第14話
練習は、まず精霊たち自身が魔法を使えるようになることから始まった。精霊魔法は、精霊たち自身が魔法を使えることが前提である。
《うぅ……出来ない……》
《もー何で出来ないの!》
《……ぐすっ》
《難しいな……》
木蓮、燎火、和泉、蒼仁の4人は自分のイメージが形にならずに苦戦していた。
《楽しいぃ!》
だが、ただ1人、楓香だけは意のままに風を操ることが出来た。この子は天才肌なのかもしれない。今も、自分の起こした風に乗ってすいすい飛び回っている。
あ、ちょっと楓香やめたげて……燎火がキレそう……。
《楓香!ちょっと来て!》
やばいやばい、呼び出しだ。どうしよう、止めた方が良いのかな、それとも見守る?まだ何かしたわけでもないしな……。
《なーに?》
うわぁ、のんきだわ楓香。燎火、震えてるよ……?
《……て》
《ん?》
《だから、どうやってやるのか教えて!》
……お?てっきり燎火怒ってるのかと思ってたけど、自分から楓香に教えを乞うとは……。ごめん、燎火のこと誤解してたみたい。
《いーよ!えっとね、うーってして、どんってするの!》
ニコニコとそう説明する楓香。うん楓香、それ説明になってないよ……。
《分かるわけないでしょー!》
やっぱりそうなるか。楓香は感覚で魔法を使っているのだ。それを口で説明しろと言われても、彼女にとっては難しいのだろう。
しかし楓香の言葉で少しコツをつかんだ精霊が1人。
《あ、出来た……》
蒼仁だ。目の前の地面が少しだけ盛り上がっている。
蒼仁が振り返るとそこには、楓香以外の3人の、今ので分かったの……?という顔。蒼仁は苦笑しながら3人にコツを教え始めた。
《まずは小さなことからイメージするといいかも。例えば俺だったら土をぼこっとさせる、とかね。多分楓香の言ってた、うーってのはしたいことをイメージすることだと思う。で、どんっていうのでそのイメージを外に出すんだよ》
蒼仁、説明が分かりやすい。3人もなるほど、というような顔をしている。
蒼仁からコツを教えてもらった3人は、再び各自で練習を始めた。その間、私は特にすることが無い。とりあえず、皆の練習風景を見守ることにする。
《小さなこと……?》
小さなことからイメージすると良い、という蒼仁のアドバイス通り、練習していたが、小さなことがそもそもどういうものなのか、分からなくなってしまったらしい。
確かに、楓香の風はどこにいても感じることが出来るし、蒼仁の土も目線を下にすればそこにあるものだ。木蓮もイメージの対象には困ってはいないようだが、問題は燎火と和泉だった。
《火なんてどうするの……》
《水……》
途方に暮れている2人。
保育士として働いていた時、似たような状況があったのを思い出す。保育士は、子どもたちが遊んでいる途中に、「指示」を出すことはない。「指示」ではなく「声かけ」を行うのだ。しばらく遊んでいると、その遊びはマンネリ化してしまうからである。そのためそこにアレンジを加えていくのだが、その時にアレンジのきっかけとなるのが「声かけ」だ。
例えば段ボールで電車ごっこをしている時。ただ段ボールの中に入って歩き回るだけではすぐに飽きてしまう。そこに「電車って誰が運転してるの?」などと聞くと、「運転手さん」という答えが返ってくる。すると次は「じゃあ運転するハンドルを作ろう」という風に、子どもたちの発想がどんどん広がっていくのである。子どもたちの成長の手助けをする仕事、保育士。子どもたちが持つ様々な力を、日々の遊びを通してどれだけ伸ばすことが出来るかは、私たち保育士の腕の見せ所だ。
「燎火、和泉、ちょっとおいで?」
《なーにー》
《何?ユカ》
ありゃりゃ、燎火が拗ね始めちゃってる。
「2人とも今困ってた?」
《だって火なんてないもん》
《水も……》
まずは状況確認。これをすることで本人たちの気持ちも整理できる。
「んー、そうだね……どうしよっか」
《火ないもん、出来ない!》
《……》
だいぶ色々と溜まってたみたい。各々感情がようやく表に出てきた。燎火も和泉も悔しかったのだろう、涙をこらえてこらえて、遂に目の端からあふれ出す。
「ねぇ燎火、火ってどんなのだっけ?」
《火は火でしょっ!》
「和泉はどう思う?」
《火……熱い……?》
「そうだね、熱いよね!他には?」
《えっと、赤い……?》
「確かに!すごいね、いっぱい知ってるね和泉!」
《りょ、燎火も分かる!えっと、えっと……あ!明るい!》
「おぉ!燎火もよく知ってる!」
《んふ、だってユカが言ってたもん。燎火のお名前、明るいって》
燎火の気分が持ち直してきた。名前の由来から火がどんなのか思い出すなんて……覚えててくれたんだな、あの時の話。こうしてクイズみたいにすると、答えたいという気持ちが出てくるので、楽しんで理解を深められる。
「そうだよね、火って、熱くて赤くて明るいんだったよね」
《そうだよ!ほら、こんな感じ!》
楽しくなってきた燎火がそう言うと、顔の前で両手を合わせる。その上に、小さな炎が現れ、揺らめき始めた。
「燎火、出来てるよ!」
《すごい!すごい、燎火!》
こんなにもすぐに出来るとは思わなかった。燎火の手のひらの上で確かに揺らめく、熱くて赤くて明るい炎。和泉も興奮している。
《で、出来た……》
ほとんど無意識だったのか、燎火が一番驚いていた。
「おめでとう、燎火!」
《えへへ、ありがと、ユカ。和泉も》
これで自信がついたのだろう、燎火の顔は晴れやかだった。
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