第43話「ホテルとバニーガール」

「うわー、部屋の中はこうなってるんだ」


 学校に隣接している〈ディバイン・ワールド〉のホテル。

 実技の授業で予約していたボク達のクラスは、男女別の三人一組に分かれてホテルの一室に足を運んだ。


 靴は玄関で脱ぐタイプ。

 内装は全て高級感があり、シャワーやトイレもある。

 更には水分補給用にウォーターサーバーが常設されていて、その隣には使い捨ての紙コップがある。


 最後に注目したのは大きな三つのベッド。

 そこには丁寧にメンテナンスがされているVRヘッドセットがあった。


 ……いや、ヤバすぎるこのホテル。

 普通に生活できるだけの設備が揃っているぞ。

 防犯用の監視カメラはあるけど、天国と言っても過言ではない。


 オマケにボク達の部屋は最上階、眺めは最高の一言に尽きる。

 ヤオヨロズ市の全体を見渡していると。

 クラスチャットでログインするように教師から促され、ボクは真ん中のベッドに寝転がる事にした。


「ちぇー、ベッドはくっ付いてないのか」


「当たり前じゃない、女の子同士でも間違いが起きる世の中なんだから」


 龍華の不満に、優奈が呆れた顔で指摘する。

 女の子同士で間違いとは、一体どういう意味なんだろう。


 もしかして一緒に寝ると不和が生じるのか。

 理解できなくて首を傾げていると、龍華が枕を抱き締めて此方を見た。


「星空を抱き枕にしたかったのに……」


「びっくりするくらい欲望に忠実ね。流石に星空もドン引きするわよ」


「……えっと一人で横になれないなら、今度ボクが使ってるオススメのぬいぐるみを教えようか?」


「す、すみません! オレが間違っていました。今の発言は忘れて下さい星空様!」


 助言をしたのに、何故か龍華は謝罪して土下座の姿勢を取る。

 その姿を隣で見ていた優奈が、やや引き気味に呟いた。


「なんて恐ろしい、清楚すぎて龍華が罪悪感に打ちのめされてるわ……」


「よく分からないけど、抱き枕は必要ないみたいだね」


「──ってやべぇ、担任からログイン要請が連呼されてる!」


 再度チャットでログインするよう要請が来ると、二人とも慌ててVRヘッドセットを装着してログインの準備をする。

 ボクも急いでヘッドセットを装着し、上質感あふれるベッドに寝転がった。


 先ず脳波がスキャン完了、登録されているアカウントが目の前に表示される。

 次に仮想コンソールを操作して、二段階パスワードを入力する。

 ロックが解除されたら最後に〈ディバイン・ワールド〉を選択。


 ボクの意識は仮想世界にダイブした。







 降り立った場所は、学校を忠実に再現したマップだった。

 大きなグラウンドにはダンジョンの入り口があり、その前にクラスの皆で整列する。


 パッと見渡した感じ職業は『守護騎士』『竜騎士』『魔術師』『錬金術師』『神官』『召喚士』と多種多様。

 みんな自分の好きな職業で〈ディバイン・ワールド〉をエンジョイしている感じが伝わってくる。


 その中でレベルも装備も突出しているのは、やはりボクとリッカとユウの第一階層攻略組。

 現在第二階層の中ボス〈ジャイアントビートル〉を討伐し、鋼装備に更新している自分のステータスはこんな感じ。


——————————————————————


PN:シエル

JOB:ガンブレイダー

Lv:35

HP(体力):30/30(+170)

MP(魔力):20/20

STR(筋力):20(+50)

VIT(耐久):10

AGI(敏捷):20(+170)

DEX(器用):50

INT(知力):320(+55)


右手:ヴァリアブル・ガンソード+20

左手:装備不可

頭部:空欄

胴体:LSブレストプレート

腕部:LSバンブレース

足部:LSグリーブ

装飾:〈ワイズマン・リング〉〈カウ・リング〉〈ビートル・ネックレス〉

使い魔:メタルスライム、ガーディアン


【スキル】

・ブレット作製技術

・セラフ魔術

——————————————————————


 スチールシリーズでHPとAGIは50ずつプラス。

 ビートルからドロップしたネックレスの効果で、STRが50プラスされている。

 レベルアップボーナスとダンジョンボーナスは全てINT極振り。


 現在は全属性レベル2の弾丸を作製できるようになった。

 弾丸は現在〈スチール・ブレット〉に更新中だ。


「メタ~」


「「「キャー、シエルさんのパートナー可愛い!」」」


 メタちゃんは現在クラスの女子達に囲まれ、順番に抱っこされている。

 召喚士の子が連れている〈サモンウルフ〉も大人気だが、抱っこしやすい、プニプニする、どことなく丸い目にマスコット的な愛嬌があるメタちゃんも負けていない。


 我が子を自慢する飼い主の気分とは、こんな感じなんだろうね。

 ガーディアン君が『私も出たいデース』とクレームを言ってきているが、出すとどんな発言をするか分からないから全スルー。


 愛でられるメタちゃんを見守っていると、そこでようやく担当の女教師がやって来た。


「お、おぉぉ……」


 彼女の姿を見たボクは、思わず変な声が出てしまった。

 女教師はなんとバニーガールの姿で、右手に大鎌を持っていた。


 見た目は完全にネタ要素全開。

 クラスの全員「ウソだろ?」と言わんばかりに彼女の事を凝視している。

 変な緊張感が漂う中、女教師は堂々とした佇まいで大鎌の柄を使い地面を叩いた。


「全員整列! 私の姿に気を取られているようじゃ、ディバインプレイヤーとしてはまだまだ未熟者よ!」


「そ、そうなの……?」


 奇抜な姿をするプレイヤーは少なくない。

 常識にとらわれるなという意味で、彼女の言葉には大いに一理ある。


 メタちゃんを抱っこしたボクが先に先頭に並ぶと、リッカとユウが後に並び他のクラスメート達も従って列を作った。

 綺麗に二列を作ったボク達を見て、彼女──PNサザンカは禍々しい笑みを浮かべる。


「良い子達ね。ではこれより三人一組のパーティーに分かれて、順次ダンジョン攻略に挑んでもらうわよ!」


 指示に従ってボクは、迷わずにリッカとユウの二人とパーティーを組む。

 他のクラスメート達も三人パーティーを組み終わり、合計10組がサザンカの前に整列した。


「組み終わったみたいね。今から10秒おきにダンジョンの中に入ってもらうわ。中は個別仕様だから、ブッキングの心配はいらないわよ。

 ……それじゃ先ずは第一階層攻略者であり、一年生最強のシエルさん達にチャレンジしてもらうわ」


「はい、任せて下さい」


「今の実力見せてやるぜ」


「ふふーん、思いっきり暴れるわよ」


 サザンカが洞窟の形状をしたダンジョンの前から退く。

 ボク達は迷うことなく、武器を手に最速クリアを目指し中に飛び込んだ。

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