第18話「属性弾丸作り」
ログインして先ず始めた事は、昨日と同じく集めた鉄片200個を〈セラフ・ブレット〉にする事。
いつも通りメタちゃんに食べてもらい、排出された弾丸の加工作業を始める。
「──と、その前に配信しちゃおうかな」
タイトルは前回と同じ【作業配信・集中するので無言です】を設定、カメラの角度を今回は斜め上にして開始する。
「ひぇ……!?」
チャット欄が何故か『天使降臨』で埋め尽くされる。
ただならぬ光景に恐怖を感じたボクは、そっ閉じして作業に集中する事にした。
落ち着け、落ち着け自分。
なんせ今日行うのは新しく獲得した、四大天使のシンボルを描く作業なのだから。
ストレージからペンを取り出し、目の前にウィンドウ画面が表示される。
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〈クロス〉:STRとAGIを強化。
〈シールド〉:自身の正面に障壁を展開。
〈ミカエル〉:火属性付与、風属性耐性付与。
〈ウリエル〉:土属性付与、水属性耐性付与。
〈ガブリエル〉:水属性付与、火属性耐性付与。
〈ラファエル〉:風属性付与、土属性耐性付与。
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基本二種に加えて、新たな四つの項目に注目する。
正直どれから始めても良いけど、先ずは〈ミカエル〉から作製する事にした。
MPを消費すると、ペンは選択した属性に対応した色を宿す。
火属性を表す深紅のインクで描くのは『光輪と天の片翼』。
ベータ版では数えきれない程に描いたシンボル。
慣れた動作であっという間に書き終えると、弾丸は真紅の輝きを放って完成する。
先ずは一つ目、後はこれを各属性50セットずつ作る予定だ。
いつものようにメタちゃんに真横で見守られて、ルンルンと鼻歌を歌いながら作業する。
(そういえば、今日は沙耶姉さんの様子がおかしかったな……)
帰宅して洋服店であった事を説明した時、いつもクールな表情を崩さない従姉は珍しく苦々しい顔をしていた。
それからどこかに電話をした以降、今度は何か悩んでいる様子だった。
いっぱい服を貰った事がまずかったのか念の為に聞いたのだが、それは違うみたいで首を横に振られてしまった。
むしろ沙耶姉さんは守里さんと友人らしく、今度お礼を兼ねてご飯を奢ると言っていた。
ならば一体何に悩んでいるのか、単刀直入に尋ねた自分に従姉は答えてくれなかった。
(うーん、沙耶姉さんは気にするなって言ったけど……)
彼女があんな顔をするのは、自分が体調を崩して寝込んだ時くらいだ。
つまりそれと同じくらい、ショックな事があったのだと予想できるのだが。
(まさか守里さんから、女の子になった事がバレた? いや、でも下着や服を買うのはいつもの事だし、女装用のモノを買ったんだなとしか思われないんじゃないかな……)
いくら考えてみても答えは出てこない。
気を紛らわすために、歌を口ずさみながら作業に没頭すること数時間後。
弾丸に〈ラファエル〉を象徴する風のシンボルを描き終えると、手にしていたペンが砕け散った。
淡い緑に光る弾丸を、右側の四種類別に分けている大量の弾丸エリアに置く。
休んでいる暇はない。次の弾丸だと無意識に手を伸ばしたボクは、
「──あれ、今ので最後だったんだ」
指先が空振って並べ立てていた未処理の弾丸が、もう一つも残っていない事に気がつく。
左側には見学している途中で、スヤスヤと眠ったメタちゃんがいるだけ。
気持ちよさそうに眠るパートナーを見て、ボクは凝り固まった手足を軽く伸ばした。
一応漏れがないか確認のためにストレージを開いてみたら、貰ったのを含め全ての〈セラフのペン〉がなくなっていた。
ドン引きするドワーフお姉さんの店で5本追加で購入したのだが、どうやら全て使い切ったらしい。
ということは合計で200発も自分は〈セラフ・ブレット〉を作製した事を意味する。
「あー、もうこんな時間か。けっこう集中してやり込んでたね」
夕方に始めたのだが外は完全に真っ暗、時刻を確認すると午後22時になっていた。
作業を終えたので配信を終了する事にした。
うん? なんか前よりも増えているような……。
視聴者数が五万人超えている事に思わず二度見したけど、きっと休日だったから偶然立ち寄ったんだろうなと思い、深くは考えずに画面を消した。
「やっぱり〈クロス〉と違って、四大天使のシンボルは描くのに時間が掛かるなぁ」
四種の各50発の弾丸を並べると、正に壮観の一言だった。
机の上には『赤』『青』『緑』『土』の四色ごとに区分けされた弾丸が色鮮やかに輝いている。
基本二種に比べたら、刻むのが少々大変な属性弾丸だが品質は全て【最良】。
芸術品のような輝きを放つ弾丸を手に取り、ボクは思わず笑みがこぼれる。
「ふふふ、レベルも12になったしステータスに振らなきゃ」
迷わずに10ポイントを振って、INTを105にする。
本来は作製技能にプラス修正をしてくれるDEXを上げるのが普通。
しかしプレイヤースキルでカバーできるので、ボクは遠慮なくスキル解禁を優先する。
弾丸を全てストレージに収納して、椅子から立ち上がりパートナーを指先で軽く突いた。
眠っていたメタちゃんは目を覚まし、目をうっすら開いてこちらを見上げた。
「メタ~?」
「長く待たせてごめん、今日は採掘を1時間くらいやったら珍しい金属を求めてダンジョンに行こうか」
「メター!」
変わった金属大好きメタちゃんは、ボクの提案に完全覚醒して嬉しそうに飛び跳ねる。
本日の方針が決まったので、先程ペンを購入したドワーフ店主の店に向かう事にした。
さっき買い物したのに、また来たぞこの小娘。
はたきでアイテムの清掃をしていたドワーフの女性店主が、そんな顔をしたのは気のせいではないだろう。
客のいないカウンターの前で、仏頂面をしている彼女に自分は今回買い物ではなく質問をした。
「ドワーフ店主さん、珍しい金属についてなにか心当たりがありませんか」
「珍しい金属か、そんなの聞いたことないな。この第一層にあるのはショボい鉄片だろ?」
「ギルドに掲示されてるクエストはそうですね。でもボクが求めてるのは、そういう表には出てこないモノなんです」
「……ということは確定された情報じゃなくて、噂程度の情報が欲しいという事か。まったく、とことん普通とは正反対のスタイルだな」
意図を理解して、呆れた顔をする店主。
ベータ版の時には、こういう隠し要素がある事を発見してから、ひたすらそれだけを探し続けた。
第一層から第三層までの隠しアイテム──主に金属系に関してならば、ボクは全て頭の中に入れている。
そして他の安全地帯ではなく、このノースエリアの道具屋はそういう情報が入ってくる事も。
リストを入手しなければ、アイテムを探しても見つけることはできない。
知ってるんだぞ、という顔をしていると彼女は観念するように目の前に情報のリストを出した。
「一つ言っておくが、あるかどうかは定かじゃない。行ったところで無い可能性もあるし、もしかしたらあるかもしれねぇ。無駄骨になると覚悟して挑むんだな」
「ありがとうございます、ドワーフ店主さん!」
目の前に表示されたのは【アイテム探索】。
リストには指定された施設内に〈エレメント・メタル〉が目撃された情報が載っていた。
この金属を使用した弾丸は、属性の中級近接スキルを解禁することができる。
メタちゃんと自分の為に是非とも欲しい一品だ。
「というわけで、早速出発だー!」
「メター!」
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