二
目をひらいて最初に飛びこんできたのは、ぼんやりと煙る青だった。自分が何を見ているのかわからなくて、しばらくそのまま、目をみひらいていた。明るい青と、その中をゆるく流れる淡い白。薄く
ゆらゆらと不安定な感覚と、何かが
あたり一面、薄紅色の花が咲いていた。
ぐるりとこうべを巡らす。白い靄に遮られて遠くまではわからないが、見わたすかぎり、薄紅色の花に覆われた花畑だった。びっしりと生い茂った緑の葉と、満開の花々が、絨毯のように密集して続いている。つつじに似たらっぱ状の花は、花弁がつつじよりも細く深く裂けていて、みずみずしい甘い香りがする。
何もわからない。はっきりしているのは、自分が見知らぬ場所で目を覚ましたということだけ。
「夢、かな」
明晰夢というのだっけ、夢を見ていることに気づいている夢。夢にしてはずいぶんと感覚がはっきりしている。これ以上覚醒しそうもないし、このまま待っていても何も変わらなさそうだ。花の上で立ちあがる。
足の裏はくすぐったいし、ちょっと揺れて沈みこんだものの、きちんと立つことができた。枝の上に立っていることになるのだろう、地面の確かさはない。どのくらい丈のある植物なのか見当もつかないが、地面に落っこちるんじゃないかという恐怖は、不思議と感じなかった。
足の裏に葉の感触があるということは、つまり裸足なのだと遅まきながら気づいた。自分のからだを見おろす。
「……夢、だし」
わたしは見たことのない恰好をしていた。
柔らかくもしっかりとした厚みのある、上等な白い生地が、四角く刳った襟から胸の下まですっきりと沿い、ふんわり膝まで広がっている。身頃と同じ布地の短い袖が、これまたふんわりと肩を覆っていた。色は白一色だが、おちついた光沢があり、細かい花模様が織り出されている。
上等なワンピース……というよりも、これはもう、ドレスと言っていい。
…………服装について考えるのはよして、もう一度、ぐるりとこうべを巡らせた。視界は奇妙な明るさに満ちている。というのも、靄に隠れているだけかもしれないが、太陽が見あたらないのだった。自分の影はぼんやり足もとに落ちているが、空を見上げても青と白があるばかりだ。
しかたなく、正面に向かって歩きだした。
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