第20話 神戸署長
都内の大学病院。個々で区切られた病室のひとつに、彼女はいた。上半身は包帯でぐるぐる巻きにされ、右目には眼帯を付けている。優雅に白いベッドに横たわり、物憂げに窓の外を眺めていた。
「先生」
部下の声に振り返り、岡瀬清子は薄く微笑みを浮かべた。
「なにかしら」
「お客様です。木垣遼一と名乗っており…」
「なんですって?」
岡瀬はみるみるうちに表情を歪め、体を起き上げる。刹那、痺れるような痛みが彼女を襲った。
「っ…」
「先生!無理はなさらず…」
「ううん、私は大丈夫なの。それよりも、早くそのお客様をお通しして」
岡瀬は平静を装い、部下に素早く指示を出す。部下は不思議そうに首を傾げながらも、病室を出ていった。
残された清子は1人、どこかを見つめて考え込む。
「…木垣。升川から聞いた時、まさかとは思ってたけど、ほんとに遼一だなんて…」
「先生!連れてまいりました!」
「!わ、わかったわ、お通しして」
岡瀬は慌てて笑顔を作る。扉がゆっくりと開き、男が一人入ってくる。懐かしい顔。岡瀬は、はっ、と息を呑む。
「…神戸先生」
「ほんとに、遼一なの?」
「はい。…やっと、来ることができました」
遼一は深くお辞儀をして、紳士ような上品な笑みで、岡瀬へと歩み寄る。
「久々に、その名前で呼ばれたわ」
「ご結婚されたそうですね。遅くはなりましたが、お祝い申し上げます」
「そんな、堅苦しいわ。もっと肩の力を抜きましょ?お互い、ね?」
にこにこと微笑む岡瀬に、遼一も不自然ながら微笑む。二人の間に、気まずい沈黙が走る。
「覚えてる?高校生の頃の」
「は、はあ。すみません、あまり…」
「お兄さんが、私たちを待ち伏せしてたの」
「あ、あの件は兄がご迷惑おかけしました」
はっと思い出すようにして、遼一は深く頭を下げる。岡瀬は慌てたように遼一の肩を持つと、ぐいと近くに引き寄せる。
「!」
「怒ってるんじゃないのよ。ただ…葉介さんがあの後、心を病んでしまったと聞いてすごく不安だったの。どう?彼は元気してる?」
「…ええ、ピンピンしてます。元気すぎるくらいに元気だし、ひょうきんだし。周りから見たら、ただのお調子者です」
「そう…。強いのね」
岡瀬は視線を外すと、ふっと笑う。
遼一は優しくその手を振りほどくと、ぱっぱとスーツを整え、岡瀬に向き直った。彼女は何か言いたげに動く唇を、堪えてぐっとつむる。
「俺はね、ずっと待ってたんですよ。高校卒業して、胸を張って付き合える時を」
「あ…、遼一」
「僕は怒ってなんかいないですよ。ただ、あまりにもあっさりしすぎていたな、と思うだけです。教員を辞めたかと思えば、弁護士に転職、すぐに上京。俺の事なんか忘れちゃったみたいに働いて、テレビにも出て、ついに警察をも動かせるようになった。そして結婚」
「遼一の事を忘れたわけじゃないの」
「そうですか」
「本当なのよ!お願い、信じて」
「もとより信じてますよ」
遼一は右手に持った革の鞄を開け、小さな機械を取り出す。
岡瀬の顔色が変わった。
「遼一、それは…」
「ちょっと前に、探偵に見てきてもらったんですよ。不倫調査っていう名義で…あんたもわかっているでしょう、俺は親が何なのか未だにわかってない、だから愛情の使い方もわからない。相手への執着心も、上手くコントロールできない。でもあんたは俺を受け入れた」
「どうしたの遼一、あなたおかしいわよ…」
「おかしいのはあんたのほうだ。すまないけど、盗聴器を仕掛けさせてもらったよ。俺の心に一瞬だけ、裏切りの文字が浮かんだんだ」
「そんな…」
岡瀬は見開いた目を機械に向け、カタカタと小さく震え始める。
