第4話 父子の雪解け
「……ここ、すごいよね!ボク、ドキドキが止まらなくてね!」
「わかります!私も手に汗握ってしまいました」
すごく楽しい!
こんなに誰かと楽しかったことを共有したことなかったから、話が止まらない。
「あ!」
ニコニコとボクの話を聞いてくれていたターニャの顔が突然強張った。
ベッドの向こう側を見ているみたいだ。
「どうしたの?」
その視線を追う。
「あ!お父様!」
「旦那様、いつからそこにいらっしゃったのですか!?すみません、気がつかずに」
ターニャが慌てて立ち上がって、ベッドの向こうのソファに座っていた父の近くに行ったかと思うと勢いよく頭を下げた。
「いや、構わない。私も会話しているのが聞こえて何も言わずに入ってきたのだから」
ターニャに面をあげさせて、ソファから立ち上がってこっちに近づいてくる。
「ユリウス、もう体調は大丈夫か?」
少し心配そうにボクを見る。
「はい、すっかりだいじょうぶです。えっと……ごしんぱいおかけしました。ごめんなさい」
ベッドの上に座ったまま、ペコリと頭を下げると、ふわりと温かな感触が頭に乗った。
「いや、私がうっかりしていた。本来は制御するべきところだった。すまない」
そっと見上げると、父は本当に申し訳なさそうにしていた。珍しい。
こう言う時、どう声かけるのがいいんだろう。もっと「お前が気をつけるべきだ」って叱ってくれた方が…ってそうじゃない。
「えっと…ぼくがお父様のじゃまをしたから悪かったのです。おいそがしいのに気がつかなくてごめんなさい」
そうだ、母にも兄にも手間をかけさせたのだからボクが悪いんだ。しかも、父がいるの気がつかずにターニャと話してたし。でも、楽しかった気持ちは萎んじゃったな。
「違うぞ。急いでいたからと言って、息子を吹っ飛ばしていいものではない。ちゃんとユリウスがわかるように伝えなければいけなかったのだ。だからユリウスが謝ることではない」
「でも…!」
顔を上げると、父の顔が悲しそうに歪んでいた。
そうか、謝罪を受け入れないのもダメなのか。でも、どうしたらいいんだろう。
「……父にもその本の感想を聞かせてもらえないだろうか?その話をしにきてくれたのだろう?」
父が恐る恐ると言う感じでボクの膝の上に開かれている本を指差した。
それでいいのかな?話してもいいのかな?
「ユリウス様、旦那様に聞いていただきたかったんですよね?私も楽しかったので、そのお話、旦那様にもしてさしあげてください」
戸惑っているとターニャがこそっとさりげなく耳元で伝えてくれた。
していいの?本当に?
エメラルドの目がボクが見てもわかりやすく不安で揺れている。なんでだろう?そんな不安になることなんて父にはないのに。いつも無表情ででも母にだけは優しくて、兄たちのことは一目置いていて大切にしているのがわかる父がなんでボクなんかにそんな不安そうにしてるんだろう?
「えっと……聞いてくれますか?」
ボクが父を独り占めできる時間なんて記憶になくて、だから楽しいのかな?とか大丈夫かな?とかと同時にちょっと嬉しいのと照れくさいのが混ざって、聞くのも恐る恐るになる。
「もちろんだ!ぜひユリウスの感想が聞きたい!」
パァと光が弾けるように父の表情が明るくなったのがわかる。無表情なんだけどね。でも、微かな変化だけど表情が緩んだのがわかったんだ。
そして、ターニャが椅子を勧めたけど、父はベッドに上がってきてボクの横に座った。
こんな近くで父と話したことなかったから、逆に緊張したけど、でも、なんか嬉しかった。
だから、ボクはターニャに下がってもらって、父と二人きりで思い切りお話することにしたんだ。
「お父様、この本、とても楽しかった!贈ってくださってありがとうございます!」
下手くそな笑顔だと思うけど、へにゃって笑って父にお礼を言う。
「っ!!いやっ、ユリウスが喜んでくれて父は嬉しいぞ!」
わしゃわしゃと頭を撫でられて、くすぐったい。ああ、話していいんだと思ったら肩の力が抜けた。
「この本でボクが好きなところはね…」
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