最終話 大団円が日常になる

「疲れた……」

 ベッドに倒れ込むように横になる。

 レオン様が「明日から休暇なのだから一緒に過ごそう」と言ったが、レオン様は王子としての公務があるし、ボクは実は王妃様から「そろそろ王妃教育を始めるわよ!」と言われていたため、休暇といえども忙しくなるのだろう。

 それでも、自分の気持ちがわかって、そしてこの先もレオン様の隣に立つことができるのなら、喜んで義務を果たそうと思う。

 

「でも、今日はもう寝る〜」

 ボクは今日のことを振り返る間も無く、深い眠りに落ちた。


「ありがとう」

 その声に意識が浮上する。

「お陰で助かったわ」

 目を開けると、真っ白な世界に真っ黒な縦ロールの自分になんとなく似ている少女がボクを覗き込んでいた。

 ボクと違うのは自信たっぷりで堂々としているところだろうか。

「君は?」

 やっと口を開いたと思ったら、そんなことしか出てこない。

「ん〜……そうね。私はあなた。あなたが私を幸せにしてくれたから、私は大満足よ。ありがとう。これからはあなただけの物語。大切に生きて」

 そう言って、少女がうっすらと消えていく。

「え?どういうこと?君の名は?」

 寝ぼけているのか、理解が追いつかない。

「ふふふっ。私はユーリス。ユーリス・セフィロニスよ。ありがとう、ユリウス・セフィロニス。こんなにお礼を言うのはあなたが初めてなんだから、ありがたく受け取ってよね!幸せにならないと許さないから」

 泣き笑いの表情。それだけ言い残すと少女は消えてしまった。


 ああ、そうか。彼女はボクだった。本来の物語の悪役令嬢。彼女の心も救えたのかな?そうだといいな。


 そうして、ボクはもう一度目を閉じた。一筋の涙がこぼれ落ちるのを感じたが、拭うことはせずまた再び眠りに落ちた。


 きっと次目覚めた時は、新しい朝だ。

 夏の長期休暇1日目が始まる。

 ここからは、シナリオで描かれないその先の誰も知らない物語が綴られていくのだ。

 大切に生きよう。

 自分らしく、楽しく、ね。

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異世界転生テンプレート 和水 @nagomi-369

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