そんな彼女には見向きもせず、遼一は続ける。
「でも、ある意味予想外ともいえるけど、君の裏切りの容疑は晴れた。父親からの命令で渋々籍を入れた、いわゆる政略結婚だった、と。君の意思ではなくてよかった」
「遼一、もうやめて」
「いや、問題はここからだ。…あんた、なぜそこまで父親に従う?敬う?」
「!!」
「盗聴器で聞いたよ。町の人々を優先して守らなきゃいけない場面で、あんたは血迷ったのか、父親である神戸署長の周りに厳重すぎるくらいに警備を張った。結果署長は無事だったが、逆に都内の事件は多発した。升川刑事、指示を受けてご立腹だったそうだよ。そこを、俺の探偵が接触したそうで」
固まったままの岡瀬を、遼一は冷たい眼で睨みつける。
「理由がどうであれ、あんたのしたことは自分勝手すぎる。…軽蔑するよ」
「…わかった、私の負けよ、全て話す」
岡瀬は遼一の方を向いた。その目は赤く血管が滲んでおり、遼一に微かな「罪悪感」を芽生えさせた。
「…いいのか」
「ええ、いいわよ。これまで怯えてた自分が馬鹿みたい」
「前置きはいいんだ。早く」
「ええ。人は、いないわね」
「追っ払ったからいないよ。個室だし」
「……」
「…先生?」
「…馬鹿みたい…」
両腕で自身をめいっぱい抱え、真っ青な唇を震わせて、岡瀬はベッドにぐったりともたれかかった。
「何か、怖いのか?」
「…仕事が」
「仕事?」
「無くなっちゃう、かもしれない」
「どういうことだよ、もっとはっきり」
「借金」
「…借金?」
いきなりどうした、と遼一は半ば呆れるように息をつく。岡瀬は、ばっ、と体を持ち上げると、息継ぐ暇もなく叫んだ。
「弁護士だってコメンテーターだって!みんなお父様が裏で手を回したお陰で成り立っているの!頭脳も才能も欠片もない!私の人生は全部偽物なのよ!だから、もしお父様に逆らったら、化けの皮全部剥がれちゃう!」
「先生」
「私が私じゃ無くなっちゃう!お父様は払った賄賂の額をそのまま私に押し付けて縁を切るって」
「先生!」
「…!!」
遼一は叫び、岡瀬の肩を掴む。こんなに荒ぶった彼女を見たのは、初めてであった。今まで溜め込んでいたものが、いよいよ氾濫を起こしたのだろう。ぜえぜえと胸を上下させ、ひとり歩きしていた呼吸を整え、ゆっくりと遼一を見上げる。
「先生、落ち着けよ」
「…ごめんなさい。取り乱しちゃったわね」
顔を上げ微笑む岡瀬。充血した目が痛々しい。そしてぽつ、ぽつと言葉を紡いでいく。
「お父様は、生まれた時からずっと我が家のトップ。全国的にも、その勢力は絶大なの。だからお父様は、娘である私も、多大な権力を握れるくらいに完璧でなきゃいけないと思っていた。でも、私は期待通りにはいかなかった。頭の悪い出来損ない。このままだと自分の名誉に傷がついてしまう。そう考えたお父様は、私を名門高校に入れたわ。もちろん、多額のお金を積んで」
「裏口入学だったわけか」
「ええ。そしたらたちまち、巷でニュースになる。そして顔も知らない人たちは言うの、親の才を継いだんだわ、天才なんだわ、って。娘の気も知らずに」
「…親父さんはそれで、後戻り出来なくなったんだな」
「その通り。そして、今度は司法試験にお金をはたいた。お父様自身、警察署長という役職で守られている。それに、賄賂を払う度に私に念押しして言ってたの、『このことをもらしたら今までの金をお前が払うことになる。お前自身の名誉代として』って」
「名誉代、か。洒落たこと抜かしやがって」
「…だから、私は起訴できないの。私の名誉が全て化けの皮だって世間が知ったら…それこそ前みたいに、命を狙われてしまうかもしれない!」
