第19話「アイテム探索」

 この〈ディバイン・ワールド〉のマップは、基本的に外周から中央に向かって攻略を進めていく。

 安全地帯の近辺は敵が最も弱く、そこから『サードエリア』『セカンドエリア』『ファーストエリア』と中央に近づくにつれて〈スライム〉や〈ゴブリン〉等の上位種とエンカウントするようになる。


 調子こいた初心者プレイヤーは、大体次のセカンドエリアのモンスター達にミンチにされるのが通過儀礼だ。

 ベータ版の初日には数多のプレイヤー達が返り討ちに遭い、直ぐにサードエリアとは全く違うんだと実体験させられた。


 サードエリアはチュートリアル、セカンドエリアに踏み込んでからが本番なのだと。


 実際ここから敵の強さも上がるので、最低でもレベル10以上で装備もそれなりに整えないといけない。

 プレイヤースキルが高ければ、ハードルはもう少し下がると思うけど。


「たすけてえええ!?」


「いやあああああ!?」


 というわけで早速、通常のゴブリンよりもやや筋肉質な〈ハイゴブリン〉達に囲まれて棍棒でポコポコ殴られている騎士の少女と魔術師の少女を見つけた。

 考えるよりも先に身体が動く。突進スキルで背後から接近して、まとめて敵の胴体を両断した。


 反撃も悲鳴もする暇すら与えずに、子鬼達は光の粒子となって散った。

 流石は〈ヴァリアブル・ガンソード〉、第一層のセカンドエリアでも一撃で済むとは。


「た、助けてくれてありがとうございます!」


「うそ、メッチャ可愛い……」


 辛うじて生きていた二人は、礼を口にした後にボクを見て呆然となった。

 やや顔が赤っぽいけど、まさか二人揃ってファンにならないよね?


 嫌な予感がしながらも、ボクは自分が来た方角を指差した。


「今なら敵がいないから、あっちからサードエリアに行って。22時になると敵は強くなるから、ここにそんな装備で長居すると確実に死ぬよ」


「「わ、わかりました!」」


 意外と素直な二人は、言う事を聞いてボクが来た方角に走り去っていく。

 ただその際に「シエルさんのチャンネル宣伝しますね!」と言い残して。


「別に宣伝しなくて良いのに……」


 まさかこれが正式版で流行ってるお礼なのか。

 分からない。分からないが、これ以上考えるのは止めておこう。


「問題なく戦えることが分かったし、ここから気合を入れて探索しようか」


「メッター!」


 元気満々なメタちゃんの頭をなでる。

 気持ちを切り替えて、当初の目的に専念する事にした。







 真っ暗な廃都市のセカンドエリア。

 初期地点のエリアより荒れ果てた状態で、建物もいくつか半壊している。

 道を照らす街灯も生きている物は少ない。


 夜の不気味な雰囲気は、超大人気作品バイオでホラーなゲームを連想させた。

 実際にゾンビを配置したら、ホラー耐性が低いプレイヤーは攻略不能となるだろう。


(昔からホラーは沙耶姉さんに付き合わされてやってきたから、ある程度は耐性できたなぁ……)


