異世界転生テンプレート
和水
第1話 選択肢とは?
「……せ…………を……………めろ……」
遠くから声が聞こえる。
あれ?俺、何してたっけ?
えっと……急な資料作成を課長に丸投げされて、終わって帰宅できると思ったら終電間際で、今日は走れば間に合うって思って……
そうだった。大通りの信号変わった瞬間走り出したら、大型トラックに突っ込まれたんだった。
眩しいライトの光が目に焼き付いているし、クラクションと急ブレーキの音が耳に残ってる。
ってことは……ここは何!?死後の世界とか?いや、俺、そもそも死んだの?
まだ何も楽しい人生送れてないけど?こんな会社やめてやるってせっかく転職サイト見始めたのに?
彼女も作れたことないけど?高校デビューも大学デビューも失敗して陰キャオタ街道まっしぐらでしたが?
そんなんで死ぬの?
俺、もっと人生楽しみたかったぁ!
せいぜい、ちゃんと人間的な生活したかった……会社と家の往復だけで毎日が過ぎていく、休みの日は疲労回復のためだけに寝られるだけ寝るなんて生活を改善したかった。
こんな生活終わりにするんだぁって、色々計画立ててた時だったのになぁ。生活より先に人生が終わったようだ。残念ながら。
「おいっ、いつまでそう呆けている。転生先を決めろと言っているんだ」
今度はすごくはっきりと声が聞こえる。あたりを見回すが、誰もいない。
真っ白な空間がどこまでも広がっているだけだ。
「早くしろ」
苛立ったような声が聞こえるが、さっぱり話が見えてこない。
「意味がわからない。ここはそもそもどこだ?」
「ここは狭間。あの世とこの世、あの世界とこの世界、あちらとこちら……そういうものの間の世界だ」
つまりは棚と机を置いた時の隙間みたいなところに挟まっているってことか。
「ここから出たいんだけど?というか、俺はどうなっちゃったの?」
「質問の多いやつだな。お前はあちらの世界で死んだ。しかし、その魂がまだ死にたくないと叫んでいたからな、別の世界で新しい人生をやり直させてやろうと思ってここへ呼んだ」
あ、やっぱり死んだんだ。
「さあ、どこに転生したいんだ?選べ!」
いや、いきなりそう言われてもなぁ。
「どこがあるの?」
別の世界という言葉が引っかかる。そういえば、最近巷では「異世界転生」を題材としたラノベが流行っていたし、そもそも昔からなんらかの拍子に異世界に飛ばされその世界を救うとかそういうのは当たり前にあった。
まさか、そういうことではないよな?いや、出来過ぎてるだろ?でも、俺の死因もトラックにひかれた社畜って…よくあるあれだ。
冴えない社畜が異世界転生して、チート能力が付与されたりこちらでの知識を駆使して、俺強ぇ!になるやつ。
…痛いのは嫌だけど、無双できるならやってみたい。
「本当に質問が多いやつだな」
呆れたように言われるが、当たり前じゃね?
だって「死にたくない!」って言ってたというのはわかるとしても、そもそも自分のことだし、実際死ぬつもりなかったし、その上で、いきなり転生と言われてもよくわからない。
「ん〜?だって生き返らせてくれるとかはないんだよな?」
「ない」
ほらぁ!選択肢にないんじゃん!だから聞いたのに。
「…転生したくないから普通に死なせてって言ったらそれはできるの?」
「できない」
そもそも「死にたくない」って魂レベルで叫んでたんじゃ、その選択肢もないんだな。
「ここは異世界転生のための空間。つまり貴様がいた世界には戻れん。その扉はすでに閉ざされている。同様に魂の死も受け付けていない。我は死神ではないからな」
仰々しい喋り方だけど、どこにいるんだ?
「う〜ん…そもそもあんた誰?いきなりここに連れてこられて転生先を選べって無理がある」
「この空間が我である。いきなり死んだのだから仕方のないことだろう。選択肢を教えてやるから選べ」
ブオンッと空間にノイズが一瞬入り、スクリーンみたいなものが現れたのがわかった。
そこにいくつかの選択肢が現れる。
「なになに……?」
▲勇者・聖女コース(チート能力付き)
▲そのほかの職業でチートコース
▲異世界人召喚転生コース(チート能力付き)
▲乙女ゲームヒロインコース
▲乙女ゲームライバル令嬢コース
▲乙女ゲーム攻略対象コース
「なにこれ?」
「え?転生先だが?」
なに当たり前のこと聞いてるの的に答えないで欲しい。
「割といいもの取り揃えてあると思うが?」
うん…知ってる。これ、全部なんとなくラノベにあるやつ。
「えっと…じゃあ、勇者で」
そうだよね。チートで勇者なら安泰でしょ。
「満員御礼。別の選択肢を選び直せ」
「は?…んじゃあ、そのほかの職業でチート」
「満員御礼」
「これもかよ!」
「ちなみに、異世界人召喚転生コースも満員御礼だな」
え…?え〜!?
そんなのありか?
「ちなみに、魂の形状から性別は男のまま転生することになる」
「は?」
「男のままだ。ありがたいだろう?」
「いや、それは聞いた。ありがたいかどうかは別として、選べるの乙女ゲームしかないんだけど?」
「ああ、そこから選べ」
意味わからん!
