第33話「みんなの前で弾丸作り」
──バグに触れて消去する。
ただそれだけで終わるほど、ボク達が受けたクエストは楽ではなかった。
バグに侵された床から大量のモンスターが出現したり。
バグで隠れていた大型ダンジョンを攻略したり。
バグの雨が降り、ボク以外が侵される状況下で〈ホーンオックス〉変異体と死闘を繰り広げたりもした。
ただその中でも一番ヤバかったのは、スライム育成所のマッスル老婆がバグに支配されて、それを皆で止めるのに危うく全滅仕掛けた事だろう。
恐るべしマッスル老婆『貴様ノ命産地直送パンチ!』でメタちゃんの防御すら吹っ飛ばされたのは、戦慄を禁じ得ない。
まぁ、皆の力で何とか動きを封じて、最終的には元に戻すことができたわけなんだけど。
そんな苦難を乗り越えた五日後の金曜。
いよいよ準備期間の最終日だ。
学校から帰ってきたボクは、いつもの家事を一通り終えた後は汗を流すため入浴中。
「ふぅ……この身体になって、もう一週間経ったなぁ……」
髪と身体を洗い終えた後、湯船につかりながら最近の学校生活を振り返る。
男子達の自分に対する反応は以前と変わらない。
常に接触しないよう、一定の距離を維持されている。
変わった事と言ったら、それは以前より増えてきている初等部、中等部、大学部に通っている女生徒からの告白。
もちろん全員目的は彼氏ではなく、ボクに彼女になってほしいというアピールだった。
なんで増えているのか大いに謎だったが、その中の一人に理由を聞いたらとんでもない事が発覚した。
どうやら白髪の美少女プレイヤー『シエル』が、自分なのではないかとヤオヨロズ学園に在籍しているファン達の間で広まっているらしい。
他にもアバターをカスタマイズした白髪の人はいるのだけど、配信に映るあの小さな身体と顔立ちを見て結論に至ったとの事。
「……あんまり深く考えないでやってたのに、まさかこんな事になるなんて」
慌てて自分のチャンネル登録者数を確認したのだが、どういう事なのか現在五十万人に達していた。
桁を二つくらい間違えていないか、思わず二度見した数字に手が震える。
「どうして作業配信しかしていないのに、あんなに人が集まったの……」
弾丸をひたすら作る作業なのに、沢山の人が気に入ってくれるとは思わなかった。
オマケに再生回数も初回のが既に500万回を超えている上に、コメント欄にはボクに対する感謝の言葉しか並んでいない。
「あんな中身のない配信で、みんなが幸せになってくれたなら良いんだけどさ……」
配信で獲得したポイントは、カメラとか配信に必要な機材を追加したり、アップグレードが可能らしい。
せっかく応援してもらっているのだ。
一方向だけじゃなく、色んな角度から見れるようにカメラを増やすか考える。
──優奈と龍華はダミーヘッドマイクでASMRを所望していたけど、これは恥ずかしいので却下。
「あー、そういえば日曜に校長先生と担任の先生がボクの件で来るって、沙耶姉さんが言ってたなぁ……」
一体どんな話をするのか、学生の自分は想像できなくて不安になってしまう。
モヤモヤしながらもボクは、身体が温まったので浴槽から上がる。
それからゲームにログインするために、急ぎ髪を乾かす事にした。
残っていた最後のクエストを終わらせ、報酬を手に自分達は道具屋に戻った。
店内に入るとレジには、いつも通り店主のエミリーが座っている。
一方で作業を終えて暇を持て余しているアメリアは、棚に並んでいるアイテムをはたきで楽しそうに掃除していた。
「はい、約束の50万エルです」
「まいどあり、コイツがアメリアお手製の〈ワイズマン・リング〉だ」
「シエルちゃんのはINTを極限まで追求した自信作よ!」
「ありがとうございます、エミリーさん、アメリアさん」
さっそく受取った指輪を装着する。
これによってボクの最終ステータスはこうなった。
——————————————————————
PN:シエル
JOB:ガンブレイダー
Lv:20
HP(体力):30/30(+110)
MP(魔力):20/20
