第29話「隠しダンジョンに突入」

 ノースエリアを出発したボク達は、モンスターを倒しながらクエストに記されている場所に向かった。

 ドワーフ店主さんの友人が発見したダンジョンは、ファーストエリアにある研究施設らしい。


 ほとんどの施設が倒壊している中、ガイドマーカーに従って進み何もない空き地の前で足を止める。

 パッと見は建物もない更地。

 こんな場所に大きな施設があるのだろうか。


 立っていても何も起きる様子がないので、ストレージから先ほど貰った透き通った野球ボールサイズの宝玉を取り出す。

 どうなるか周囲を観察していると、地面の一部からスキャナーみたいなものが出現した。


 スキャナーから赤外線が照射されて、ボクが手にしていた宝玉をスキャンする。

 直後に大きな駆動音が鳴り響き、空き地のど真ん中が大きく左右にスライド展開した。


「おお……こんなギミックがあったんだ」


「こいつはびっくりしたな……」


「ベータ版の時に調べた時は何もない事にガッカリしてたのに、まさかこんな大仕掛けがあったなんて……」


 空き地自体はベータ版の頃から存在していた。

 だけど宝玉を入手してクエストを受けた者がいなかったため、誰もこの地下へ続く隠し通路を見つける事はできなかった。


 新しい発見にワクワクしながら入り口に近づく、

 そこには地下に続く長い階段があった。

 軽く話し合った結果、回復スキルを使える神官のユウを真ん中に、先頭はボクで最後尾の殿しんがりをリッカが担当する事にした。


 数分くらい掛けて降りた階段の突き当りは、大きな扉だった。

 扉の側にパネルがある事に直ぐ気づき、ボクは緊張しながらも右手で軽くタッチする。


【ライセンスオーブを確認、ロックを解除します】


 若い女性の電子音と共に、破壊不能オブジェクトの扉がゆっくり開いた。

 電灯が点いて中の構造が姿を現す。

 基本的な作りは地上にある廃墟と化した研究施設と同じで、モンスターが徘徊はいかいしている普通のダンジョンだ。


「見た感じ特別感はないけど、この先はどうなっているのかな」


「エリートゴブリンとエリートコボルド……苦戦しそうな相手は見た限りいないな」


「良かった、電気は生きてるみたいね」


 真っ暗な施設内を探索しなくて済んだ事に、ホラーが苦手なユウはホッとしている。

 少々肩透かしを食らった感が否めないけど、彼女が行動不能にならずに済んだのは良かった。


「とりあえず探索しようか」


「メター!」


 ガンソードを手にしたボクは、二回トリガーを引いて〈ダブル・ブースト〉を発動する。

 レベル2になった〈セラフ・ブレット〉でステータスを強化、油断しているモンスター達に向かってメタちゃんと一緒に先陣を切った。







 最初の地下一階フロアの探索を終えたボク達は、発見した階段を使って地下二階に降りる事にした。

 下の階は一階と違って生きている電灯の数が少ない、点滅を繰り返す施設内部はバイオなホラーゲームを彷彿ほうふつとさせる。


「おおー、良い雰囲気じゃないか」


 モンスターの奇襲を警戒しながら、メタちゃんを除けば一番防御力が高いリッカが先頭を歩いて安全確認をする。

 ボクもその後に続くと、ユウが涙目で腕にしがみついてきた。


「暗いよ怖いよ暗いよ怖いよ暗いぃぃ……」


「ユウは夜のダンジョン探索は絶対にしないからねーって、こらこら抱きつくのは良いけど、ドサクサに紛れてニオイをがないで」


「おいこら、余裕あるんならくっ付くなよ! オレだってシエルの匂いに包まれたいぞ!」


 くんかくんかと、やや興奮気味に髪の匂いを嗅ぐユウにボクは苦笑いする。

 モンスターを警戒するリッカは、羨ましそうなジト目を彼女に向けた。


 そんな緊張感が欠ける中、注意されたユウは顔を真っ赤にして言い訳を口にする。


「ち、ちちち違うわよ! これは精神を安定させるためにやむを得ない行為で、こんなに不気味な空間はシエルニウムの摂取せっしゅを止めたら動けなくなるから仕方のない事なの!」