「…先生、ありがとうございます」
はっとしたように、岡瀬は顔をあげた。遼一はその顔に僅かに微笑みを浮かべると、口を開く。
「先生の事情は、理解できました。先程は少し取り乱してしまい、申し訳ございません」
「あ…ありがとう、こちらこそごめんなさいね」
「だけど…私に、嘘はよくないです」
「え?」
「先日の、升川刑事への指示。市民よりも父親である署長の安全を優先し、厳重に警備を張るように言ったらしいですね」
「そ、そうよ。勿論、申し訳ないとは思ったけど、脅されてたわけだし…」
「ふーん。しかし先生、根本的なことをお尋ねしますが、どうして署長が狙われると思ったのですか?」
「え?」
「だって、これまでの被害者を見てわかる通り、地位のある人物は被害に遭っていない。むしろ、アル中やら犯罪者やら、何かしらにおいて問題のある人々が犠牲になっているんです。確かあなたは自身の推測を文書で送ってきていましたよね?腹裂きの刑吏はパッと見て嫌いだと思った者は躊躇なく殺していく、臓器を摘出するのはこの異名通り、自らの名の下で愚かな者を処刑しているんだと考えられる、と」
「そ、そうね。筋は通っているでしょ?」
「ええ。そこに関しては異論はありません。しかし…そうあなたが考えていたのなら、署長のもとに警備をよこすのは不自然です」
「どうして?」
「腹裂きの刑吏が署長を殺す動機として考えられること…あなたは当然、自身への賄賂のことを考えたでしょう。しかし犯罪の性質上、刑吏は短気で、動機もあいまい。つまり、情報を入手し、警察署に侵入し…という計画的犯行は、今までからして考えられない。署長が殺されるリスクはとても低いという結論に達します。もちろん、自身の推測をもとにしたはずなので、先生もそれを踏まえて市民と署長を天秤にかけたはずです。しかし…ここまで来るとわかる通り、どう考えても市民の方が危険性が高いのです」
「…!」
岡瀬の冷や汗が、首筋を伝っていく。その姿からも、彼女にやましいことがあるのは明白であった。遼一は自身の推理に確信を覚える。
「しかし、あなたは署長の方の警備を優先した。何故でしょう。僕なりに考えて見たんですけど、恐らく…賄賂以外に、動機になりうるような決定的な何かを、署長が持っていたのではないでしょうか?」
「…もう、止めて、私、ほんとに…」
ここで止めにかかるのは、肯定に等しい。
遼一は冷たい目で岡瀬を見下ろす。
「もう、あがくのはやめろよ」
「遼一…」
「知っているんだろう?その何かが、一体何なのか。だから署長が狙われると思った」
「……」
「頼む、教えてくれ。これはこの事件において、重要な手がかりになる」
「…人」
「え?」
「犯人よ…腹裂きの刑吏」
「…まさか」
「お父様は最初から犯人を分かってて、でもそれを隠蔽し続けているの!何故かは分からないけど、」
「先生!なぜ今まで隠していたんだ!」
「お父様に秘密だって念を押されたからよ!バラしたらどうなるか分かったもんじゃない!」
「先生、言うんだ」
「いやよ」
「公にはしない、名前だけ聞かせてくれ」
「そんな、」
「頼む、言ってくれ!!」
勢いよく頭を下げる遼一。唖然とした様子でそれを眺めていた岡瀬であったが、ぐっと唇を噛んだかと思うと、口を開いた。
「…確か、暁瑠衣…そんな名前だったわ。どうせお父様の秘密をバラしちゃったんだし、言っても言わなくても同じね。…遼一?」
見ると、遼一は先程の荒々しさとは打って変わって、青ざめた顔で遠くを見つめていた。血色の悪い唇が小さく震えている。
「どうしたの、ねえ遼一!」
「…まずい」
「え?」
