第三話、夢中の異世界で僕に出来ること。
リィムさんに呼ばれてやってきた人、服装は見慣れたドレススーツ。性別は女性。髪は肩上までで、金色混じりの赤毛をしている。瞳は明るい緑。くりっとしたエメラルドグリーンカラーがよく目立つ。
名前はハユレさん。これはよく呼ばれているので覚えている。立場的にはリィムさんの側近みたいな、リィムさんと一緒によく仕事をしている人。
「ええ、はい。昨日の
「あー、そうでしたねぇ。アタシもう忘れてましたわ。あははっ」
「笑い事じゃないですよ……。相手方の交易条件覚えています?」
「え?ええっと……確か、鉱石でしたっけ?」
「そうです。私たちの世海にある鉱石が欲しいという話です」
「でしたねでしたね。何せ主食が鉱石でしたもんねー」
「ええ。……困ったものです」
「あははー。アタシたちの世海、質の良い鉱石なんて海の底にしかないですもんねぇ」
「はい。その通りです」
片や苦笑を隠さず、片やからっと笑いながら。
真面目な話なのか意外と軽い話なのか判断がつかない。けど、リィムさんが苦笑いして難しい顔してるってことはそれだけ大変な方の話なんだと思う。このハユレさんと言う人は結構適当なところがあるらしいから。
(ハユレさんはどうでもいいとして、鉱石のみを輸出品にするのは無理があるわね……)
あ、やっぱり。かなり深刻そうな声してる。心から漏れるくらい面倒くさいのかな。たぶんそうなんだろうな。
リィムさんが内心だと地味に他人に辛辣なのはいつものことなのでもう慣れた。しかし鉱石を輸出ってどういうことだ……。
『――あー。昨日のアレか』
思い出した。夢の中だから記憶を探るのもそれなりに現実より苦労する感じがある。気のせいか?気のせいか。
とりあえず思い出した。昨日はデスクワークじゃなくて、別の種族との面談?があったんだった。
この海の世界、よくわからないけど海の底で別の世界に繋がっているらしい。理由は知らない。とりあえずワールドゲート的な何かで繋がっていて、それを通じていろんな世界と交流交易をしている。で、リィムさんは交易官の一人と。
世界が違えば生態系も違い、文化も言語も何もかも違う。
その辺のアレコレをすり合わせて上手い具合に話を進めるのがリィムさんの仕事だ。大変そう。これまで見てきただけでも十分大変そうだった。
こういう世界の繋がりがあると、創作だとわかりやすく侵略しようとしてきたりするものだろう。けれども、それに対する武装組織は別にあるらしい。前にリィムさんがこぼしていた。リィムさんのお父さんはそっち側の人で忙しいとか何とか。お母さんはお母さんでリィムさんの上の上の上くらいの人間なのでまた忙しいと。
一家揃って忙しそうで大変だ。僕はそこまで忙しい生活をしたくないかもしれない。……リィムさん、寂しそうだし。
そうそして、昨日面談したのが別世界の別種族の人。ファンタジーに出てくるゴーレムみたいな外見の人。本に出てくるゴーレムよりはゴツゴツしていなくて、意外と見た目はスマートだった。どうやって喋っているのか一切わからなかった。
リィムさん側は魔法石の不思議パワーで翻訳魔法を使っているようなので、そこは通訳要らず。相手の言葉が理解できるようになり、自分の言葉も相手に伝わる、双方向自動翻訳とかいうとても便利な代物である。僕にはどちらの会話もわからないのが玉に瑕だ。
とりあえずあのゴーレムが今回の交易相手だとして、欲しがってるのが鉱石ってことだね。たぶんだけど。
「――鉱石の採掘速度を上げる方法はありますか?」
「えー、無理じゃないですか?近場は作物の栽培もしていますし、あんまり良い鉱石採れませんからね。遠出しての海底鉱石採掘はお金はともかく人手が足りませんって」
「です、か」
「ですです」
小さく頷くリィムさんと、こくこく頷くハユレさん。
いったいどんな話をしているんだ。想像してみるか。
『ゴーレムさんが鉱石を欲しがっていますが、どうして鉱石なのでしょうか?』
『そりゃ主食ですよ。あの人たち石で出来てますし』
『そうですね。なら大事なことです。可及的速やかにこちらの世界の鉱石を交易に出せるようにしましょう』
『ですねー。でもなんでこっちの世界の石を欲しがるんですかね。向こうにもあるはずでしょう?』
『それは……珍味美味を求めて?』
『あー、それなら納得ですわ』
みたいな。なんかそれっぽいな。こんな感じの話してそう。
「それならば、人手はあの方たち自身に賄ってもらいましょう」
「おおー、それは良いアイデアです」
「はい。海鉱石人族の方が渡せるものも鉱石と言っていたので、わかりやすく個人個人に好きなものを探して持って帰ってもらいましょう」
「ふんふん、いい感じです。移動は観光船でも使えばいいですかね。――いや新しくツアー組んでもいいかもですね」
「そうですね。観光課の方に話を通しましょう。あとは当の海鉱石人族の方たちとの話ですが……」
「そこはアタシには無理なんで、責任者のリィムさんお願いします」
「……ええ、わかっています。代わりにというのも難ですが、他の課への説明用書類一式の作成はハユレさんにお願いします」
「うあー、まあはい。アタシの仕事なんでやりますよ。任せてください」
……うん。わからない。
でも僕の想像ほど軽い感じじゃなそう。リィムさん、出来る人だなぁ。かっこいい。家にいる時は割とぽやってしてるのに、仕事中は本当にすごい。綺麗でかっこいい。
ぼけっとリィムさんを眺めていたら話が終わり、ハユレさんは部屋を出ていった。水人形はその辺の空中を邪魔にならないよう漂っていて、ずいぶんと暇そうだった。
(はぁーー。もう、種族差っていうのは本当に大変ね。文化の違いならまだしも、生態の違いはなかなか結構……しょうがないわね。ええ、頑張りましょ)
リィムさんって、あんまり愚痴とかこぼさないんだよね。心の声も大体疲れた時に漏れてくるくらいで、一段落ついて安心して少しだけ気が緩むとか、そういう感じなんだと思う。
外から見たら全然さっきと表情変わっていないし、表に出さず心の中でぽろっとこぼす程度なのは本当にすごい。でも、仕事中だからって一切まったく気が緩められないのはひどく大変だろうから。
意味はなくても少しくらい。ずっと見ている僕くらいは、応援してもいいと思うんだ。
『リィムさん。僕応援してますから、頑張ってくださいね。でも頑張り過ぎないでくださいね。たまにはゆるっとで。あと、家帰ったらたっぷり休みましょう。もう全部放り出して絨毯でごろごろするくらいに休みましょう。僕、家でおかえりって言いますから』
ただいまも一緒に言いますけどね。リィムさんと一緒に帰るので。
とにかく。
聞こえてなくても、届いてなくても、一人で頑張ってる人を応援するくらいしなくっちゃね。幽霊の僕に出来るのなんてそれくらいなんだから。ほんの一欠片でも届いたら御の字だ。
石板を見つめて仕事を続けるリィムさんを見ながら、僕は水人形と同じように宙を漂い、一人こっそりと世界のどこかのいるかもわからない神様に願う。
この綺麗でかっこいい女の人が、少しでも元気で健康に過ごせるようにと。…………いや少しかっこつけ過ぎかな、これ。やっぱりリィムさん頑張れー!くらいで済ませておこう。うん。
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