「おい、シエルニウムの服用には気をつけないと、離れた時に自分を苦しめる事になるぞ!」


「ごめんなさい、もう10分もこうしてるから少し離れるだけで──くぅ、動悸どうきがっ!?」


「ボクは依存性の高い禁止薬かな?」


 何度か物陰から飛び出してきた敵を、ユウの悲鳴に耳をやられながら片手間で処理して進む。

 地下三階と地下四階と攻略を終える毎に、高額な換金用のアイテム、武器を強化するのに必要な鉱石等をたくさん拾う事ができた。


 最深部に到着して攻略を進める。

 通路の奥にある重要そうな扉前に、角付きで真っ黒なガーディアンの姿があった。


「うわぁ……ヤバいのがいる……」


「おお、アレが例のガーディアンか」


「やだ、メチャクチャ強そうなんだけど……」


 しかも昨日シース姉さんが相手した個体と違い、なにやら重火器っぽいものを装備していた。

 前にプレイしたミリタリー系のゲームで見た事がある。


 アレは多分ガトリングという重火器だ。

 何も知らないで接近して、あっという間に死んだ記憶が脳裏をよぎる。


 不用意に前に姿を晒せば、その瞬間にハチの巣にされる。

 試しに地面に落ちている崩れた壁の瓦礫がれきを掴み、明後日の方角に放り投げてみた。


 放物線を描いて宙を舞う瓦礫。

 ガーディアンはロックオンして銃口を向けた。


 空回転をした後に銃口から、秒間数十発もの弾丸が放たれる。

 自分が投げた手の平よりも大きい瓦礫は、あっという間に木っ端みじんとなった。


「おお、アレの前に出たら瞬殺されるね」


 倒すのはどう考えても無理だ。

 ならばこちらにできるのは、速度でガーディアンに接近して触れる事。

 考えを伝えると二人は頷いて、各々の考えを述べた。


「見た感じ一発の威力は大したことがない、アレならオレの盾で防げると思う」


「リッカの盾は第三層の素材で作ったからね、引きつけてくれるならその隙にボクがタッチするよ」


「私はいざという時のために、回復スキルを準備しておくわ」


「それならユウに一つだけお願いをしたいんだ。カクカク・シカジカ……」


「……相変わらず発想がクレイジーね、わかったわ」


 作戦と役割が決まると、それぞれ配置に付く。

 リッカを先頭にその背後にユウ、最後尾にボクが立つ並びになると、ガンソードのトリガーを五回引いた。


「〈フュンフ・ブースト〉──それじゃミッションスタート!」


「行くぜー!」


 合図に応じてリッカが通路のど真ん中に姿を晒す。

 ガーディアンはガトリングを向け、盾を構えて防御スキルを発動した彼女に容赦のない集中砲火を開始する。

 スキルエフェクトを纏ったリッカの盾は、全ての弾丸を正面から受けて弾いた。


 弾丸の雨を防ぎ続けるリッカを背に、ユウがバレーボールのレシーブをするような姿勢を取る。

 助走をつけてダッシュしたボクは、跳躍と同時に彼女の手に足を乗せて。


「ユウ、お願い!」


「いっけぇ──────ッ!」


 思いっきり上空に向かって高く跳躍した。

 ガーディアンの標的が此方に向きそうになるタイミングでリッカが〈挑発〉を発動、ヘイトを強制的に自身に集めてガトリング砲を引き付ける。


 リッカの頭上を越えたボクは天井を蹴って落下位置を変更、右の壁に向かって斜め前直角に跳ぶ。

 大きく接近する事で敵のヘイトがボクに集中する。


 ガトリングの砲身をこちらに向けてきた。

 迫る弾丸を見据えたボクは、そこで移動系スキル〈ソニックダッシュ〉を発動した。


 ──レベル2の無属性は一時的に、STRとAGIを最大『100』プラスしてくれる。


 つまりボクのAGIは現時点で250にまで達する。

 加速系スキルを組み合わせる事で、このアバターは一瞬だけ敵の視線範囲外に移動が可能だ。


 至近距離まで来た事で、ガトリングはもう使えない。

 銃身で殴り飛ばそうとする敵の悪あがきを、メタちゃんがとっさに〈メタルガード〉で防いでくれる。


 至近距離まで来たボクは、そのままガーディアンのボディにタッチした。

 

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