第19話

 「えーっと、酸素は息するのに必要なやつで、二酸化炭素は息したら出るやつ、窒素は……私にもよく分かんない。とにかく、この3つが空気を作ってる主なやつなの。で、その中でも酸素は火が燃える時に必要で、火が燃えると出るのが二酸化炭素……多分」


 私にそんな詳しい理科の知識なんてない。根っからの文系だったんだもん。理数は特に苦手だった。


 《うん、それで?》

 《むむむ……》


 木蓮と蒼仁は私の説明で理解できているらしい。燎火はものすごく難しい顔をしながらも、自分のことだから、と頑張って聞いているようだ。楓香は早々に飽きており、今はリタイアした和泉と一緒に遊んでいる。


 「だから私はさっき、楓香に頼んで空気から酸素を抜いてもらったの」

 《それで火が消えたのか……》


 さすが蒼仁、理解が早い。このことを習った時の私より早いんじゃないだろうか。


 《酸素って息するのに必要なんだよね?》

 「そうだよ」

 《じゃあ酸素を抜いたら、火も消えるけど息も出来なくなるってこと?》

 「うん、息できなくなる」

 《楓香に言って聞かせとかないと!危ないから必要な時しかやっちゃダメだって》


 そう言うと楓香の方へ飛んでいった木蓮。しっかりしたお姉さんだ。


 「燎火は分かった?どうして火が消えたのか」

 《うん……多分?》


 何とか燎火にも伝わったようだ。


 《そろそろ帰ろうか?》


 木蓮が楓香と和泉を連れて戻ってきたのに気がついた蒼仁が言う。


 精霊樹の結界があった辺りまで戻ると、蒼仁が手を前に突き出して何やらやっている。先ほどおじじの姿が見えなくなった時にも、蒼仁がそうすると再びおじじが見えるようになった。


 「ねぇ蒼仁、それ何してるの?」

 《これ?んー何だろ、精霊の力を示してる……かな》

 「精霊の力?」

 《そう、精霊樹の結界の中に入るには精霊の力を示さないといけないんだ。だから精霊の力を持っていない人間とか動物とかは入れない》


 精霊樹の結界が目の前に現れる。いや、もともと存在していたものが目に見えるようになっただけだ。


 「私だけじゃ入れないの?」

 《何言ってるの?ユカは私たちと”繋がり”持ってるでしょ?》


 私の疑問にツッコんだのは木蓮だった。いまさら何を、とでも言いたげな顔だ。そんな顔しなくてもいいのに。元の世界じゃこんなこと無縁だったんだもん、しょうがないじゃんか。


 《あーごめん、そんな拗ねないでよ》


 そんな思いが顔に出てたのか、木蓮が苦笑しながら謝ってくる。何か、木蓮と蒼仁には精神年齢抜かれてそうなんだけど。


 《早く帰ろーよー》


 楓香はすっかり飽きてしまったようだ。この子はずっとマイペースで変わらないな……。


 精霊樹の私の部屋にようやく帰り着いた。思わずふかふかベッドにダイブする。


 《ユカ楽しそう!僕もやる!》


 それを見た楓香が私の背中に飛び込んできた。勢いのわりに衝撃を感じなかったのは、精霊だからだろうか。


 《あ、ずるい私も!》


 木蓮が私の右横に納まる。


 《ぼ、僕も!》


 慌てたように和泉が私の上、楓香の隣に乗ってくる。


 《じゃあ俺もー》


 蒼仁は私の左隣だ。


 《え?え!》


 さてどうする燎火。私の隣は埋まってしまったし背中の上もいっぱい。足の上に来るかな?


 《燎火も!》

 「うぶっ」


 まさかの頭ですか……。あなた私の頭の上に来るの好きね……。


 そんなことをしていると、だんだんと疲れが出て来たのかいつの間にか眠ってしまっていた。



 急な実戦練習で、疲れは相当なものだったようだ。元の世界では感じたことの無い、命のやり取りをする緊張感と、実際に命を奪ったのだという事実は、身体的にも精神的にも大きな影響を与えていた。


 今回の実戦練習で、精霊たちはそれぞれ大きく成長した。


 恐ろしい速さで成長していく彼らに置いて行かれないように、私もやれることを精一杯やっていこう。そう思った1日だった。

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