第24話

 《僕、木蓮にしか声届けてないよ?》

 「え?そうなの?」


 話を聞いていた楓香が言う。


 「じゃあやっぱり和泉は楓香の心が分かったってこと?」


 元々和泉は私の心を読むことが出来た。でもそれは、「手に触れる」「強く想っている」の2つが重なったから出来たことだったはず。


 しかし今日は体のどこにも触れていないのに、おじじみたいに私の心を読んで会話してきた。木蓮のように和泉にも新たな力が生まれている可能性がある。


 「ねぇ和泉、今楓香が何て思ってるか分かる?」


 木蓮の時みたいに何か分かることがあるかもしれない。そう思って和泉に言ってみたが、和泉は静かに首を振った。


 《分かんないよ。何も感じない》


 何やらむむむ……と和泉に向かって念を送っていたらしい楓香は、和泉の言葉にがっくりとうなだれている。


 「はは……ち、ちなみに楓香?今何考えてたの?」

 《お腹空いた!って!》


 ……楓香はお腹が空いているそうです。


 すっかり元気になった楓香の様子を見て、周りの精霊たちも苦笑している。


 「えっと、他には何か変わったなって思うことあった?」


 とりあえず話を進めようと、和泉だけでなく皆に向かって問いかける。


 《ねーねーお腹空いたぁ》

 《もう……はい、これ食べてて?》


 もう飽きてしまった楓香がぐずり始めたが、木蓮が蔦で精霊樹の実を採り、与えるとすぐにご機嫌になった。


 《そういえば、俺も……》


 顎に手を当てて考えていた蒼仁が、ふと思い出したように声を上げた。


 《和泉に起こされて楓香のとこに行った時なんだけど、俺、何があったのかすぐ分かったんだよ》

 「どういうこと?」

 《あ、いや、どうしてこうなったのかが分かったんじゃないんだけどさ》


 蒼仁いわく、肉眼では楓香と木蓮の姿しか見えていなかった段階で、外に何がどれだけどういう状態でいるのかが分かったのだという。


 《なんか頭の中に流れ込んでくるような感じで。全部”死”ってなってたんだけど、実際確認してみたら本当だった。種族も当たってた》


 私が到着した時、座り込んで何かしていたと思ったのは確認作業だったのだ。


 「もしかして土に触れてたから?」


 あり得るかも……。蒼仁は土を操る精霊だ。土に触れているものも、力の及ぶ対象とみなされるのかもしれない。


 《でもそれならどこにどんな木が生えてる、とかも分かるはずだろ?》

 「確かに……」


 和泉の力にしたって蒼仁の力にしたって、肝心なところが私じゃ分からない。そんなもどかしさを抱えていると……


 《お呼びですかの?》


 ナイスタイミング!やっぱり精霊のことは精霊に聞くのが一番だよね!……ん?おじじって何の精霊なんだろう?


 《精霊樹の精霊ですじゃ》


 耳元でにっこり微笑むおじじ。精霊樹の精霊だったのか……なんか納得。いつの間にか心を読まれるのにもすっかり慣れてしまってたけど、精霊樹の精霊なら有り得そう。


 「今の会話も全部聞こえてました?」


 私の問いに、何も言わずニコニコとするおじじ。これは聞こえてたな。


 《覚醒状態だったのでしょうの》


 話をそらすように言うおじじ。


 「覚醒状態?」

 《精霊たちは覚醒状態になると、普段より強力な力を使えると言われておるのですじゃ》

 

 確かに覚醒状態だったとしたら、今同じことが出来ないのも頷ける。


 「でもどうして覚醒なんか……」

 《感情の高ぶりが原因かもしれませぬの》


 あ、そうか、楓香が危ないって思ったから……。精霊樹の実を食べてお腹いっぱいになった楓香は、ぷかぷか浮かびながらいつの間にか再び眠りについていた。何やら寝言を言いながら眠る幸せそうな寝顔を見て、私たちは顔を見合わせて笑う。


 だが、力に変化を感じたのが覚醒していたためならば、派生した精霊の力がどんなものなのかは分からないままだ。木蓮だけは少し分かったけど。


 《大丈夫ですじゃ。急ぎませんしの》


 そんな私の心を読み取ったおじじが、人を安心させる微笑みを浮かべて言った。おじじに調べてほしいと言われてから、これは私がやらなければいけないこと、私に任された仕事だと思って、肩の力が入りすぎていたのかもしれない。誰かに何かを任されるなんてこと久しぶりだったからな……。


 《そろそろ頃合いですかの》

 「頃合い?何がです?」

 《この森を出る、ですじゃ》


 ……え?あまりに突然のことで言葉が出なかった。しかし精霊たちは意外と動じていない。


 《そうね、もう十分力も使えるようになったし》

 《ユカも精霊魔法使えるようになったし!》

 《うん、皆がいたら怖くないもんね》

 《んむぅ……むにゃ……》

 《ユカを守れるだけの力はついたしな》

 

 どころか、嬉しそうな顔をして口々に言う精霊たち。寝言が聞こえるけど、気にしない気にしない。


 頼もしい彼らを見て、私が弱気でいちゃいけない、と気合を入れなおす。元はと言えば私が言い出したこと。それに彼らがついてきてくれると言うのだから。


 「よし、じゃあ行こうか!」

 》》

 《ふぁっ!?お、おー……?》


 準備は整った。後は森を抜けて、職場と人間を探すだけ!

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