第61話「チームイベント開始前」
【チームバトルロイヤル】
【ルール】エリア縮小型の生き残り戦。戦って最後まで生き残ったチームが一組になるまで継続する。
【参加メンバー】最大人数六名。人数が三十名のフルチームは代表を六名選ぶ。同じチームから複数組でのエントリーは不可。
【報酬】上位三チームのみに与えられる。選択式でありトップから順番に選べる。
本日は待ちに待ったイベント戦。
総数30組以上のチームが集う中に、ボク達〈スターリンク〉もいる。
周囲を見回した感じ、全てのチームが配信していた。
こういう人々が注目する場は沢山の視聴者数を獲得できると、どこもはりきっている様子。
「みんなやる気に満ちてるね」
「ま、勝つのはオレ達だけどな」
「アンタ、そうやって自信満々だと足元すくわれるわよ」
「第三層の装備を持ってるオレの防御が、そう簡単に崩されるわけないだろ」
パッと見回した感じ、レベルカンストの圧を纏っている者は少ない。
多くとも三組あるかないか。
リッカが言った通り、彼女の防御値を突破できるものは数える程度しかいない。
だがカンストしていない者達も、無策で参加しているわけじゃないらしい。
「他のチームは同盟を組むみたいだね。三位まで報酬がもらえるんだから当然の選択か」
優勝景品には〈ヴァリアブル・ガンソード〉に匹敵する第三層の装備もあった。
上を目指すプレイヤーならば是非ともほしい。
そして勝利を盤石としたいのなら、強者と組みたいと思うのが当然だ。
故に他のチーム達の視線はボク達に注がれる。
「すっごく組みたそうな顔してるな」
「まぁ、そう思うのは当然よね」
「……流石にこの人数に見られるのは、胃が少しキリキリしてきます」
しかし互いに牽制しあっている彼等は、話しかけるタイミングに困っている様子。
誰か一人が声を掛けたら、雪崩のように押し寄せてくるのが予想できるが。
でもこういう時って、大体話しかけてくるのは──
「〈純白のガンブレイダー〉に同盟を申し込みたい!」
鎧を纏った黒髪の少女が声を掛けてくる。
身長は170センチ程度。
職業は恐らく〈竜騎士〉か。
双剣を腰に下げる彼女は、上品な動作で足を止める。
「私はカイナ、アシュラ会のリーダーです」
「どうも、ボクはこのチームのリーダーの」
「シエルさんですよね、このサーバーで知らない奴はいない。たった一ヶ月でチャンネル登録者数百万人を達成した超有名人様です」
彼女は値踏みするようにボクを見下す。
初対面相手に中々に不躾な目だ。
友好的な感じとは程遠いと思う。
普段から他人をそんな目で見ているのか知らないが、少なくとも気持ちの良いものではなかった。
背後で待機しているリッカとユウが、少し警戒レベルを上げたのを感じる。
「おやおや、私は戦いに来たわけじゃないですよ。同盟を組みたいと思ってきたんです」
「それをするメリットはあるんですか?」
「ありますとも、貴女達を三位にしてあげます。その代わりに一位と二位は私と、傘下のチームがもらいます。それでどうでしょうか?」
「うーん、とても魅力的な話ですね」
条件としては中々に悪くない。
でも
「それなら、私達と同盟を──」
「でもちょっと信用ならないんでお断りします」
「は?」
笑顔で断ったら、相手は何いってんだコイツ的な顔をしてきた。
もしかして、一回では理解してもらえないのか。
それならと今度はキッパリ、分かりやすく告げた。
「ボク達は、誰とも組む気はありません。組みたいんでしたら、他のチームと組んでください」
「……後悔しますよ」
吐き捨てるように言った後、立ち去ろうとした彼女はふと足を止める。
まだなにか言いたいのかと思い、眉をひそめると次に声を掛けたのはボクではなかった。
「ミカゲ、貴女まだゲーム続けてたんですか」
「……カイナさん」
どうやらミカゲ先輩の事を知っているらしい。
だけど彼女達の間に漂う雰囲気は、既知の仲としての友好的な感じではなかった。
「こんな足手まといがチームにいるようでは〈白銀のガンブレイダー〉は人を見る目がないって証明しているようなものですね」
「何の話ですか?」
嫌な予感がして、ボクはミカゲ先輩を守るように前に立つ。
リッカとユウも彼女を睨みつける。
周囲も不穏な空気を感じてざわつく中、彼女は明らかに見下したような態度でボクを見据える。
「その方は昔、私がチームを立ち上げた時にスカウトした一人です。第一層では良い活躍をされたんですが、第二層では何度もボス戦で足を引っ張り、チームを追い出された役立たずなんですよ」
「役立たずって……具体的にどんな足の引っ張り方をされたんです?」
「魔術師は火力が全てです。前衛が注意を引き付けてヒーラーが回復し、後衛が火力を出して倒す。
それが私達の基本的な戦略です。ところがミカゲさんは第二層でボスのHPを削りきれなかった。
だから要らないと判断してチームから外したんですよ」
「え?」
耳を疑う内容に、思わず変な声が出てしまう。
聞き間違いだったかも知れないので、再度チームを外された事の経緯を尋ねた。
「ボスに攻撃するのは後衛だけですか? 普通は前衛も攻撃に参加すると思うんですが」
「前衛のタンク達は敵のヘイトと攻撃を常に引き付けるんですから、体力温存の為にムダな行動はさせない方が良いでしょう?」
ウソだろ、という言葉が思わず出そうになる。
つまり彼女のチームの方針は、前衛はヘイト管理だけ、ヒーラーは回復、魔術師達などの後衛は攻撃と超役割を簡略してるのだ。
当然攻撃の回数が増す分、後衛のMPを回復するアイテム消費はとんでもない数になる。
聞いている限りでは、恐らく前衛は受けている人達以外は棒立ちしてる可能性が高い。
そんなやり方では後衛は潰れてしまう。
にわかには信じ難い話だが、彼女は自信満々って顔をしている。
たぶん第一階層で通用した戦略が、この階層でも有効的だと信じているのだ。
だけどそれは大きな勘違いだ。第二階層のボスは、遠距離の攻撃が軽減されてしまうのだから。
倒すには全員で頑張らないといけないのに、一体なにを勘違いしてるんだ。
まさか攻略情報を一切見ないで、自分達だけの感覚でやっているのか。
呆れて言葉をなくしていると、彼女は勝ち誇った顔で宣言した。
「このイベントは私達〈阿修羅会〉が1位を取ります!」
謎の自信と共に彼女は高笑いをしながら、待機している取り巻き達と去った。
同盟を組んでいるらしい、半数以上のチームもそれについていく。
その背中を眺めながら、ボクは震えているミカゲ先輩に一つ質問をした。
「ミカゲ先輩、あの人達をギャフンと言わせてやりたくないですか?」
「み、ミカゲは……」
「あんな人の言うことを真に受ける必要はありません。ミカゲ先輩はすごく強い、それはボクが保証します」
「シエルさん……」
「だから勝ちましょう、節穴はどっちなのか見せつけてやります」
久しぶりにカチンと来た。
ボクの冷たい怒りのオーラを見たリッカとユウは、額にびっしり汗を浮かべていた。
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