第22話

 種の周りには、最初の精霊5人の芽が並んでいる。そこからさらに伸びた根の先にはそれぞれいくつかの芽が出ていた。


 分かりやすく説明すると、まず壁の真ん中に種がある。そして種を中心に根が伸び、芽が出ている。つまり最初の精霊を示す芽は、お互いに繋がっているのではなく、種としか繋がっていない。放射線状に根が伸びていると言えばいいだろうか。


 《これは下位精霊ですじゃ。母精霊様の力が弱くなり始めて生まれた精霊ですじゃ》


 最初の水の精霊の次に出ている芽をおじじが指して言った。現れた精霊は、木蓮たちよりも小さく、幼い姿をしていた。


 《そしてこれが氷の精霊ですじゃ》


 下位精霊の隣に出た芽を指す。現れたのは、木蓮たちより少し大きいくらいの精霊だった。ただ和泉や最初の水の精霊と違うのは、その体が冷気に包まれているところだ。


 《これは雷の精霊ですじゃ》


 氷の精霊から伸びた先の芽を指して言うおじじ。この精霊は大きさこそ氷の精霊と同じくらいだが、明らかに違っているのは纏っている光だ。雷の精霊が纏う紫の光は、ところどころパチパチしている。


 「水の精霊からこんなに?」


 そう、今おじじが言った精霊たちは全て水の精霊から派生しているものだった。


 「でもあと1つ、これは何の精霊なんですか?」


 水の精霊からはおじじが言った他にあと1つ芽が出ている。


 《それが和泉なのですじゃ》


 そう言うと、おじじはその芽に手を当てる。確かに、根が形作ったのは和泉そっくりの精霊の姿だった。大きさは……あれ?下位精霊よりちょっと大きいくらいなの?


 《体の大きさには個人差もあるのですがの》


 おじじがほほ笑む。和泉はあの5人の精霊たちの中でも小さい方だ。蒼仁が一番大きいのかな?次に木蓮、燎火ときて、和泉と楓香が同じくらいだった気がする。


 おじじの話を聞き終わって、改めて精霊図をしっかり見てみると、やはり水の精霊から派生した精霊が最も多かった。その他の精霊からは、それぞれ下位精霊と木蓮たちが派生している。


 「数百年ぶりに精霊図が広がったってことは、下位精霊が派生したのは数百年前ってことですよね?」

 《そうですじゃ》

 「下位精霊が生まれたのって、母精霊様の力が弱まったからですよね?」

 《そうですじゃ》

 「ってことは、母精霊様の力が弱まってもう数百年も経ってるってことですよね……?」

 《そうなのですじゃ》


 おじじの話が始まってからずっと気になっていたことが堰を切って溢れ出した。私の問いに答えていくたびに、おじじの顔は少しづつ悲しそうになっていった。


 《もうこの種には小精霊が精霊になるだけの力はなかったのですじゃ。精霊が生まれぬようになって、どれほどになるのでしょうかの……》


 かつてはこの世界も自然にあふれ、精霊たちが楽しそうに暮らす場所だったという。人間が増え、生きるために自然を開拓したことで、この世界から自然はどんどん減っていった。


 《この森は精霊樹の力で守られておるし、外の森に住む生き物が凶暴だったゆえにこれまで人間が踏み入ってくることはなかったのですじゃ》


 精霊にとっては、自然があるところで生きるのが幸せなのだ。だから豊かな自然の残るこの森を出なくなったと……。


 「あ、そういえば、和泉たちのこと詳しく聞いてなかったんですけど……」


 和泉たちが通常の精霊ではないことは聞いたが、それがつまりどういうことなのか、何が違うのか、という大事なことを聞くのを忘れていた。


 《それが分からないのですじゃ》

 「え?」

 《なにしろ、初めてのことでしての》


 そうか、言われてみればそうだった。おじじが色んなことを教えてくれるから、てっきり何でも知ってるのかと思ってたけど、今回のことはおじじにとっても初めての経験なのだ。


 《ですから調べてみてくれませんかの?》

 

 申し訳なさそうな顔でおじじは言うけど、そんなの当たり前だ。今後、あの5人と同じ精霊が生まれた時のために、情報はたくさんあった方が良いに決まってる。


 こうして、私たちが森を出る前の最後の一仕事が始まった。

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