第36話「家なきガーディアンズ」

「いやぁ……今日は良いものが見れたな。撮れ高はあそこがピークだったんじゃないか?」


「ふふふ、可愛すぎて緩んだ頬が元に戻らないわ」


「もー、忘れてくれないかなぁ……」


 モンスターを両断した後、親友二人に対し頬を軽く膨らませる。

 クール顔のシース姉さん以外は、全員ニコニコと満面の笑みを浮かべていた。


 ボス前に全体の士気が高いのは、とても良いことだ。

 でも大多数の人達を前にして、しょうもないドジをしたボクのメンタルはボロボロだった。


 左肩に乗っているメタちゃんは、そんなボクの頭をなでて慰めてくれる。

 今度から噛んだ人って思われるんだろうな。トホホ……。


 とはいえ今は戦地のど真ん中。

 ずっと悩んでいてもしょうがない。

 気合を入れ直したボクは、螺旋状らせんじょうの緩やかな坂道に立ち塞がる敵を切り捨てる。


 それからボスフロアを目指す。

 長い下りの通路を進むこと数分後。

 大きな穴を見下ろしたら、ようやく地面を確認できるところまで来た。


 だが下に向かうにつれて敵も強くなるらしい。

 遠方からでも視認できるくらい通路に立ち塞がる、複数のジェネラル級モンスターが進路先で待ち構えていた。


 漆黒に染まった個体はどれも強化個体。

 中々に面倒そうな圧を放っている。


 ──ちょっと面倒そうだし、ここは無属性の砲撃で一気に消し飛ばそう。


 即決したボクは、ガンソードの切っ先を敵の集団に向ける。

 十字架の陣を切っ先に展開。

 トリガーに掛けた指を引き絞ろうとしたら。


「うわ!?」


「メタメタ!?」


 目の前の地面が淡い光を放つ。

 そこから五体のガーディアンが姿を現した。

 突然の出現にビックリして、危うく撃ちそうになった砲撃を慌てて中断する。


 汚染された個体かと一瞬だけ警戒するが、よく観察すると彼等のボディは真っ白だった。

 バグに汚染された個体は、大体黒一色のはず。


 つまりアレは先週、自分が正常に戻したガーディアン達の可能性が高い。

 背を向けたまま集団の先頭にいる角付きは、ガトリングの銃口を敵に受けた。


 ブゥゥゥンと機関銃特有の継続した銃声が通路全体に響き渡る。

 大量の薬莢やっきょうがガトリングから吐き出され、地面を転がり光の粒子となり。


 秒間数十発もの弾丸を受けたモンスター達は、あっという間に通路から消えた。

 敵を排除した後、こちらを向いてガーディアンは誇らしげに胸を張る。


『合流した仲間と援軍に来ました。マイ、マスター』


「マスターって、もしかしてボクのこと?」


『イエス、オフコース』


「な、なんで……?」


『アレからこの世界の状況を調べたのですが、生産システムだけ機能していてマザーシステムは完全に破壊されていました。つまり我々は主なき家なし子です』


「家なし子……」


『はい、そこで恩人であり小動物のように可愛らしいシエル様に、我々を雇用してもらいたく参上いたしました。これから役に立つ姿を見せますので、なんでもご命令ください』


 そんな安易な理由で、自身の主人を決めてしまって良いのだろうか。

 しかも後方にいるガーディアン達も、貴女がマスターだと言わんばかりに揃って拍手をしている。


「……キミ達を元に戻したのはボクだし、一方的にバイバイってするのは可哀そうだから仕方ないか。良いよ、ボクが引き取ってあげる」


 今からどんな変化をしているか未知数のボスと戦うのだ、ここで援軍に来てくれたのは大歓迎である。

 承諾したらメニュー画面が開かれる。

 使い魔の〈メタルスライム〉の横に〈ガーディアン〉✕5が追加された。


「メタ~」


『先輩、よろしくお願いします』


 使い魔にも先輩後輩の設定があるらしい。

 ガーディアンはメタちゃんに敬語で接する。

 この子も受け入れているし、ログアウト時に一人じゃなくなるから丁度良かったかもしれない。


 シース姉さん達にも紹介しようと振り返ったボクは、ふと生配信している事を思い出した。

 こ、これは不味い。ユニーク大好きゲーマー達がこんな現場を見て黙っている訳がない。


 チラッとソフィアさんを見たら、ガーディアン参戦で案の定コメントが爆速で流れている。

 内容はミュートになっている件だった。

 どうやらガーディアンが出てきたタイミングで、此方からの音を止めたらしい。


 彼女はそれを前にして、慣れているのか笑顔で申し訳なさそうに説明した。


「すみません、ちょっとトラブルで音が入ってなかったみたいです。あのガーディアン達は何かって?

 ああ、あれでしたらクエストの特別助っ人ですよ。私もすごくビックリしてます」


 そこから数回のやり取りをしただけで、視聴者たちの質問は終わる。

 今度は羨ましがったり、ガーディアン参戦を面白いと評する人達のコメントが流れていた。


 一仕事終えたソフィアさんは、チャット欄を閉じて可愛らしく微笑んだ。

 アレだけの数を相手にしたのに全く動じていない。

 流石は世界トップチームの広報担当といった感じ。


 従姉は彼女に労いの言葉を掛けた後、待機しているガーディアンに歩み寄った。


「シースだ、シエルの従姉として力添えに感謝する」


『おお、強者のSPIRITをビシバシ感じます。下僕としてこれからはキリキリ働かせてもらいマース』


「第一層のカンストが四体に加えて、最強のプレイヤーに近いステータスの角付きが一体か、中々の戦力だな」


『イエス。助けてもらった御恩を返すためなら、カミカゼ特攻も辞さないデース』


 プレイヤーの使い魔は死んでもロストされず、24時間後に復活することができる。

 だから彼は使い捨てのコマとして、ボクに扱われる事を覚悟しているようだけど。


「ボクは安易に死ぬのは許さないよ。メタちゃんだって、ベータの時から一度も死なせてないんだから」


『それはご命令でしょうか?』


「命令だよ。、これは絶対遵守だからね」


『了解しました。マスターの命令を全身全霊で完遂してみせます』


 ビシッと敬礼をするガーディアンに、シース姉さんは肩をすくめた。


「シエルは、あの時から変わらないな」


「これがボクのプレイスタイルだからね」


「わかった。……ではボスフロアも後少しで到着する。これより全員、命を大事に行くぞ!」


 従姉の号令に全員が『了解』と短く答える。

 さて、いよいよ後数分くらい進めば、この第一階層のボスが待つエリアに着く。


 最強メンバーに更なる強力な助っ人を得たボク達は、視認できる所まで来たボスフロアを目指し進んだ。

 

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