第59話「温泉付きマイホーム」

 塔でマイホームを購入する事で、ログインする際に三つの選択肢が出てくるようになった。


 一つ目はログアウトした地点。

 二つ目は最初のスタート地点である塔。

 そして三つ目の選択肢に【チームハウス】というのが追加された。


 ワクワクしながら、早速選択して転移する。

 光に包まれて向かった先は、いつもの宿屋にある一人部屋ではない。


 ソファーやテーブル等の家具が設置された、一見は普通の家庭にあるリビングだった。

 広さはボクの家よりもある。

 家具の素材は可もなく不可もなしって感じ。


「おお、なんか新築っぽい匂いがする。えっと、この家具は初回特典で、後から好きに配置も変えられるし追加もできるっぽいね」


 メニューの一覧にボクは目を輝かせた。

 リストの中にはシンプルなものから、ファンシーなものまで多種多様な家具が載っている。


 購入方法はリストから選び、プレイヤーの資金か、配信で獲得したポイントを消費する事。

 これは凝ったら、あっという間にポイントと時間が溶けるかも知れない。


 1ページずつチェックしている所に、少し遅れて仲間の三人もログインしてきた。


「うわ、すげぇ!?」


「ほんと、思ってたより家って感じね」


「……これが、チームハウス」


 三人はボクと同じようにハイテンションだった。

 全員で家の中を探索し、二階にはプレイヤー用の六部屋があることを確認する。


 一階には共用のリビング、キッチン、トレーニング用の道場みたいなのが一室あった。

 流石にトイレはないもよう。

 だが何よりも驚いたのは、旅館みたいな大きな露天風呂がある事。


「すごい、お風呂あるよ!」


「裸にはなれないから、水着を着て入る仕様っぽいな」


「ちょっとした旅行気分を味わえて良いわね」


「わぁ……すごい」


 周囲は雰囲気を演出する竹の壁。

 温泉は石造りで温度は少し熱め、空は現在夜だから真っ暗で満天の星が広がっている。


 お風呂好きのボクにとって温泉は嬉しい。

 でもゲームの中で、お風呂に入る必要性があるのか。

 疑問に思いメニュー画面を開き、プロパティを確認してみると。


「一日一回だけ温泉に浸かると、超低確率でスキルを獲得できるらしいよ!」


「ソシャゲのガチャみたいなシステムだね」


「ミカゲ先輩、スマホゲーの事ですよね。ボクもシステムの名前だけは聞いたことがあります」


「シエルさんは、スマホでゲームはしないの?」


「ボクはフルダイブゲーム派なんで、基本はスマホでゲームはしません。ミカゲ先輩はそういうゲームが好きなんですか」


「ミカゲは……ほら、基本学校で一人だから暇つぶしに……」


「ほ、ほらミカゲ先輩、プレゼントボックスに何かアイテムが来てますよ」


 この話題を続けるのは良くない。

 そう思ったボクは話を強引に切り替えた。


 実際メニュー画面を開いて気づいたのだが、プレゼントボックスに新着のアイテムが来ている。

 それを開いてみると、なんと衣装だった。


「水着が一着だけ無料プレゼントされてる。……って、これはまさか」


「おお、この機能美あふれたデザインは、スクール水着じゃないか!」


「シエルのスクール水着、是非とも見たいわ!」


「着てもお触りはなしだよ」


「「あ、はい……」」


 念の為に釘を刺すと、それまでハイテンションだった二人はしゅんと落ち込んだ。

 まったく女の子になってから、自重という言葉が宇宙の彼方に飛んでいってる。


 もしかしたら帰還中に大気圏で燃え尽きたか。

 どうにか復元できないか考えながら、ボクは全員に一つだけ提案する。


「それじゃ、せっかくだし温泉に入りながら誰がどこの部屋にするか決めようか」


「「賛成!!」」


「さ、さんせい……」


 元気よく二人が応える横で、少し遅れたミカゲ先輩は小さく手を上げていた。







 自動調整によって、水着はピッタリのサイズになる。

 形状は古の旧型、胸元には【しえる】とご丁寧に黒文字の平仮名で記入されている。


 脱衣所で着替えた他の三人を見たボクは、約一名の豊満なワガママボディに釘付けとなった。

 ハッキリ言おう、デカい……。


「ちょっと、ミカゲ先輩すご過ぎませんか?」


「メロンサイズって初めて見たぜ……」


「うぐ、これは負けを認めざるを得ないわ……」


「は、はうぅぅ」


 大胸筋のサイズ順で並べると。

 ボク→リッカ→ユウ→ミカゲ先輩の順番。

 ABCと綺麗に並んでいる所に、いきなりEと一段跳びしたようなサイズ差だ。


 しかもスクール水着。

 より大胸筋が強調されている気がする。

 三人で感心して眺めていたら、ミカゲ先輩は恥ずかしくなったのか腕で隠してしまった。


「は、恥ずかしいから見ないでぇ……」


「ごめんなさい、ちょっとびっくりしちゃいました。でも学校で会った時は、そんなに大きくなかったような」


「カーディガンとバンドで、少し小さくしてるの。ほら、この胸だと変な注目集めちゃうから……」


 他人の視線が苦手なミカゲ先輩。

 そんな彼女にとって、注目されるのは恐怖しかない。


 たけど学校にいる間、ずっとバンドしてるのは息苦しいだろうに。

 大変なんだね、と改めて彼女の抱えている問題に心の中で同情をした。


「とりあえず温泉でスキルチャレンジしようか」


「オレが一番乗りだぜ!」


 真っ先に駆け出したリッカが、ダイビングのように勢いよく温泉に浸かる。

 すると頭上に【ハズレ】の無慈悲な三文字が表示された。


「ぬぅぅ、やっぱりそう簡単にゲットできないか……」


「それじゃ、次は私が挑戦するわ」


「み、ミカゲも挑戦する」


 二人が同時にお湯に浸かる。

 ドキドキの状況下で、頭上に表示されたのは無慈悲な【ハズレ】だった。


「くぅ、私もダメだったわ!」


「確率何パーセントなんだろう……」


 肩を落としてがっかりする二人には悪いけど、ここはリーダーとして威厳を見せねばなるまい。

 大体こういうのは、物欲をわずかでも出すとセンサーに引っ掛かってしまう。


 大事なのは煩悩を一切出さないこと。

 ボクはスキルなんて欲しくない、それをひたすら頭の中で念じ続ける。


 そのまま熱い温泉に浸かったボクの頭上には、


 見事な【アタリ】ではなく【ハズレ】が表示されてしまった。


「むぐぅ……ボクもだめでした……」


「「「かわいい……」」」


 悔しいのでSNSを開いてみる。

 これに挑んだネット民達はどうだったのか目を通すと、残念ながらアタリを引いた者の書き込みは見当たらなかった。


「ふむ、これは相当確率が低いみたいだね」


「毎日の楽しみが増えたなぁ……」


「でもどんなスキルがもらえるのかしら」


「ソシャゲのログインボーナスみたいだね」


 確かにユウが言った通り、どんなスキルがもらえるのかすごく気になる。

 こうしてボク達の日課に温泉が追加されたのであった。

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