第2話 思い出しました

「……ウス……ユ…ウス……」

 徐々に意識が戻ってくる。

「……ユリウス様…!」

 ドンッと体を衝撃が走り、名前を呼ばれたのもあって、ボクはぱっちりと目を覚ました。


「ああ、よかった!ユリウス様、目覚められたのですね」

 ボクの顔を覗き込んでいたのはメイドのターニャだ。ボクの身の回りの世話をしてくれている、一番ボクに近しい人でもある。


「えっと……?」

「ユリウス様は旦那様に叱られた拍子に階段から落ちてしまったのです」

 どんな叱り方?と思ったが、多分魔法だ。


 手を挙げることはないが、怒声を上げた拍子に魔法によって声量の威力が上がってしまったのだろう。父はたまに無意識にそういうことが起こる。

 魔法を制御できないとかそういうことではなくて、怒りを声に乗せてしまうとそうなるのだ。


 ただ、その威力を間違えると5歳児のボクは吹き飛ばされる。その結果、階段から落ちたのだろう。


「旦那様!奥様!ユリウス様が…!!」

 ボクが目が覚めたことを慌てたように伝えに部屋を出たターニャから視線を天井に向ける。


 夢にしてははっきりしていた。いや、夢でないことはこの状況説明をしている時点でわかる。


 ユリウス・セフィロニス。5歳。セフィロニス公爵家3兄弟の末っ子。セフィロニス家はこの国の筆頭公爵家で、王家に次ぐ権力を持つ。実際に父は宰相である。


 そして、ボクは転生者だ。前世は陰キャオタク属性の20代後半、社畜をこじらせ、トラックに轢かれて死んだ。そして、なんか異世界転生の選択肢を与えられ、少ない選択肢から選んだ結果ここにいる。


 異世界転生のルートに入る直前に聞こえた声が言っていたのはこのことだ。

 今、5歳。出来事は階段から落ちて意識を失う。

 それがトリガーとなって前世の諸々を思い出したのだろう。



 というか……頭が痛い。階段から落ちたせいというよりも、脳が目まぐるしく回転しているようでぐるぐるする。情報処理が追いつかないような、そんな感じだ。


「うへぇ……」

 ボクはあまりの気持ち悪さに再び意識を失ったのだった。

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