「あ…いや、何でもない。教えてくれてありがとう、先生」
そう言うと遼一は、別人のような爽やかな笑顔で、その場を去っていった。
…かと思うと病室を出た途端に、脇目も振らず走り出す。
「早く、行かないと、早く…!」
息も絶え絶えに病院を出ると、素早くポケットからスマホを取り出した。
「…へえ」
町の北に位置する住宅街。瑠衣は耳に当てたスマホを下ろすと、呆れたような、嘲笑をこぼした。
「瑠衣さん、さっきのは一体…?」
「バレた」
「え?」
「警察側はもう犯人に気づいているみたいだ。しかも、署長が」
「署長!?」
思わず声を上げる里音。それを右手で制し、
「声が大きい」
「す、すみません。そんな重要なことを…電話の相手、誰だったんですか?」
「遼一くんだよ」
「遼一さんて、あの警察の、ですか?」
「ああ」
「遼一さんが分かってしまったって事ですよね…。瑠衣さん、捕まるのも時間の問題ですよ」
「いや、心配は無用だ。遼一くんは僕らの味方だよ」
「え?」
「元から、遼一くんは僕の正体を知っていた。というか僕が白状した」
「え?…え?」
訳が分からず、里音は何度も聞き返す。瑠衣はさも彼女の混乱を愉しんでいるかのように、声を上げて笑う。
「え、え、つまり、遼一さん…共犯なんですか?」
「共犯って言うと語弊があるけど、まあそんなところかな。僕のことを知っていながら、隠蔽し続けてくれてるわけだから」
「そんな…どうして?遼一さんは警察ですよね?」
「うーん、それには深ーい訳があるんだよね」
「訳?」
「里音にはまだ教えないよ」
意味ありげにふふんと笑うと、瑠衣は目の前にあった家の方を向いた。不服そうに頬を膨らませながらも、里音はその家を見る。
直後、はっと声が漏れた。
「る、瑠衣さん、ここって」
「うん。…刑事のお宅」
周囲のものと比べて一段と年季の入った一軒家。石で出来た塀の隅には、「升川」の文字があった。
「どうしてですか?危ないのに…」
「彼は僕ら以上に危険が迫っている」
「え?」
「突撃するよ」
そう言うより先に、瑠衣は扉へと走っていった。素早くポケットから針金を取り出し、鍵穴に通す。
「古いものだから、簡単に開きそうだ」
「それは?」
「ピッキング」
そう言い終わる前に、鍵穴がカチャリ、と音を立てた。はっと、2人は顔を合わせる。
「…いいね、里音。ここからは僕らは探偵として、刑事と接する。僕は佐久野一樹、君は山田沙月」
「はい」
そして突き破るようにして、部屋に入る。
埃臭い廊下を抜ける。数ヶ月ほど、ろくに掃除もしていなかったのだろう。
そして開けた場所に出た次の瞬間、
里音はその場で固まった。
リビングにはテレビとソファー、そしてその上には、丸く縛られた縄。それに手をかけ、震えている男。里音のよく知っている後ろ姿であった。
「升川刑事!!」
「…!」
彼はゆっくりと、里音を振り向く。虚ろな両目が、2人を捉えた。
「…お前たちは」
「何をしているんですか刑事。なんて、愚かなことを…正気ですか」
「はっ。俺は、刑事失格なんだよ」
「え?」
「あの時…目の前だったってのに、事故に遭った嫁を助けられなかった。あのままあいつは死んで…娘には嫌われ、愛想を尽かされ出ていかれた。意地にならずに、すぐ追いかけていっていれば、道を踏み外すことも…俺より先に死ぬことも、なかったんだ!全部、俺が殺したようなもんだ!それで、正気でいられると思うか!!?」
荒々しく叫ぶ升川。動けなくなっている里音をよそに、瑠衣は彼に駆け寄り、腕に強く掴みかかる。
「離れるんだ、今すぐ。死んだって何も変わらない、ただの現実逃避で死ぬな」
「やめろ、離せよ!」
