第51話 破滅の車輪は突進する

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 アルベルトを取り込み、殺戮の衝動に燃えて突進する魔導機械「破滅の車輪ジャガーノウト」。

 側面の銀色の歯車を高速回転させ、穴から突き出たたくさんのアルベルトの顔が、それぞれ、言葉にならない言葉をたてながら、塔に向かって突進してくる。


「ちいっ」


 ルビーチェが、突進を止めようと、熱火球ファイアボールの魔法を使い、燃えさかる火の玉を次々に破滅の車輪に叩きつける。しかし、火球はことごとく、その硬い外殻に弾かれてしまった。


「ならば、これだ!」


 ルビーチェは続いて、氷魔法の氷柱の槍アイスジャベリンを連打する。

 中空に生成された、何十本もの氷の槍が、冷気の尾を引きながら立て続けに宙を飛び、破滅の車輪に襲いかかる。


 だが、


 カン! カン! カン!


 本来なら金属もやすやすと貫く、研ぎ澄まされた氷の槍は、だが、破滅の車輪の装甲に弾かれて砕け散り、傷一つつけることができない。


「これならどうだ!」


 ルビーチェは雷魔法、地獄の雷撃サンダーボルトを放った。

 青天の霹靂、雲一つない空から発生した青紫の稲妻が、破滅の車輪を直撃した。

 滑らかな甲冑の表面を、枝分かれした稲妻が、蛇のように這い回った。

 だが、それでも 魔導機械の突進は止まらない。

 破滅の車輪は、とうとう、ルビーチェが起動し続けている大魔法、炎熱の竈による炎の壁に、正面から突入した。

 その瞬間、魔法に満ちた空間になにかが砕けるような音が響き渡り、閃光が走った。


 ズズズズウウウウウン!


 そして、ルビーチェの魔法陣全体に及ぶ大爆発が生じた。

 魔力が砕かれて、四方八方に、超高熱の炎のしずくが飛び散った。


「うあああああ!」

「ぎゃああっ!」


 その場にいた者たちは、皆、飛散し、降り注ぐ炎を頭から浴び、火だるまになってのたうち回る。

 戦いの地に、焦熱地獄が現前していた。

 そして、破滅の車輪は――

 なんと、無傷である。

 大魔法炎熱ゲヘナ・の竈メイルシュトロームを突き破ると、その動きを少しもとどめることなく、さらに、姫とルビーチェのいる塔にむかって突進していく。


 ドグァアアアン!!


 突撃する破滅の車輪の、つきでた鋭い角が、破城槌のように、塔に激突した!

 鋭い先端が、塔の側壁を突き破った。

 塔を構成するレンガが、つぶてのように飛び散る。

 もうもうと舞い上がる土埃で、視界が暗く閉ざされるなか、破滅の車輪のシルエットが、その長大な角を二度、三度と振りたくり、そして本体ごと塔にのしかかると、


 ガラガラガラガラ……


 すでに崩れかかっていたブラーナの塔は、土台もろとも完全に倒壊した。

 倒壊した塔の瓦礫の上でうごめく破滅の車輪のたくさんの脚。


「モルウニアアアアア!」

「ルビィチェエエエエ!」

「モオルウニアアアア!」

「ルウウウビイイイイチェエエエ!」


 いくつもの正気を失ったアルベルトの顔が、歪んだ声で叫んでいる。 


「……いやはや、すさまじいな、これは」


 それを上空から見下ろして、ルビーチェは思わず声にした。


「しつこい男ですわね、ほんとうに」


 ルビーチェの背からそう言ったのは、モルーニア姫である。

 間一髪、破滅の車輪が激突するまえに、二人は空に逃れた。

 モルーニア姫が、すかさず、背後からルビーチェを抱えると、その黒い翼で高々と舞い上がったのだった。

 二人の行動に、合図も躊躇もない。

 二人は、言わずともお互いに相手の意図がわかるのだから。


「それにしても、炎熱の竈あれを、力技でつぶすとはね」


 ルビーチェが首を振る。


「おそるべし、破滅の車輪だな……さあて、あれをどうしたものか?」


 そう思案しかけたところへ、モルーニア姫が声を上げた。


「あ、ルビーチェさま、あれは」


 姫の視線の先には。

 異形の剣を掲げつつ、草原を走る偉丈夫。

 鏖殺の剣を持つ男、グレン。

 グレンは、微塵も恐れる様子なく、巨大な破滅の車輪/アルベルトに向かって疾駆する。

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