第25話

 《そうと決まれば早速出発!》


 テンションの上がった燎火がこぶしを突き上げて言う。


 「待って待って、その前に準備しないと、ね?」

 《え?準備って何するの?》

 《ユカ何も持ってきてないでしょ?》

 《ぼーけんっ♪ぼーけんっ♪》

 《食糧だって道中で確保できるぞ?》


 あ……そういえばそうだった。私、気がついたらここにいたんだった。もちろん何も持ってきたりなんかしてない。文字通り、着の身着のまま。

 

 《ユカ、行こう?》


 ちょっとフリーズしていた私の顔を覗き込んで和泉が優しく言う。


 「うん、行こっか」


 私が言うと、皆は笑顔で頷いた。


 《皆、ユカ殿をお守りするのですじゃよ?》


 おじじの言葉に頼もしく胸を張る精霊たち。


 《ユカ殿、どうかお気をつけて。皆をよろしくお願いしますじゃ》


 私の顔を見つめて頭を下げるおじじ。その顔や声には、自分の家族同然の精霊たちを見知らぬ土地へ送り出すことの不安と、心配の気持ちが表れていた。


 「はい。長老様、色々とありがとうございました」


 おじじ、いや長老様に頭を下げて背を向ける。


 木蓮、燎火、和泉、楓香、蒼仁、そして私。

 私たちは今から外の世界に足を踏み出す。生まれて初めて森を出て、未知の世界へと進むのだ。


 精霊樹の結界が間近に迫る。


 《ユカ、あれ見て!》


 燎火が私の背中を引っ張った。


 振り返った先には、暖かな日差しに照らされた精霊樹のふもとで、にこやかにほほ笑むおじじと、小さな体でぶんぶんと手を振るたくさんの小精霊たちの姿があった。


 《いってらっしゃーい!》


 確かに届いたその声に、私たちは顔を見合わせ頷く。


 「《行ってきます!》」


 彼らの声に応えるように、声を揃えて、手を振って。


 そして私たちは、結界を抜けた。




 結界を出た瞬間、先ほどまでの明るさは嘘のように消え去った。暗く、静かな森の中。ここを抜けなければ外の世界へは出られない。


 「よし、行こう!」


 気合を入れなおすように、そう声に出す。


 私たちの旅は、今始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る