第38話「嵐を穿つ星撃②」

 MMOのボスはHPを一回だけ削って終わる事はない。

 最初のゲージを削り切った場合、姿が変わったり更に強化されるケースが多い。


 事前に調査した情報では、正式版はベータ版と同じで弓を出現させた後、風の矢を放ってくるパターンだったんだけと……。

 バグによって変異した敵は形状だけではない。

 周囲に発生させた竜巻を、槍の形状に変化させて投擲してきた。


 ヒーラーにヘイトが向く仕様なのか、槍は真っすぐソフィアさんを狙う。


「お、おおおおぉぉぉぉぉ! なんだこりゃ!?」


 とっさに反応したブルワークさんが、飛来してきた槍を正面から受けた。

 嬉しそうに盾ごと後方に大きくふっ飛ばされ、彼女の目の前で踏み止まりHPが八割近く減少する。


 ……マジか、アレだけのダメージを受けるのか。


 第三層クラスのステータスを持つ彼女が八割も削られた事に、ボクは額にびっしりと汗を浮かべる。

 記憶している第一層ボスの攻撃力は、彼女レベルなら通常一割減るくらいだったはず。


 そんな防御値を持つブルワークさんが、あそこまで削られるなんてとんでもない事態だった。

 単純に威力が高いのか、それとも防御力を貫通する特性があるのか。


「守ってくれてありがとうございます、ブルワークさん」


「良いってことよ、その分後で罵声を浴びせてくれ」


「なにキメ顔で変態発言してるんですか、色々と台無しですよ!?」


 呆れ顔でソフィアさんが〈ハイヒール〉でブルワークさんを回復する。

 その間二人を目掛け飛んでくる二発目の槍を、リッカと二体のガーディアンが受ける。

 転倒しそうになるのを耐えながら、彼女とガーディアンの二体はHPが八割減少した。


「うぐぅ、コイツは中々だぜ!」


「回復するわ!」


 苦しそうな声を出すリッカ。

 すかさずユウが〈ヒール〉でダメージ分を回復させる。

 レベルに大きく差があるのに、HPが先程のブルワークと全く同じ割合の減り方をした。

 そこから導き出せる答えは、もはや一つしかなかった。


「なるほど、受けると防御力無視の割合ダメージか。これは中々に面倒な攻撃を……」


「シース姉さん、割合でダメージを貰うんじゃ防御スキルも意味がないよ」


「ああ、アレは避けるのが一番の攻略法だな」


 そうと分かれば、ここはタンクではなく機動力のある自分達の出番だ。

 突撃する覚悟を決めた後、二体のガーディアンを引き連れて前に飛びだす。


 連続で二回放たれる風の槍。

 ターゲットにされたボクとシース姉さんは、冷静に〈ソニックダッシュ〉で左右に回避。

 周囲に発生していた竜巻がゼロになると補充されず、今度は敵のモーションに変化が生じた。


 両手の剣に黒い風を纏わせて、ノーモーションで突進してきたのだ。


「ガーディアン、二体でヤツの動きを止めな!」


 後方からついてきていた大盾持ちガーディアンの二体が、ブルワークさんの指示で進路上に立ちはだかり斬撃を正面から受ける。

 しかし勢いがついているせいか、防御スキルで強化した彼らでも力押しに負けてふっ飛ばされてしまう。


 リッカ程ではないけど、彼等も第一階層のカンストしたステータスを持つ。

 それなのに受けきれないとは、敵の強さは第二階層の中ボスクラスかもしれない。


 彼等が攻撃を止めた事で、僅かながらケンタウロスの動きが止まる。

 このチャンスを逃すまいとボクは、ここで〈ガンブレイダー〉の能力を解放した。


「セラフブレット〈フュンフ・ブースト〉!」


 一気に弾丸を5発消費。

 レベル3になった〈クロス〉のシンボルは、STRとAGIに最大『200』強化を与えてくれる。

 従姉と自分は地面を走り、動きが止まった敵に己が所持する大技を発動させた。


「──〈メサイア・ヴォーパルソード〉!」


「──〈セラフ・アインスソード〉!」


 手数ではなく威力を重視した一撃を、左右からケンタウロスの下半身に叩き込む。

 敵のHPは数ミリ減少し、大きくその場からノックバックした。


 ぐぅ……中々な防御値だ……ッ!?


