第二章
第42話「仲良き姉妹」
数日前にリアルTSが公表。
世界中の人々は大いにざわついた。
なんせ世界的に有名な芸能人達もリアルTSした事を暴露し、誰が言ったか世はまさに
この発表に対して、ネガティブな思いを抱く者達は意外と少なかった。
更に世界的中で政府を筆頭に、企業や教育機関が受け入れる姿勢を発表。
おかげでリアルTSした者達は、スムーズに新しい人生のスタートができた。
──とまあ、これが今の世界で起きている大まかな状況。
制服を用意するのに時間が掛かったけど、ボクも今日から女子として登校する時が来た。
朝食を済ませた後、いつものように家を出る準備をする。
何度もスクールバッグの中を確認しては、スマートフォンでSNSアプリ『ツッター』でリアルTSの呟きを眺める。
落ち着かなくてこのムーブを、ボクは今朝から何度も繰り返していた。
「うう~、ドキドキするよぉ」
ヤオヨロズ高等部の女子は、ワンピースセーラー服。
白を基調とした、清楚感が強いデザイン。
アルビノの自分が着ると、上も下も真っ白。
薄い生地でブラウンの袖無しカーディガンを羽織るので、色合い的には良い感じになる。
スカートの丈は中間で、黒のニーハイソックスを穿いた一般的なJKスタイル。
個人的にはお気に入りな組み合わせだが、変だと思われないか不安だった。
「大丈夫だ、星空はどの格好でも似合うから安心しろ」
「沙耶姉さんなに作ってもおいしいって言うし、どんな格好しても可愛いしか言わないからなぁ……」
「……それは否定できない」
我が家の従姉は、残念ながら判断基準にできない。
昔なんて初心者にはこれがオススメだと聞いてプレイしたゲームが、バカみたいに難しくて何度か地獄を見させられた事がある。
だから彼女が言う簡単は超難しい。
そう受け取らないと、本当に痛い目を見る。
紗耶姉さんのチームに所属する守里さん達も、何度か被害にあったと聞いている。
なんでも「ソロ攻略余裕だった」と従姉が言ったダンジョンに軽い気持ちで挑んだら、くっそ強いボスが出てきて3時間もの死闘を繰り広げたとか。
「基準はオカシイけど、ウソは一度も吐いたことがないよね。正直者なところ、ボクは大好きだよ」
「朝っぱらから、その笑顔は破壊力が高すぎる……」
「ちょ、わぁ!? 沙耶姉さん鼻血出てるよ!」
「こればかりは仕方ない……」
だらだら流れる鼻血。
びっくりしたボクは、慌ててテッシュを手渡す。
受け取った従姉は、スーツに付かないようにふき取り丸めたのを鼻の穴に詰めた。
「ぷ……っ。そ、それで学校に行くの?」
「大丈夫だ、問題ない」
大丈夫じゃないし、問題しかない。
絶対みんなビックリする。
特にファンの子達が大騒ぎするんじゃないかな。
イケメンで有名な沙耶姉さんの、中々に見られない姿に苦笑すると。
……あれ、なんか笑ってたらメンタル良くなったかも。
ふと先程まであった緊張感が和らいで、リラックスしている事に気が付いた。
「ちょっと気が軽くなったかも。ありがとう、沙耶姉さん」
「良く分からないが、星空の助けになったのなら幸いだ」
全く理解していない様子。
とりあえずといった感じで従姉は頷いた。
鼻の穴にティッシュを詰めてる姿は、とても締まらないけど。
でもそんな姿でもカッコイイのだから、学園人気投票1位のイケメンは伊達ではない。
普段の調子を取り戻したボクは、沙耶姉さんの腕にくっ付いて満面の笑みを浮かべた。
「そろそろ時間だから学校に行こう」
「ああ、堂々としていれば他の学生達も気にしないだろう」
各々バッグを手に玄関に向かう。
靴を履き替え、外につながる玄関の扉を開く。
早朝の優しい風が頬を撫でる。
眩い太陽の光を手で
───思ったより平和だった。
