森の冒険
第26話
「うわ、やっぱちょっと不気味だね……」
しばらく進むうちに、先ほどまでとは打って変わって暖かさも明るさも何も感じられなくなった。木々が生い茂り、空は見えない。まだ真昼だというのに薄暗い森の中。燎火が小さな火で辺りを照らしてくれているから歩けているが、これまで何度も真っ暗な夜道を歩いたことのある大人の私でさえ、怖気づいてしまいそうだ。
《大丈夫だよ、ユカ。僕が守ってあげる》
恐怖や不安を押し隠して言ったはずの言葉。だけど和泉には私の恐怖が伝わってしまったようで、私の手を握って落ち着かせようとしてくれる。
「ん、ごめん、ありがと和泉」
和泉の声に振り返った皆が、私を心配そうに見ていた。
「大丈夫、行こう」
この子たちは本当に大きくなった。見た目だけじゃなくて心も。人間とは成長スピードが段違いに早く、もう立派な大人だった。そう思うと、心を支配していた大きな不安が少し溶けていく。彼らはもう「守るべき子ども」ではない。「頼もしい仲間」だ。
《何か来るよ!》
先頭を飛んでいた楓香が注意を促すように叫ぶ。
《楓香、戻ってきて!》
木蓮が声をかけ、皆が私の周りに集まった。皆が近くに来たのを確認して和泉が水のバリアを張る。
《楓香、どっちから来る?》
《えっと、あっち!》
蒼仁の問いに楓香が答え、その指さす方に皆が警戒態勢をとる。
〔グルルルルル……〕
暗がりから姿を現したのは森オオカミだった。
《燎火がやる!》
「え、森の中で火は……!」
止めようとしたけど間に合わない。大火事を覚悟したが、燎火が出したのは細い火の槍のようなものだった。燎火の指先から打ち出された火の槍は、真っ直ぐに森オオカミを貫く。火は内側からその体を焼き、森オオカミは口から黒い煙を吐きながら静かに倒れた。
「すごい……」
思わずそう声に出てしまうくらい、私は目の前の出来事に圧倒されていた。燎火はそんな私の様子を見て満足そうに、にやついている。
私たちの初めての実戦相手でもあった森オオカミ。しかも姿を現したのは一匹だけ。あの時でさえ瞬殺だったのだから、今の皆なら何の心配もいらない……そう、気が緩んだ。
《まだ、いるっ!》
さっきまでとは違う、焦りと怯えを含んだ楓香の警告。森オオカミ一匹を倒し、警戒を解いてしまった私たちの前に大きな影が現れていた。
和泉のバリアは半分消えかけており、楓香は大きな影の出す”音”が聞こえているらしく、震えてしまっている。
《っ、蒼仁!》
《あぁ!》
木蓮が蒼仁と連携を取ろうとするも、突然のことで上手く意思疎通が図れない。和泉は慌ててしまって、バリアの形成が不完全。燎火は怯える楓香を守ろうとするが、一番近くにいるせいか”影”の放つ殺気にあてられてしまっている。
あれだけ綺麗な連携が取れていたのに、一瞬で崩されてしまった。
”影”はそうしている間にも木々をへし折りながら近づいてくる。それだけではない。”影”の周りには森オオカミやその他の動物、魔物が無数にいて、こちらを狙っていた。
私がしっかりしないと……。
「大丈夫!皆落ち着いて!」
森の中で大声を出すと動物や魔物に気づかれるからと、小さな声しか出してこなかった。だけど今更気づかれたってやることは変わらない。やらなければならないことも変わらない。それなら、大きな声を出したって関係ない!
突然響いた私の大声に、精霊たちが動きを止めて私の方を見る。
「いい?私たちなら大丈夫。まずは落ち着いて、深呼吸」
顔を見ていると、徐々に皆の緊張がほぐれていくのが分かった。あれだけ怯えていた楓香も落ち着き、木蓮と蒼仁、和泉は冷静さを取り戻した。燎火は”影”に向けていた注意を私に向けたことで、殺気から逃れられたようだ。
「よし、大丈夫。和泉、もう一回バリアを。木蓮は蔦であいつを抑えられないかやってみて。蒼仁はバリアの周りに穴を掘って」
私の言葉に、それぞれが動き出す。瞬く間に水のバリアが作られ、その周りをぐるっと囲む溝が掘られた。
「木蓮、どう?」
《何本かでぐるぐるにしないとダメそう!》
木蓮は辺りの蔦を片端から操り、”影”に絡みつかせている。
「燎火、さっきの槍いっぱい出せる?」
《え、出せるけど、いっぱいしたら……》
「大丈夫、ね?和泉」
《うん、任せて》
《……分かった!》
先ほどの燎火の細い槍。あれを頭上からたくさん降らせれば、”影”に効果が無かったとしても少なくとも足止めは出来るはず。
燎火に私のイメージを”繋がり”を通して伝える。燎火は前を見据えて小さく頷いた。
《いっけー!》
”影”と、その周りの大群に降り注ぐ燎火の火。私がイメージしたのは槍よりも細くて短い火の矢。槍より小さい分、数を増やした。
〔〔〔〔グギャァァァ!〕〕〕〕
効果は
しかし”影”には効いていない。どころか、燎火の火が木蓮の操る蔦が燃えてしまった。和泉の消火も間に合わず、脆くなった蔦は千切れ、再び”影”がこちらに向かって歩き始める。
《ユカ、もう蔦が無い!》
切羽詰まった木蓮の声。先ほどの拘束にありったけの蔦を使ったせいで、もうこの付近に操れる蔦が無くなってしまっていたのだ。
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