返してください

第4話 リム商会

オージンは悲しそうな表情で言った。

「どうして？イリーナ。まだ元婚約者の事が好きなのか？」

イリーナは、否定する。

「そんなことないわ。リカルド・ローバン公爵令息とは、それなりに上手く行っていると思っていたの。でも彼は私ではなくて妹を選んだわ。彼の事はもうなんとも思っていない。ただ、私には目的があるの。もう婚約や結婚に振り回されるわけにはいかないわ。」

オージンはイリーナの手を取り言った。

「いいよ。イリーナの目的が達成できた時に、俺の事を考えてくれ。それまで待っているから。」

イリーナは、目を伏せた。

「オージン。貴方はジン帝国の公爵家嫡男でしょ。私は家から追い出されて、ただのイリーナとなったの。貴方に私は釣り合わない。それに私の目標は何年もかかる事よ。」

オージンは言った。

「イリーナと初めて会ったのは1年前だろ。それからずっと俺は片思いを続けてきた。だから後数年待っても平気だよ。」

（数年で終わらないかもしれない。私の目的はグロッサー男爵家の全てを取り返す事だから。）

イリーナはオージンを見て言った。

「貴方には、もっとふさわしい相手がいるわ。ごめんなさいオージン。」

オージンは暗く沈んだ表情をしていた。

イリーナはジン帝国へ留学した。

ジン帝国では、帝都に一軒家を借りた。

その一軒家は、一階が店舗になっており、2階が居住スペースの家だった。元々は薬屋だったらしい。

イリーナの目的にピッタリの家だった。

荷ほどきをしていると、イリーナの家に尋ねてくる者がいた。

「こんにちは。」

現れたのは、小柄な女性だった。140㎝程の体格に、丸みを帯びた体つき。二重の大きな瞳に小さな笑窪。肩まで揃えられた茶髪は艶がある。その女性は晴れ渡る笑顔でイリーナに話しかけてきた。

「お久しぶりです。イリーナ様。今日も繁盛日和ですね。」

イリーナは、目の前の娘に話しかける。

「よく来てくれたわ。メロナ。」

メロナは、イリーナが学院時代に立ち上げた商会の初期メンバーだ。今では数十人の人間が働いているリム商会は、普段メロナにほとんどの実務を任せている。メロナは見かけによらずとても優秀な女性だった。

メロナが言った。

「それにしても、イリーナ様。噂になっていますよ。マクラビアン公爵令息がザンジ国立学院で酷く振られたって。」

イリーナは言う。

「そうなの。」

メロナが言った。

「いいのですか？マクラビアン公爵令息と結婚した方が、グロッサー男爵家の女狐たちには打撃になるのではないですか？」

イリーナは言った。

「別に、私は彼女達にショックを与えたいのではないわ。ただ返して貰いたいの。お父様が大事にしていたグロッサー男爵家と商会をね。皇女様がオージンを結婚相手に望んでいるって教えてくれたのはメロナでしょう。貴族でもない私が公爵夫人になれるはずないわ。それより、持ってきてくれた？」

メロナは言った。

「本当にイリーナ様は色々ともったいないお方ですね。思慮深いというか、自分を知らないというか。

持ってきましたよ。ご覧ください。いい品です。」

メロナが出してきた箱の中には、ビロード包まれた大きな宝石の原石が入っていた。

イリーナは言った。

「素晴らしいわ。メロナ。ジン帝国での販路を開いていきましょう。きっと成功するはずよ。」

メロナは言った。

「はい。イリーナ様。」