 ガンソードの柄を握る手がビリビリ震える。

 敵のVITが髙く、まるで硬い野菜の皮にナイフを入れるような感覚だった。


 ダメージを受けたケンタウロスは、そのヘイトを退避する自分と従姉に向ける。

 左手に風を纏っている。

 アレはまさか遠距離攻撃か。


 超高速回転する風の弾丸を放つ敵に、回復してきたガーディアン二体がボク達を守らんと前に立つ。

 防御スキルを発動した後、正面から大質量の砲弾を受け止めた。


 HPが三割くらい減少する。

 頑張って耐えてくれていたけど、弾丸が爆発すると二体は大きく後ろに吹っ飛ばされた。

 申し訳なく思いながらもボクとシース姉さんは、彼等のおかげで進路から退避する時間を得られた。


『受けるが良い、ターゲットロックオン。フルファイア……ム?』


 角付きガーディアンがガトリングを放射し、敵の注意を引き付けてくれる。

 しかし防御値が上がった事で、ダメージは全く入っていない様子。


 ガトリングが効かないと判断。

 角付きガーディアンは即座に攻撃を中断する。

 ストレージに収納し、今度は長身の対戦車ライフルを取り出した。


『これならどうでしょうか。ターゲットロックオン、──狙い撃ちます』


 ドン、と大きな炸裂音が鳴り響く。

 弾丸を受けた敵のHPが数ミリ減少した。

 あんなモノまで持っていたのか、と驚くけどケンタウロスはヘイトを彼に向け、先程の風の弾丸をお返しにと放つ。


「危ない!」


 先程から大忙しなタンク隊、リッカが間一髪で受けて角付きガーディアンを守った。


「中々にきわどい戦いが続くね……」


「これはミスをしたら、一気に戦線が崩壊するな」


 クールタイムを終えたらしい。

 敵が周囲に再び竜巻を発生させる。

 一通り見て覚えた行動パターンは『竜巻の槍』『突進からの斬撃』『左手で風の弾丸を放ってくる』の大まかな三パターン。


 どれも対応できないレベルではない。

 落ち着いてやれば充分に勝機はある。

 完全に見切ったシース姉さんの指揮の下、ボク達は連携を取って敵のHPを徐々に削っていく。


 HPが残り五割以下になると全方位に衝撃波を放ち、回避不能の〈スタン・ウェーブ〉攻撃を放ってきた。

 初見殺しの大技。第一層クラスのプレイヤーでは対応できないが。


「私がいる以上、状態異常にはさせません!」


 全体に状態異常無効化スキル〈クリア・ベール〉を使用したソフィアさんによって、全員一時行動不能になるのを回避できた。

 オマケにケンタウロスは大技を使用したことで、一時的に硬直状態に入る。


「皆、ここで畳みかけるわよ」


 ここが決め所だと判断し、ユウが回復に回していたMPを消費して全体にバフを掛ける。


「これまでのダメージを返すぞ、リッカ」


「了解です、ブルワークさん!」


 二人の騎士職だけが使用できる大技〈アヴェンジャー・ナイトソード〉が炸裂。


 残り三割まで減少した所に、シース姉さんが〈メサイア・ジャッジメントソード〉を叩き込み。


 そして最後にボクは、風属性の一撃〈アインス・ウィンドソード〉を一閃。


 正に怒涛のような一斉攻撃。

 HPがゼロになった敵は、身体が光の粒子となって爆散した。

 

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