第8話
昨日はあれからそのまま深く眠ってしまったらしい。目を覚ますと、お腹の上に和泉が寝ていた。程よい重さと温もりで心地良い。燎火と木蓮の姿はない。代わりに、見たことの無い精霊が隣で眠っていた。
「え、いや、ちょっと……え?……誰この子……」
うっすらと水色に光る女の子の精霊。私の手の上で寝ている……。
「せめて起きてるときに来てよ……」
寝ている間に起こったであろうことを想像して頭を抱えたくなるが、無邪気な寝顔を見るとそんな気も吹き飛んでしまう。起きたら教えてあげようと、私はそのままこの子の名前を考えることにした。
「いや、この子何の精霊か分かんないじゃん」
思わず声に出してつっこんでしまった。
癖のある髪の毛はフワフワしていて、活発そうな見た目。でも大きさは和泉と同じくらいで、木蓮や燎火よりも小さい。ちなみに木蓮が一番大きい。皆そんなに差はないけどね。
木の精霊の木蓮が緑、火の精霊の燎火が赤、水の精霊の和泉が青に光っていたことを考えると、水色に光るこの子は……。
《風の精霊ですじゃ》
耳元でおじじ。驚いて思わず大声を出しそうになるのを必死でこらえた。本当にどう察知して現れるのだろう。
「風の精霊か……」
ひとまずおじじのことは置いといて。
《ん、うぅ》
「お、起きた?」
風の精霊がもぞもぞと動き始めた。眠気でまだ開かない目をしぱしぱさせて私を見てくる。
《ん、ん?》
状況がつかめないらしい。あなたが自分で来たんでしょうに。
「おはよう。あなたいつ来たの?」
《んー?あ!そうだった!ユカに会いに来たら寝てたから、お隣で一緒に寝たんだった!》
私が聞くと、少し考えるそぶりを見せた後に、全てを思い出した顔で言った。この子は見た目通り活発そうな子だ。
「うん、やっぱり決めた」
《んぇ?何を?》
風の精霊が喋っているところを見て、私はこの子の名前を確信した。
「あなたは
《??》
「ふふ、あなたのお名前だよ、楓香」
ピンと来てない顔の楓香。何度か呼んであげると、だんだんと理解したようで笑顔になった。
《楓香!僕、楓香!》
「え、まさかの僕っ娘?」
まさかの事実が判明したが、とりあえず楓香という名前は気に入ってくれたようだ。一安心一安心。
《ユカと楓香、お揃いだねっ?》
かと思えばとんでもなく可愛いことを言ってくる。狙ってるとかそんなんじゃなく、ただただ思ったことを口にしたのだと分かるからこそ、その破壊力は凄まじい。
ニコニコな楓香と悶える私。さすがにうるさかったのだろう、和泉が目を覚ました。一応言っておくと、長老様はすでにふらっとどこかへ消えている。
《おはよ、ユカ…………???》
突然現れた見知らぬ精霊に、頭が?でいっぱいになる和泉。楓香はそんな事お構いなしに和泉にじゃれついている。
「おはよう、和泉。この子は楓香。風の精霊だって」
《楓香……おはよ》
《おはよー!……?》
《あ、僕、和泉》
《……!和泉おはよー!》
挨拶を返してから、和泉の名前を知らないことに気がついたらしい。この子はほんとに……。
というか、この件で新たに分かったことが1つ。私の手に宿る母精霊様の力は、私が意識しなくても常に影響を及ぼすらしい。つまり、寝ている間でも条件の揃った小精霊が触れれば、精霊化してしまうということだ。うっかりまだ精霊化したくない子たちに触れてしまったら……。
《精霊化を望む子にしか影響しないはずですじゃよ》
また耳元におじじ。昨日は和泉が心読めるんじゃないかってびっくりしてたけど、おじじこそ心読んでるよね?あ、こういう時ついついおじじって言っちゃう。
《おじじでいいですじゃよ?》
やっぱり心読めてますよねぇ!?
いたずらっ子のような顔でニコニコ微笑む長老様……もとい、おじじ。
「精霊化を望む子にしかって?では木蓮は精霊化を望んでいたと?」
気を取り直しておじじに聞く。
《そうでしょうの。ふむ、何と言えばよろしいでしょうかの……》
私に分かりやすいように説明しようとしてくれているようなので、黙って待つ。
《精霊化するための最後のピースが本人の想いなのですじゃ。すべてのピースが揃い、そして本人の中に精霊になりたいという想いが芽生えた時、初めて小精霊は精霊となることが出来るのですじゃ》
分かりやすい。想いが大切なのか。木蓮は今まで精霊になりたいけどなれなかったんだ。確かに他の子たちに比べて大人びている。精神年齢も高そうだし。でも良かった、おじじのおかげで不安が1つ解消されたよ。
《どういたしましてですじゃ》
あぁ、もう、うん。何も言わない。
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