第35話「配信慣れしていない末路」
三人から応援の言葉を貰い、サードエリアの境目で別れてから十数分が経過する。
少数の向かってくるモンスターを倒しながらボク達は、今のところ足を止めず順調に進むことができていた。
と言ってもセカンドエリアにいるモンスターの数が、サードエリアよりも少ないわけではない。
むしろ広範囲殲滅する規格外老婆がいない分、体感としては多くいるように感じる。
──ならばどうして足を止めずに進めているのか。
理由はチームを組んでいる上位プレイヤー達が、このエリアで大暴れしているからだ。
ヒャッハーと、世紀末世界の住人のような大喜びしながら、狩りをしている廃人ゲーマー達。
彼等の姿は正に、血に飢えた狂気なる狩人の如く。
此処を狩場としてる理由は、たぶん安全エリア付近で奪い合いになるのを避けるためだろう。
目的はどうであれ、ド派手に立ち回り敵を引き付けてくれるのは、先を急ぐボク達にとって
遠慮なくタンク役の人が〈挑発〉を使用する度に、こちらに向かってくる敵の半数が方向転換をする。
モンスターの密度が薄くなった場所を、自分と従姉は武器を手に切り開いた。
「うん、やはりシエルと連携するのは楽で良いな」
「小さい時からシース姉さんとコンビ組んでたからね」
フレンドリーファイアをしないように立ち回り、邪魔になるモンスター達を順に処理する。
従姉がどう動くかなんて、目で見なくても分かる。
惜しみなく今までため込んだ弾丸を装填、砲撃で複数体をまとめて消し飛ばす。
更に近い敵に刃を振っている内に、ようやくセカンドエリアの終わりが見えてきた。
「良し、このまま一気にファーストエリアも踏破するぞ」
「ちょっと待ってシース姉さん、アレ見て!」
意気揚々と次のエリアに突入する時。
この数日で見慣れた大きな黒い泥状の水たまりが、前方に複数発生する。
更にその水たまりは一点に集まり出し、あっという間に五メートルの高さまで盛り上がった。
泥の柱から先ず飛び出してきたのは、人間の頭を鷲掴みにできそうな右手。
続いて牛の頭に筋骨
左手に握っているのは体高の二倍はある大剣。
全長五メートルの巨大な牛人は、先週戦ったダンジョンボスの〈ミノタウロス〉に酷似していた。
ただ通常の個体と違って、全身は黒い体毛に覆われている。
日本の名産黒毛和牛が頭の中をよぎるが、あの肉質は食材に適さないだろう。
頭上に出現する一本のHPゲージ。
その上にあるヤツの名は──〈ブラックミノタウロス〉と何の
「……ボス部屋じゃないのに中々な圧を放ってるね」
五体以上いるブラックミノが発する威圧感。
先週戦った〈ミノタウロス〉以上だ。
倒すのは難しくないけど、あの数を周囲にいる雑魚モンスターに対処しながら戦うのは面倒すぎる。
一番良いのは戦闘を回避する事。
果たしてヤツ等が反応するラインはどの程度なのか。
進路を大きく変えて、エリアの端を全員で抜けようとしたら。
『グルオオオォォォォォォォォォォォォッ!!』
これにブラックミノの全てが反応し、自身の周辺にいるモンスター達を蹴り飛ばしながら
あの速度では逃げることは難しい。
こうなっては戦って全て撃破するしかない。
「やっぱり気づかれたか、総員戦闘準――」
シース姉さんが指示を出そうとしたら、敵の足元に巨大な魔法陣が出現する。
深紅の輝きが視界を覆いつくし、直後に上級魔術──〈エクスプロージョン〉が炸裂した。
大爆発によって雑魚モンスターは消し飛び、ブラックミノ達もHPを十分の一減少する。
自身にダメージを与えた者に復讐せんと、生き残った奴らは一斉に違う方角を向く。
そこに立っていたのは、黒いローブの下に白銀鎧を纏った六人。
彼等を筆頭に〈天使之騎士団〉の旗を掲げる、大人数のプレイヤー達だった。
「良いタイミングで来てくれたな、ここはアイツ等に任せよう」
「え、ブルワークさん。あの人達と知り合いなんですか」
「知り合いではないけど、強いて言うなら同志みたいなものだ」
「同志?」
理解できていないのは自分だけ、他の皆は納得した顔で先を急ぐ。
シース姉さんに「行こう」と手を引かれたボクは、この件に関して深く考えることを止めた。
手を繋いでこの場から離れると、いきなり後方から大きな歓声が聞こえてくる。
去り際にチラッと見たら彼等は「尊きバンザーイ!」と涙を流しながらブラックミノに思いをぶつけるように突撃していった。
ファーストエリアも無事突破し、遂に最終地点ゼロエリアに到着した。
目の前にあるのは直系二百メートル以上の大穴。
覗いて見ると底は真っ暗で、飛行スキルでも所持してない限り落ちたら即死は免れないだろう。
エレベーターや階段の類は周囲にない,
唯一あるのは壁を大きく削って作られた螺旋状の通路。
モンスターが徘徊しているけど、アレを突破して下りた最下部に第一層のボスフロアがある。
「二週間足らずでレベルをカンストさせて、オマケに私達がいるとはいえ第一層のボスに挑戦か」
「普通に考えると有り得ない速度だよな。ガーディアンに蹂躙されていたとはいえ、私達ですら去年の5ヶ月かけてようやく第一層を攻略したっていうのに」
「〈世界の意思〉に選ばれた方々は私達と違って、最初から第二層以降の武器や防具を手にしています。シエルさん達の武器なら、第一層で苦戦することはないですね」
そう言いながらソフィアさんは、高級そうなカメラを出現させて準備をする。
「配信するんですか?」
「後衛は全体を撮影するのに最も適したポジションですからね。それにせっかく数字を取れそうなボスと戦うんです、これは広報担当として是非とも全世界に発信しなければいけません」
タイトルは──『ホワイトリリーズの最強チーム/スペシャル仕様のボスをゲスト三人と攻略します』。
サムネイルは事前に準備していたらしく、六人の写真を良い感じに加工したもの。
待機所ができるとあっという間に五十万人以上の視聴者が入り、開始ボタンが押されるのを心待ちにしていた。
あの勢いだと百万人行くのではなかろうか。
感心しながら見ていると配信は開始され、ソフィアさんが慣れた感じで挨拶と説明を行う。
次いで従姉とブルワークが軽く挨拶をして、最期にボク達にもカメラが向けられた。
「前衛担当の〈守護騎士〉リッカ、シースさん達の足を引っ張らないように頑張ります」
「サポート〈神官〉のユウです、本日はよろしくお願いします」
二人は普段から配信をしていたらしい。
慣れた感じでビシッと挨拶を決める。
一方で挨拶もなく作業配信をしていたボクは、沢山の視聴者を前にガチガチに緊張してしまい。
「が、〈ガンブレイダー〉のシエルです。よよよろしくお願いしましゅ!」
──これ以上ない程に盛大に噛んでしまった。
何故か『可愛い』で埋め尽くされるコメント欄。
恥ずかしい。恥ずかしすぎる。よりによってこんな沢山の人達の前で噛んでしまうなんて。
今後は出会う全ての人達から「百万人の前で噛んだ女の子」と後ろ指をさされる事必至だ。
穴があったら入りたいとは、まさにこの事。
みないで、こんなボクの事をみないでぇ……。
周りの温かい眼差しによって限界に達したボクは、羞恥心のあまりその場で丸くなり行動不能となった。
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