、面と向かって言われると照れるな」
「星空さんから言われると、感動もひとしおですね」
「感動するのはそこまでにして、制限時間があるから早く食べよう」
ハンカチを手に感動する二人に、紗耶姉さんが苦笑して促す。
このケーキ屋は、雑誌やテレビでも報道される程に有名だ。
ボク達のテーブルの上には、どれから手を付けるか迷うほどのスイーツが並んでいる。
「星空さんは、どんなケーキが好きですか?」
「基本なんでも好きですけど、最近はイチゴのタルトにハマってます」
「なるほど、タルト良いですよね。今度会議で自宅に集まるときには作ってお伺いしますね」
「ありがとうございます、知恵さん」
「おい、それならアタシも新作の衣装が手に入ったから星空にプレゼントするぞ!」
「あ、ありがとうございます」
知恵さんの考えに守里さんも便乗してくる。
家に遊びに来るのにプレゼントなんていらないんだけど、なんで二人はこういう所で競うのか。
ボクは目の前のいちごタルトを、フォークで小さく切り分け口に運んだ。
うーん、甘酸っぱいのとカスタードクリームの優しい甘さ、サクサク生地が合わさって最高だね。
幸せな気持ちでタルトを口に運ぶ。
するとテーブルとケーキが並んでいるスペースを五往復している守里さんが、ふと思い出したかのようにこう言った。
「明日のイベントをクリアしたら、星空達は一気にボスまで話が進みそうだな」
「そうですね、少なくとも一週間以内には挑むことになると思います」
紙に包まれたアップルパイを、守里さんは豪快に手づかみで食べる。
彼女はパイが好きなのか、皿の上にはパイナップルパイ、ブルーベリーパイ、梨パイと種類豊富だった。
パイは出来たてが一番だが、この店のは冷めても食感が変わらないらしい。
サクッサクッと小気味良い音が耳に届く。
「その為にも明日のチーム戦は、絶対に一位にならないといけません」
「チーム戦か、第二階層に星空達と互角のチームっていたっけ?」
守里さんは隣でフォークを使い、上品にティラミスを口に運んでいる知恵さんに尋ねた。
「強いて挙げるのなら〈阿修羅会〉とか〈世界はアットホーム〉でしょうか」
「なんか厨二病的な名前と、社会の闇を感じる名前だな」
「〈阿修羅会〉は単純な個々の実力はそれなりって感じですが、ボスを倒すほどの戦略力はありませんね。なによりもリーダーに難がありです。
〈世界はアットホーム〉に関しては、練度は高くても個々の実力が未だ足りてない感じです」
「かゆいところに手が届かない感じがして、ムズムズしてくる話だな」
あと一つピースがハマったら化けるかもしれない。
しかしその一つが、致命的に足りていない。
知恵さんの話から、そんな印象をボクも感じた。
「ま、そいつ等が相手なら苦戦はしないだろうな。
なんせその気になれば、星空には使い魔がいるし一人で砲弾の雨を降らせるチート戦力。
加えて〈ホワイトリリーズ〉のメンバーとも互角に戦えるメンツが三人、相手が可哀想になる戦力差だ」
「何といっても一番の欠点は両チームとも、星空さんみたいに絶対的なエースがいないことですね」
「エースは大事だな、今の第三層に進出してるトップ集団も一人は必ず強い奴がいるし」
守里さんの言葉にボクも同意する。
「わざわざ他国から引っ越してきた人達ですよね。
一番攻略が進んでるからって理由で、ヤオヨロズ市に多額の資金を支払って来たのを聞いたときは耳を疑いましたよ」
やる予定なんて1ミリもないから知らなかったけど、獲得した資金を使いプレイヤーデータを他のサーバーに異動する事ができるらしい。
ただその金額は三桁万円と中々に高額。
そこまでして攻略が進んでいる地域に来るのは、ゲーマーだからなのか、それとも他に考えがあるのか。
SNSではスパイ論まで噂されていたけど、真剣に攻略してる姿を生放送で見ている内に発言者は減少していった。
「そんな海外のヤバい人達もいませんし、難易度はイージーモードです」
「強いていうなら、超強いことで有名だから最初にみんなで囲んで倒そうって状況には陥りそうだよな」
「一番の不安はそれだけですね」
「敵がどれだけいても問題はない。目につく敵を全て切り倒せば良いんだから」
話に割り込んできた紗耶姉さんは、実にこれ以上ないほどにシンプルな回答をした。
「バトルロイヤル形式のイベントだ、アレコレ考えたところで意味はないだろう。
潜伏も相手が結託してると意味がないし、時間を与えると不利になる。
それなら最初から目につく敵を、一つ一つ堅実に潰した方が確実だ」
「「「なるほど」」」
これ以上ない解答に思わず三人で頷く。
紗耶姉さんはチョコムースをすくい、口に入れながら雄弁に語る。
「もう一つの道は他のチームと結託することだが、これはよほど信頼できる相手でないと無理だ。最悪裏切られて不利になる」
「うん、ボク達は一位になる必要がある。それなら全部敵に回した方が楽だね」
「ああ、全部蹴散らしてこい」
「任せてよ、弾丸のストックは使い切れないくらいあるから」
ボク達姉妹が、そんな会話をしてると。
「やっぱリーダーの親族だな……」
「恐ろしい、明日参加するチームに同情します……」
傍から眺めている二人は、ケーキを口にしながらしみじみと呟いた。
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