次の瞬間、ドガッ、という音がした。里音がはっと我に返ると、そこには床にうずくまる、瑠衣。
「瑠衣さん!!」
悲鳴に近い声で里音は叫ぶと、無我夢中で瑠衣に走り寄っていく。
「…大丈夫、ちょっと投げ飛ばされただけだから」
「でも、頬に血が…」
「それより里音、升川を止めるんだ。彼にはいくつか、確認したいことがある」
「…瑠衣さん」
里音はゆらゆらと立ち上がる。升川の方をキッと睨みつけ、口を開く。
「…刑事、まさかこんな形で再会するとは思っていませんでした」
「お前たちこそ、何故ここを知っている」
「探偵なので。調べようと思えば何でも調べられます」
「…ははっ、まんまとやられたな。なあ天才少女さんよ、いいか、お前はこんな大人になるんじゃねーぞ」
「…」
嘲笑を浮かべる升川に、里音はお望み通りの冷ややかな目で見つめる。そしてゆっくりと、口を開いた。
「…一応お聞きしますが、娘の那緒さんが亡くなった留置所の爆発について、新事実があったのはご存知ですか?」
「…は?」
升川はその場で固まる。彼が休職し引きこもり始めたのは、爆発のあった翌日から。部下である遼一ともろくに連絡をとっていなかったため、それを知っているはずはなかった。
「あの後、都内の警察が調査したところ、那緒さんの散ったあの部屋から…小さな機械の欠片が出てきたのです。もちろん、あそこでは電子機器の持ち込みは出来ない。以上のことから、警察はその欠片が爆弾の一部であると判断しました。…ちなみに、その欠片は那緒さんの部屋からしか出てきていません。これがどういうことか…刑事さんなら、分かりますよね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。聞いてないぞ?」
「都内の警察の極秘情報ですから。世間にも発表されていません。だって…裏しか感じないじゃありませんか。腹裂きの刑吏が犯罪を繰り返してる、その街の刑事の娘が殺人未遂、その後何者かによって爆弾を仕掛けられ…」
「もうやめてくれ!!」
自分の頭をがむしゃらに掴み、その場に崩れ落ちる升川。その顔は涙と絶望で歪み、もはや原型をとどめていないに等しかった。
「さあ刑事。娘さんの死亡に事件性があるという事実があって、おちおち死んでられますか?犯人を探した方が『父親として』良いのでは無いでしょうか?」
「…お、お前…」
むっくりと起き上がった瑠衣は、そう言って乾いた笑いを響かせる。
升川は彼を睨みつけ、キリ、と唇を噛んだ。
「私は何も間違ってないと思いますが?自ら死に急ごうとするあなたを温情で止めているだけ。…もし、あなたが心変わりして娘さんの事件の調査を引き受けるのなら、私たちは協力します。情報は大量に握っているので」
「……」
「では、私たちはこれで。…これ以上いても、何も言うことはございませんし」
ついに黙り込んでしまった升川をよそに、瑠衣は玄関へと歩き始めた。里音はちらちらと、気にするような素振りを見せつつも、瑠衣に続く。
「…待ってくれ」
「はい?」
「父親なら…、敵を討った方が、娘のためだよな。こんなこと…家族を守れなかった、責任逃れに過ぎないよな」
「では、自殺は…」
「ああ、やめるよ」
「言いましたね?」
振り向いた瑠衣はずかずかとリビングに戻り、いつの間に取り出したのかわからないナイフを掲げ、一振りで縄を切った。
「それは…」
「護衛用ですよ。さて…作戦を練りましょうか。娘さんを殺した犯人を確保するための、ね」
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