 店主から貰ったリストを片手に道を進む。

 希少金属があるのは、研究施設を備えている近代風のビル。


 それを見つけると、内部に足を踏み入れた。

 中には当然モンスターがいるけど、基本足音に気を払っていれば、ばったり遭遇するというアクシデントは回避できる。


「メタッメタッ」


 樹木に侵食された床に時折落ちている鉄片を、メタちゃんが嬉しそうに拾い食いしていた。

 かわいい、と思いながら何戦か徘徊はいかいしているモンスターを、先制攻撃で倒して進むこと数分後。


 情報を頼りに、指定ポイントの鉱石研究室に到着した。

 何に使うのかよく分からない機材が、薄暗い部屋のいたるところに並んでいる。


 中には〈ガンブレイダー〉が使用する加工機もあったが、長年放置されていたせいか、壊れて使用不可だった。

 直したら使えそうな気もするが、ストレージに入らないので邪魔にしかならない。


「まぁ、ボクにはメタちゃんがいるからいらないんだけどね」


「メタ〜?」


 鉄片がないか、機材の周りをウロチョロするパートナーの可愛らしい姿に思わずくすりと笑った。

 他にも金属を扱う職業の機材があることから、ここは色んな職業の人達が集まって金属の研究をしていた事が分かる。


 ベータ版では注目しなかった、色んな機材をメタちゃんと眺めながら、教室にある教卓みたいな台に向かう。

 台の上に目当ての金属はなかった。


 残念賞の鉄塊1個、武器防具の作製に使う鋼片1個だけ。

 どれだけ室内を探しても、そこに〈エレメント・メタル〉は存在しない。


「分かってはいたけど、直ぐには見つからないね」


「メタ!」


 鉄塊をメタちゃんにあげると、彼は嬉しそうに丸呑みしてこれまでストックした〈メタル・ブレット〉を台の上に出す。

 合計で入手した素体は50発、そろそろ贅沢に使用しても尽きない量になってきたが……。


「4桁くらいはストックしたいなぁ」


「メタ?」


「え、そんなに作ってどうするのかって。それはだって昔から名作アニメとかで、武器の貯蔵は大事だって言われてるからさ」


 何事も物資は大事、ついでに質も確保できれば尚良し。

 幸いにもプレイヤーのストレージは、無限にアイテムを収納することができる。


 使い切れるかどうかではない、使い切れない量をためる事に意味があるのだ。


 ──という事を以前に友人達に答えたら、廃人的ゲーマーの思考だと呆れた顔をされた。


「いざという時に足りないよりは、あり過ぎた方が良いと思うんだけどな……」


 研究室を出て他の無事な部屋も探索すると、換金用の宝石とか見つける事ができた。

 一件目の建物を探索し終えた後は、直ぐに二件目に向かう。

 

 同じことを繰り返すこと六件目。


 研究室の中に入ると、教卓の上に明らかに今までとは違う輝きを放つ金属を発見する。

 真っ直ぐに向かい手に取ったそれは、


 紛れもなく──〈エレメント・メタル〉だった。


 窓から差し込む光を受け、七色に輝く金属の塊。

 サイズは10センチ程度で、重さは全く感じない。


 使用用途は主に〈ガンブレイダー〉の弾丸しかなく、他の職業にとっては無用の長物。

 数時間かけてようやく一つ目を入手したボクは、嬉しさのあまり歓喜に震えた。


「やっと見つけたね、メタちゃん!」


「メタァァァァァァァァァァァァ!」


 喜びのあまり、机の上で小躍りするメタちゃん。

 実に可愛らしい姿を微笑ましく眺めた後に、ボクは手に入れた〈エレメント・メタル〉をあげた。


 両手で受け取ったメタちゃんは、しばらく色んな角度から眺めて口の中に放り込む。

 甘味を口にした人のように、レアな金属を味わう彼は至福そうな顔をする。


 金属の味は自分には分からないけど、相棒が幸せならそれだけで十分だ。

 しばらくして体外にポンと排出されたソレは、七色に輝く弾丸〈エレメント・ブレット〉。


 色と輝きと形状、何度見ても全てが美しいと心の底から見惚れてしまう。

 手にした弾丸をストレージにしまったボクは、未だ余韻に浸っているメタちゃんの頭を撫でた。


「よーし、この調子で後四件くらい回ろうか。……うん?」


 部屋から出ようとした時、一つのモニターに黒いノイズが発生している事に気付いた。

 もしかして生きている機械があるのか。


 不気味ではあるが、興味本位でモニターが繋がっているPC本体を見る。

 だが機動音は無く電源ランプが点いていない事から、完全に死んでいることが分かった。


 ならばどうしてモニターが点いているのだろう。

 気になったボクは液晶画面に、そっと手を伸ばして指先でタッチしてみる。


「ふぁ!?」


 ボクがモニターに触れたとたん、白い光の点が生じてそこからモニター全体を覆う。

 光が収まった後、モニターに発生していたノイズは完全に沈黙していた。


 先日の事と合わせて考える、もしかして夜中にだけ起きるホラー演出なのかと推測した。

 こういうジャンルが大の苦手である優奈が側にいたら、今頃は悲鳴を上げて抱き付いていただろう。


 周囲を見回し、これ以上は何も起きないと判断する。

 部屋を出たボク達は、次のファーストエリアにあるビルに向かう事にした。

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