三
「大丈夫、美樹ちゃん?」
「なんかあったら言えよ?」
「話くらい聞くからね!」
芽衣の葬式も終わり、芽衣のいない学校生活が帰ってきた。
クラスメイト、美樹の友人たちは落ち込んだ表情を浮かべる美樹に次々と気遣いの言葉を投げてかけていく。
「うん……ありがと、みんな」
周囲からの優しい言葉を受けて美樹が笑う。
「ああ、きっと無理してるんだろうな」
「まだ悲しいはずだよね」
そんな美樹の姿を見て周囲はそう言った。美樹はつらいのに、周囲に気を使わせまいと無理して笑っている、と。
たしかに美樹は笑顔を浮かべながらも、授業中や休み時間、不意に困った顔を見せるときがある。まだ芽衣の死を忘れられないのだろう。
そんなこんなでも時は流れ、芽衣の死から一ヶ月が経った。
教室のお通夜ムードはだんだん薄れ、美樹の笑顔も返ってき始めていた。
「おい、美樹、ちょっと来いや」
クラスメイトたちから孤独にさせまいと囲われていた美樹を、三年女子の先輩が呼んだ。
「な、なんですか、急に」
「いいからさっさとこい」
和やかな休み時間に現れた突然の乱入者に教室はざわめき、クラスメイトたちは心配そうな顔で美樹を見つめた。
「こねぇならここで話でもすっか?」
「い、いえ。行きます」
不機嫌そうに眉を顰めた三年生に美樹は立ち上がって近づいた。
「うわわ、大丈夫かな、美樹ちゃん。私もついていくね?」
心配そうな顔をして美樹を送り出すクラスメイトとは違い、私はそう言って勝手に美樹たちの後を追う。
美樹が三年生に連れてこられた場所は体育館裏の倉庫前。そこにはすでに先客がおり、三年生の先輩の友人と思われる派手な容姿をした女子たちが四人ほど集まっていた。
「なんで呼ばれたか、わかってんだろうなぁ?」
「いや、わかんないです。こんなところに呼び出して、私をいじめるつもり?」
「はっ、それ以外にあんの?」
その言葉を皮切りに、後ろに控えていた女子たちが美樹の体を取り押さえる。
「ちょ、ちょっと! 離してよ!」
「うっせぇな」
「うっ!」
「あ、わわ」
羽交締めにされて抵抗する美樹のお腹にリーダー格の女子が拳を突き立てる。美樹は痛そうにうめき声を上げた。
衝撃的な場面を見てしまった私は思わず小さな悲鳴を上げながら、反射的に体育館の裏に隠れる。
「こっんのクソガキが!」
「や、やめ」
「おら!」
美樹をサンドバッグにするのが楽しいのか、三年生たちは愉快そうに笑いながら拳を繰り出していく。
「はっ! 泣けよ、クソガキ!」
「や、やめてください……お願い、します」
三年生の言葉に美樹は震えた声でそう懇願する。何発も殴られてすでに自分の力だけでは立てないようで、羽交締めにしている三年生に体を預けている状態だ。瞳からは涙も溢れていて、見ているだけで痛々しい。
「まぁ、今日のところはこんくらいにすっか。あー、すっきりした……ちょっとだけ、だけどな」
体を解放された美樹はぐったりと地面に転がり落ちる。
痛みからかぼろぼろと涙を流していたが、三年生の吐き捨てるように言った最後の言葉に体をびくりと反応させてガタガタと震え出した。
そんな美樹の姿を見て満足そうに笑うと三年女子たちは校舎に戻っていった。
「美樹ちゃん、大丈夫? 痛いよね、保健室に行こう?」
「う、うう。どうして私がこんな目に……」
そうとだけ言って黙りこくった美樹に連れ添うようにして保健室に向かった。
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