いや、唯一男でいいのって…
「あ、ちなみにたった今攻略対象コースも満員になったようだ」
「ノ〜〜〜〜〜!!!!!」
虚しくよくわからない空間に俺の声が響く。
そんなに転生させてるの?っていうか、満員って定員あるの?
「……特殊コース転生だから、少数定員制だ。最近は『死にたくない』と魂が叫んでいるにも関わらず、肉体レベルで死を選んだり、うっかり死ぬ奴が増えている。しかも、この特殊コースへの適性があるものが多い。だからいつもこんな感じだ。」
ため息交じりの困ったような声が聞こえる。まあ、苦労してるんだな。
「もし、残りのも満員になったらどうなるの?」
「ならない。ここにいるものは全てこの選択肢から選べるようになっている。しかし、希望に添えるかどうかはその時の運だがな」
運……ね。
「時折、大量に異世界が発生し、転生者が必要となることはあるが、今はその時ではないということだ」
そんなことだろうとは思う。でも、特殊コースがあるなら普通コースもあるんじゃないかって思ってしまったのは仕方がないだろう。
普通にあちらの世界のモブでいい。
今度はなんとか自力で楽しい人生送るようにするから。
「コース変更とかは?」
「できない」
ですよねぇ!そんな気はしていた。
俺はもう一度、残りの選択肢を眺める。
▲乙女ゲームヒロインコース
▲乙女ゲームライバル令嬢コース
この二つかぁ。
年齢=彼女いない歴な俺だから攻略対象が残ってなくてよかった……そんなところに行ってもエスコートとかできる自信ない。
乙女ゲームっていうと逆ハーレム的な感じか。ヒロインがちやほやされて、そっから一人選んでっていう恋愛ゲームね。
ってことは、ヒロインになった場合は……あれ?確か性別は男のままって言われたよね?
ん?
「なあ、この乙女ゲームって……?」
「ああ、二人とも設定的には女性だ。そして攻略対象は男性だ」
ですよね。
百合ゲーだったらよかったんだけどね。
「俺の性別が変わるとかは?」
「できるが、前世を思い出した時に苦労するぞ?今、肉体と精神は男なんだろう?」
ああ、そういうことか。
これはラノベの世界へ行くイメージが一番なのか。その世界に生まれたがとある時に前世を思い出し、「これはあのゲームの!」でフラグを折ったりしていくパターンのやつ。
だから、思い出した時に精神は男(しかも20代後半)なのに、幼女パターンもあるわけで、ヒロインだと攻略対象はもれなく男だから……あれ?
「でもさ、俺が男のままだったら、攻略対象は攻略されなくない?」
「世界観の強制力というものがある」
「なるほど」
聞いたことがある。ストーリーがあるものならば、その枠からはみ出ようとしても強制的に不自然であれストーリーの流れに持っていかれるっていう、ラノベの鉄板のやつ!
つまり、攻略対象はヒロインが男でも強制的に恋に落ちさせられるという……これがBL展開というやつ!!
ってことはだ、ライバル令嬢になった場合って、あれがああなるんだよな?
「断罪で早死にする?」
ライバル令嬢お決まりのコースだ。婚約者だった攻略対象の一人がヒロインに取られるのが嫌で虐めていたら、特大ブーメランが刺さるってやつ。
「……それはお前の選択次第だ。強制力はあるが、その世界がどんな強制力が働いているかは知らないからな。断罪コースがテンプレートなのかどうかまでは我はあずかりしれない」
う〜ん…
「しかし、ここにあるものはお前のように魂レベルで死にたくないと叫んだ者たちの転生先だ。そう簡単にあちらで死ぬようなことにはなるまい」
確かに、と頷くしかない。
他はチートだったり旨味があるのに、ライバル令嬢コースだけは旨味が少ない。いや、もうおそらく家柄とかそういうものは旨味だらけなんだろうけど。
もしかしたら、断罪への強制力が少ないという可能性もある。そもそもライバルって親友の場合もあるじゃん!ワンチャンそっちっていう可能性もあるかもしれない!
そうだ、ヒロインで男に囲まれるよりも、もしかしたら自由に生きられるかもしれない!
断罪コースがテンプレで強制力のあるものでなければいいな。
それならそれで、また叫べばいいか。そしたら、モブとかで転生させてもらえないかな。
まあ、とりあえず、ここで待っていてもしヒロインコースだけになったら目も当てられない。
男に囲まれるなんてなんていうおぞましい…しかも、攻略対象ってやたらキラキラしてるじゃん。
20ん年陰キャやってきた人間にはキラキラはきついんだよ。
ライバル令嬢なら、男だし、多分そんな変なことにはならないだろう。
断罪だけ気をつけていけばなんとか天寿を全うできるとは思いたい。
「決めた!」
「やっとか……」
「当たり前だ。転生とか初めてだからな!」
呆れたような声に、俺は胸を張って答える。実際は選択肢なさ過ぎて困ってたってだけなんだけどね。
「して、どちらにした?」
▲乙女ゲームヒロインコース
▲乙女ゲームライバル令嬢コース
選択肢の横に、選択のボタンが現れる。
俺はライバル令嬢コースを選択し、決定を押した。
「うぉ!?」
突然、白い部屋が発光しだし、目も開けられないくらいの光に包まれた。
意識が遠のいて行く。
「……5歳以降、ここであったことまでを全て思い出す出来事があるだろう。最善を祈る。よい転生を……」
そんな声を遠く遠くで聞いた気がして、俺は完全に意識を手放したのだった。
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