第23話
おじじと別れて部屋に戻ると、私サイズの大きなベッドに5人がぎゅうぎゅうで寝ていた。
この前私も一緒に寝た時はそんなに感じなかったけど、やっぱり皆大きくなってるんだな。5人だけでぎゅうぎゅうになっちゃうなんて。……いや、この前は何人か私の上に寝てたな……。
《あ……ユカ……おかえり》
私の気配を感じたのか、木蓮が眠い目をこすりながら体を起こした。
「ごめんね、起こしちゃった?」
《んーん、いいの。それより長老様のお話何だったの?》
まだ寝ている皆を起こさないように、部屋を出て歩きながら木蓮がそう問うてくる。
「あー、精霊図が広がったんだって」
《どういうこと?》
「木蓮たちが、ただの精霊じゃなくなった……らしい」
《やっぱり?》
「そうだよね、急にこんなこと言われても戸惑うよ……え?やっぱり?」
想定外の木蓮の返事に、私の方が戸惑ってしまう。
「どういうこと?」
今度は私が聞き返す方になってしまった。
《目が覚めた時にね、自分が昨日までと何か違う気がしたの》
「違うってどんな感じだったの?」
《んー、その時はまだ分からなかったのよね。焦って楓香見つけようとしてた時にはっきり感じたかな。木とか草とかが楓香のいる所教えてくれたっていうか、私が木とか草とかの目線になってたっていうか……》
精霊樹の根元に腰かけて話す私たち。木蓮いわく、楓香の声がどこから聞こえているのか分からなくて焦っていた時に、突然楓香の姿が見えたのだという。ただ、実際に目の前にいるのではなくて、どこかから楓香の姿を見ている感じだったらしい。そしてそれがどこなのかを何故か理解でき、行ってみると本当に楓香がいたのだとか。
「どうしてそれが木とか草の視点だって思ったの?」
《分かんないのよ、ただそう思ったの》
木蓮にもまだ何が起きていたのか理解できていないようだ。
「じゃあさ、ちょっと目つぶってみてくれる?」
《何するの?》
「そのまま、私が今何本指立ててるか見える?」
《え、目つぶってるんだから分かるわけないでしょ?》
「とにかく、何とかして見ようとしてみて!」
《うぅ、見えないと思うけど……》
2人の間に静けさが訪れる。
木蓮は私を背にして目をつぶっている。私は手を背中に隠して3本の指を立てていた。
《わ、え、え……?》
突然、木蓮が驚きと困惑に満ちた声を上げた。
「どうしたの?!」
《み、見えた……かも》
「……何本立ててる?」
《3本……》
やっぱりそうだ。
「じゃあこれは?」
私は背中に回していた手を前に持ってきて、今度は1本指を立てた。
《ユカ、お腹の方に手やったでしょ?》
「うん、当たり。今度は何本立ってる?」
《えぇ見えないよ……。……わ、変わった……1本だ》
「ありがとう、もう目開けていいよ」
これではっきりした。私が背中に回した手も見ることが出来たし、お腹側に隠した時だって見ることが出来た。
「木蓮、やっぱり木蓮は植物を通して見てるんだよ」
《えぇ、今のは私にも分かったわ。見よう見ようとしたら急に見えるようになったの。いつもの視線より低かったから草の視点だったんだと思う》
こうして木蓮の新たな力が1つ判明した。後は、これを自在に扱えるようになるだけだ。
「そういえば話し方もちょっと変わったよね?」
《え?そう?》
「うん、なんかお上品になった気がする」
《前は下品だった?》
「そんなこと言ってないでしょ~?」
《ふふふ》
本人に、話し方が変わったという自覚は無かったようだ。なんだか木蓮と話していると、年の近い友達と話しているような感じがして心地いい。
《あ、こんなところにいた!》
燎火の声だ。ぞろぞろと他の皆も周りに群がってくる。一気に4人も増えると急に騒がしくなった。
《何話してたの?》
和泉が私の隣に座って私の顔を見上げながら言う。
「そうだ、皆も何か変わったことない?」
《何かって?》
《どーゆーこと?》
私の言葉に、蒼仁と楓香が首を傾げる。
「えーっと例えば……」
《一番変わったの和泉じゃない?》
どう説明したものかと考えていると、木蓮がそう言った。
《え、僕?》
名指しされた和泉本人は、何のことか分からない、といった顔をしているが、他の4人は揃って納得したような顔をした。
《楓香と木蓮がいないのに一番に気付いたのも和泉だったよな》
《それで燎火たちのこと起こしたんだよね?》
「そうだったんだ……和泉、どうして気づいたの?」
《あぁ、あの時は楓香の、怖いとか助けてとかどうしようって声が聞こえたんだ》
「楓香が届けた声が聞こえたってこと?」
《いや、楓香が届けてくれる声とはちょっと違くて……。何だろう、心の中の声が聞こえた感じ。……声っていうより感情だったかも》
その時の記憶を探りながら話す和泉。私はその内容もさることながら、彼の話し方の変化にとても驚いていた。昨日までの少しおどおどした様子は影も形もない。優しい話し方はそのままに、はっきりと自分の言葉をつづっていた。
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