第11話

 いつの間にか、水晶玉が映し出す精霊は、水色の光を放っていた。


 《風の精霊ですじゃ。風の精霊は風や空気を操ることを得意としますじゃ》


 風の精霊が、そよ風から暴風まで思いのままに操る様子が映し出される。現れた敵に対しては、空気の塊を投げつけたり窒息させたり、しまいには風そのもので切り裂いたりと自由自在だ。


 《それから彼らは、声を聞き、届けることが出来ると言われておりますじゃ》

 「声?」


 おじじの言葉に合わせて、精霊が遠くの声を聞く様子や動物たちと話す様子が映し出された。


 《おー!すごーい!》


 風の精霊が動物と話しているのを見て目を輝かせる楓香。あの子、他人事みたいに感動してるけど、自分のことだって分かっているのだろうか……。


 私の心配をよそに、すごいね!すごいね!とはしゃぎながら、くるくると飛び回って木蓮にたしなめられている。……うん、元気なのは良いことだ。


 《そして最後に土の精霊ですじゃ》


 水色の光が消え、黄色の光を放つ土の精霊が現れる。

 腕の中の蒼仁が少し緊張気味に体をこわばらせたのが分かった。


 《土の精霊は土や大地を操るのですじゃ》


 土の精霊が一瞬で畑を耕したり、家を形作ったりする。敵が現れると、土で人形を作って戦わせたり、大地を操って戦ったりした。


 その迫力に、蒼仁は静かに感動しているらしい。ちなみに和泉は怖がっていた。溺れさせたり干からびさせたりする方が怖いと思うんだけどな……。まぁ、言わないけどね。


 《土からは金属や宝石も作られますじゃ。土の精霊はそれらを加工することも得意なのですじゃ》


 金属を加工して農具を作る精霊。

 宝石かぁ、宝石なんて元の世界でも見たことないな……。


 水晶玉が映し出すキラキラした宝石に、蒼仁だけでなく皆も釘付けになっていた。


 《木、火、水、風、土、この5つの精霊が五大精霊と呼ばれる精霊たちですじゃ》


 土の精霊の隣に、それまで出てきた精霊たちが並んだ。その光景は圧巻だった。


 その姿に私が見とれていると、楓香が私の腕の中の蒼仁の手を掴んで引っ張り始める。蒼仁はその意図に気がついたらしいが、上手く飛べないのが分かっているので困っているようだ。すると和泉が蒼仁のもう片方の手を掴んで空中に飛び上がった。はてなが飛んでいる燎火も、木蓮が引っ張っていく。そして5人は私の前に一列に並んだ。ちょうど水晶玉に映る精霊たちがそうしているように。


 皆、嬉しそうな誇らしそうな顔で私を見ている。その姿を見ていると、ふいに泣きそうになった。この世界に来てからなんだか涙腺が緩んでいるようで困ってしまう。



 《ユカ殿、この子たちを連れて行ってくださりませんかの?》


 突然、おじじが言った。一列に並ぶ精霊たちの後ろで、孫を見るような優しい笑みを浮かべるおじじ。この子たちが小精霊だった頃からずっと見てきたからだろう。大きくなった精霊たちの姿を見て、その笑みは嬉しいような、でもどこか寂しいような笑みだった。


 「……連れて行くって、どこへですか……?」


 おじじは精霊たちを共に連れて行ってほしいと言った。だけど私は、おじじにも精霊たちにも、どこかに行くと言ったことはない。


 《この森を出るのでしょう?》


 …………あぁ、分かっていたんだ。やっぱりおじじにはばれていた。あれだけ心が読めるのなら当然な気もするが、何も聞かずに送り出そうとしてくれるおじじは、私の微かな迷いすらも分かっていたのだろう。優しいおじじの話し方が、今はより優しく感じられた。


 《え、ユカ、どこか行くの?》

 《……》

 《ユ、カ……?》

 《いなくなっちゃうの?》

 《ユカ、どういうこと?》


 おじじの言葉を聞いて、精霊たちが口々に不安そうな顔で私に問いかける。もう黙ってはおけない。全て話すしかない。そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る