STR(筋力):20
VIT(耐久):10
AGI(敏捷):20(+110)
DEX(器用):50
INT(知力):195(+55)
右手:ヴァリアブル・ガンソード+10
左手:装備不可
頭部:空欄
胴体:LSIブレストプレート
腕部:LSIバンブレース
足部:LSIグリーブ
装飾:〈ワイズマン・リング〉〈カウ・リング〉
使い魔:メタルスライム
【スキル】
・ブレット作製技術
・セラフ魔術
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防具は第二層序盤でも通用するLSI──ライト・サペリアー・アイアン──シリーズで作製してもらった。
これによってHPとAGIが合計で90プラスされている。残りの20は〈カウ・リング〉の効果だ。
頭部の防具がないのは、貰ったインゴットの一つをガンソードの強化に使用したから。
プラスの振り分けは『重さ』と『鋭さ』で半々。
バフなしでは中々に重たいけど、これならばボスに大ダメージを期待できるだろう。
最後に左の人差し指に装備下した指輪で、残り三種の属性と無属性レベル3が解禁された。
今の自分は第一層の〈ガンブレイダー〉の中では確実に最強だと断言できる。
「クエスト報酬で良いモノも手に入ったし、後は弾丸を加工したら明日の準備は完璧だね」
「メタメタ~」
胸に跳んできたパートナーを抱き締め、幸せな気分で頭を撫でている時だった。
今の話を聞いていたアメリアが、何やら目を輝かせて肩に軽く手を置いた。
「シエルちゃん、一つだけお願いがあるんだけど良いかな?」
「はい、なんですか」
「もし良かったら、私に弾丸を加工する作業を見せてほしいの」
意外なお願いに、ボクは目を丸くした。
「え、弾丸を加工するのを見たいんですか?」
聞き間違いかと思って、再度聞き返すがアメリアは目を輝かせて何度も頷いた。
「うんうん、是非とも極めし者のガンブレ道をこの目で見せてほしいんだ!」
「えーっと、座ってひたすら弾丸にシンボルを描く作業をするだけなので、メチャクチャ地味だし見ていても退屈だと思いますよ。それでも良いなら見せますが……」
「私は全然かまわないよ! エミリーもシエルちゃんが〈ガンブレイダー〉の弾丸作製をどんな風に作業してるのか気になるよね!?」
「え? あー、でも確かに〈セラフのペン〉の購入頻度が異常なことを考えると、どんな速度でやっているのかは気になるな」
「──というわけで店の片隅に、机と椅子を置いた簡易的な作業場を用意したよ!」
「えぇぇぇ……」
いつの間にか作業スペースが設けられている事に、思わずエミリーをチラ見する。
だが彼女は肩をすくめ〈セラフのペン〉を数十本渡してきた。
「悪い、俺も気になるから頼むよ。これは見物料ってことで、ただでやるからさ」
「……分かりました。そういうことでしたらやります」
席についたボクは、弾丸をストレージから取り出した。
数百発もある無属性の弾丸。今からこれを全て『レベル3』にアップデートする。
作業テーブルの端には、いつものようにメタちゃんが見物にやってくる。
深呼吸を行い精神を集中、余計な雑念とか周囲にいる人達を意識からシャットダウンした。
今回は周りに人がいるから配信はしない。
準備を終えたボクは、鼻歌を歌いながらペンを手に作業を開始する。
はてさて、この量は何時間くらいで済むだろうか。
日付が変わる前には終わりたいと思いながら、ただひたすらリズムに乗って弾丸にシンボルを描いていく。
全ての作業が終わったのは2時間後。
1000発近い弾丸を全てアップデートし終えたボクに、エミリー達は拍手を贈ってくれた。
「ははは、良いモノを見せてもらった。こいつは確かに一流のガンブレ道だわ」
はじめて会った時は、やめておけと言われた事を思い出す。
認めてもらえたことが嬉しくて、ボクはとりあえずドヤ顔をしておいた。
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