第10話
《上手く飛べなかったのは土の精霊だったからですじゃな》
名付けの様子を黙って見守っていたおじじが納得したように呟いた。
「土の精霊は飛べないんですか?」
《精霊は各々の属性によって得意な分野が異なるのですじゃ》
そうか、やっぱり属性によって違うんだ。だったら、和泉が心読めるのも水の精霊の得意分野だから……?
「あの、和泉が、手に触れただけで私の考えてることが分かったみたいなんですけど……」
私が言うとおじじは、ほぉ、と感心するような顔をした。
《ユカ殿、精霊についてお話しましょうかの》
すぐにニコニコ顔に戻ったおじじは、そう言うと精霊図の部屋の方へ飛んで行く。私も急いで後を追いかけた。蒼仁も一緒についてきていたが、途中でどこかに行ってしまった。
精霊図の部屋は、前回見た時と何も変わっていない。私が力を与えた種は、未だ若々しさを保っていた。
《ユカ殿、こちらへ》
おじじは部屋の中心にある水晶玉のところにいた。
おじじが手をかざすと、水晶玉はぼわんと淡い輝きを放ち始める。少し待っていると、光がゆらゆら動きだし、緑色の光を放つ精霊の姿になった。
「木蓮……?でもちょっと違うような……」
《この精霊は最初の木の精霊ですじゃ》
《これが最初の……》
いつの間にか私の隣には木蓮がいた。いや木蓮だけでなく、燎火と和泉、楓香に蒼仁も。精霊全員が集合していた。ちなみに燎火はなぜか私の頭の上に乗っている。それと、隣では蒼仁がめいっぱい背伸びをしていたので、見やすいように抱きかかえた。それをうらやましそうに見つめる和泉。いや、あんな顔されたら抱っこするしかないよね……。
「え、皆どうして……」
《俺が呼んだんだ。俺たちに関係することみたいだったから、聞いておいた方が良いと思って》
蒼仁が仕事出来すぎる……。思わず頭をよしよししてしまった。その様子を見ていた燎火や和泉が、無言で頭を差し出してきたのは……まぁ、想像に難くないだろう。
《木の精霊が得意としたのは、植物を育てることですじゃ》
私たちが話し終わったのを見たおじじが喋り始める。おじじの言葉に合わせて、水晶玉が作り出した精霊も動き、精霊が手をかざすと、周囲の木や花がどんどんと伸びた。
《植物に関係することならば、どの精霊にも勝りますじゃ》
精霊に、猪のような動物がものすごい速さで近づいてくる。木の精霊はそれに対し、
《わぁ……》
夢中で見ていた木蓮が感嘆の声をあげる。
《それから植物の生命力を、他の生き物に応用して治療を行うこともあるそうですじゃ》
怪我に苦しむ動物が映し出される。精霊が手をかざすと、苦しんでいた動物は少し楽そうになった。
《傷自体を治すことが出来ぬ代わりに、回復力を上げることが出来るようですじゃな》
木蓮が自分の手を見て嬉しそうにほほ笑む。
おじじが再び水晶玉に手をかざすと、木の精霊を形作っていた光が霧散し、代わって赤い光を放つ精霊が現れた。
《火の精霊ですじゃ》
私の頭の上の燎火が少し身を乗り出したのを感じた。
《火の精霊が操るはまさしく火ですじゃ。明かりのための火や、ものを燃やすための火など、火の精霊に操れぬ火は無いのですじゃ》
映し出されたのは、真っ暗な場所で明かりとなる火や、凍える人を温める火を出す精霊の姿。最後に精霊は、自分の出した青い火や赤い火、手に持てる火など様々な種類の火に囲まれた。
燎火は、操れぬ火は無い、と言われたのがよほど嬉しかったのか、頭の上でふんすふんすと鼻息が荒い。
《危険が迫ると、もちろん火を使って身を守りますじゃ》
迫りくる敵に対し、精霊は炎の壁を出したり炎の矢を放ったりして応戦する。
精霊が相手を倒すたびに、なぜか燎火が誇らしげにしているのが、姿が見えなくても分かり、微笑ましい。
《そして水の精霊ですじゃ》
火の精霊が纏う赤い光が、青に変わる。
《水の精霊は水を司る精霊、水を操ることを得意としますじゃ》
水の精霊が雨を降らせたり、生み出された水を動物たちが美味しそうに飲んだりする様子が映し出される。しかし敵に対しては、溺れさせたり干からびさせたりとなかなかえげつない戦い方をしていた。
それから和泉が私の腕の中でぴょんぴょんしていて可愛い。
《そして、水の精霊は生き物の体に干渉できるのですじゃ》
水晶玉が映す水の精霊が、怪我をして倒れている動物に手をかざすと、怪我が徐々に治っていった。
和泉の目はもうキラキラ輝いて、興奮しているのがすごく伝わる。
「あ、じゃあ和泉が私の心を読めたのも、生き物の体に干渉できるから……?」
《そのようなことも、ごく稀にあったようですじゃ。しかし体に干渉できても、頭や精神に干渉するのはまた違うのでしょうの。和泉がユカ殿の心を読むことが出来たのは、ただユカ殿を強く想っていたからだと思いますじゃよ》
疑問だったことをぶつけると、そんな返事が返ってきた。恥ずかしかったのか、和泉が顔を手で隠して、指の間からこちらを覗いてくる。思いっきり抱きしめたくなったが、話が進まなくなるので頑張って我慢した。
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