朝のホームルームでボクは、リアルTSして女子になった事をクラスメート達に暴露した。
しかし反応はいつも通り。
女子は黄色い声を上げただけ。
男子達は変わらず接触を避けるスタンス。
授業の合間にある休憩時間は、他のクラスの人達がこっそり見に来ていたが。
みんな幸せそうな顔で眺めているだけだった。
話し掛けて来るのは誰もいない。
雰囲気は芸能人を遠くから眺めるアレに近い。
ボクに迷惑が掛からないようにしているのか、それとも珍しいリアルTSを見物に来たのか。
どちらにしても、大騒ぎにならなくてホッと胸を撫で下ろした。
午前の授業が滞ることなく進み、今はみんな大好きお昼休みの時間。
ボクと龍華と優奈はクラスを出て、学校に一つしか無い食堂に足を運んだ。
龍華はがっつり唐揚げ定職、優奈はカルボナーラスパゲティ、ボクはサンドイッチとコーヒーのセット。
熱々の唐揚げを一口で食べる豪快な龍華は、周囲を見回して笑みを
「熱ッむぐむぐ、ごくん……。ふぅ予想していた通りだけど、今日は一日中視線を感じるな」
「でもいつも通りじゃない、特に男子に見られてるのとか」
「それな、クラスの男子とか全員会話しながら星空をチラ見してたからな」
「そ、そうなんだ……」
教室外からの視線がすごくて、その時のボクは周りに意識を向ける余裕はなかった。
今学食にいる者達は、男女共に食事をしながら此方をチラ見している。
ボク達を除き、談笑をしている者は少ない。
普段騒がしい食堂を、不気味な空気が支配している。
友人達と来ているはずなのに、半分くらい相席しているような感じになっていた。
ボクなんか見ているより、友達とお話した方が楽しいと思うけどなぁ……。
卵サンドイッチを頬張りながら、この状況が自分のせいなのかと考えたら何とも言えない気持ちになる。
気を取り直して、ボクは午後の授業について話をすることにした。
「それよりも、今日からいよいよディバイン学科の実技だね」
「ああ、なんでも専用のマップをプレイできるらしいからな。今から楽しみだ」
「今日は初回だから五時間目は三人パーティーを組んで簡単なダンジョン攻略、六時間目に半減決着のPVPをやるみたいよ」
「お、面白そうだな。オレ達でみんなをあっと言わせようぜ!」
学生用のダンジョンならば、難易度は低く設定されているだろう。
今のところボク達は数少ない第一階層攻略者、アバターのステータスの差はかなり開いていると思われる。
クラスにいる情報通の子いわく、他の一年生は現在ボスに挑戦する準備中だとか。
「うん、面白そうだね。ボクも弾丸を全開放して挑もうかな」
「一年の最速クリアタイムは20分か、オレ達なら余裕だな」
「15分でクリアしちゃうんだから!」
優奈が口にした時間でクリアできるかは、流石に分からないけど。
今から五時間目の授業が楽しみだとワクワクする。
食事を終えたボク達は席を立ち、食器を返却口に返した。
教室に戻ろうとしたら、二年生の組章を付けた身長150センチ後半の少女が立ちはだかる。
緑髪の長さは肩口で切りそろえている。
前髪は目を隠すくらいに伸ばし、緊張しているのか手足が震えていた。
よく分からないけど笑顔で「なにか御用ですか?」と尋ねる。
怯える彼女は何か言おうと口を開くが。
「す、すすすすみません! やっぱり何でもありません!」
「え?」
身を翻して脱兎の如く、この場から走り去ってしまった。
この不可解な行動に、流石に親友達もポカーンと口が半開きになり。
「一体何どうしたんだろう……」
ボクは走り去った彼女の背中を、見つめる事しか出来なかった。
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